ここぞというゲームを落とした致命的な勝負弱さ~井上竜2025総括(采配編)

3年連続最下位という、球団史上でも最悪の低迷状態からの逆襲をめざす中日ドラゴンズ。新たに井上一樹監督が指揮を取った2025年(令和7年)ペナントレースが終わった。結果は4位と最下位は脱出したが、多くの課題が浮き彫りにもなった。新生・井上竜1年目の戦いをふり返る。今回は残念ながら、シーズン後半に失速してしまった「采配編」。(敬称略)
勝負どころで必ず負けた
応援するファンの心情も“乱高下”をくり返す日々だった。立浪和義前監督が指揮を取った3年間と比べると、今季のドラゴンズの躍動感は増したという印象だ。劇的な逆転勝利など、ファンとして熱くなるゲームも多かった。一時は、リーグ2位にも手が届くほどの勢いを見せた。しかし「この試合で勝てば」というゲームを、ことごとく落としてしまった印象が残る。ここでの1勝、いわゆる“勝負どころ”で勝ち切れなかった。全力応援しながら最後はため息をついた数々の試合が、悔しさを伴って浮かんでくる。
痛恨の逆転負けで8連勝ならず

まず思い出すのは、夏休み最初の日曜日だった7月20日、本拠地バンテリンドームでの横浜DeNAベイスターズ戦である。ここまで7連勝中だった。福島での讀賣ジャイアンツ戦で、細川成也が昨季までの同僚だったライデル・マルティネスから起死回生の3ランホームランを打った。劇的な逆転勝ちから、チームは波に乗った。
連勝中は“負ける気がしない”。この試合も、7回裏に田中幹也が2点タイムリーで3対1にした時点で「勝った」と思った。しかし、抑えに登場した清水達也が乱調で同点に追いつかれ、守備固めでレフトに入った尾田剛樹の後逸もあって痛恨の逆転負け。8連勝、そして、2位浮上も消えた。7連勝のムードは一気に暗転して、連敗が始まった。
勝ちパターンの試合を落とす
お盆を前にした8月10日、この日も日曜日だった。選手たちは昇竜デーで「銀河」をモチーフにした特別ユニホームを着て戦った。先発はしばらく勝ち星から遠ざかっている松葉貴大。広島東洋カープに0対1とリードされていたが、ジェイソン・ボスラーの逆転2ランホームラン、さらに、ブライト健太の2点タイムリーで、5回を終えて4対1と完全に勝ちパターンだった。
しかし、直後に松葉が同点3ランを打たれる。再度リードするも、今度はリリーフの橋本侑樹が一気に逆転を許して、まさかの敗戦となった。投手交代や代走起用の遅れも目についた。“竜の勝ちパターン”を落としたゲームに、中継の解説を担当していた谷繁元信さんも「これは痛い」と絶句していた。
左打者ばかりの打線で敗れる
そして、夏休み最後の日となった8月31日、またまた日曜日なのだが、結果的に竜のペナントレースを左右した致命的な敗戦が訪れた。横浜でのベイスターズ戦、前日までの2試合は打線が絶好調で、いずれの試合も9得点を挙げていた。このゲームに勝てば、ここでも2位浮上の可能性もあった。しかし、相手の先発は右打者への死球が多い藤浪晋太郎、ベンチは2週間前に続き、適任者がいなかったショート以外、今回も左打者をずらりと並べるスタメンを組んだ。絶好調の打線をあえて組み替えたのである。
結果は敗戦、藤浪はメジャーから日本球界に復帰して初勝利となった。翌日の9月に入って、ドラゴンズは月間9勝15敗と一気に失速した。
ベンチ采配へ数々の疑問
実際にプレーする選手たちが、相手に比べて力及ばずであったこともある。ただ、それ以上に、今季新しく生まれ変わったベンチの采配はどうだったのだろうか。
スタメンで起用する顔ぶれは最善だったか?
先発ローテーションの回しに柔軟性はあったか?
代打や代走の起用は適材適所だったか?
投手交代のタイミングやリリーフの順番は的確だったか?
そして、「どらポジ」というスローガン通りに、ポジティブ(積極的・肯定的)に前向きな戦いに終始できたか?
応援してきたファンの立場でも、多くの疑問が残っている。シーズンは4位となり、4年連続の最下位こそ防ぐことはできたが、クライマックスシリーズには、もう13年間も出場できていない現実は来季の宿題となった。
ドラゴンズはまだまだ弱い

胸を熱くした試合も例年以上に多かった。しかし、終わってみれば63勝78敗2分、借金は15と、立浪監督3年目の昨季と同数である。すなわち、まだまだドラゴンズは弱いのである。そんな中でも、岡林勇希の最多安打、そして松山晋也の最優秀救援投手といった、他球団に負けない選手たちの活躍もあった。2軍はファーム日本選手権で14年ぶりに優勝し、森駿太ら期待の若手も台頭してきている。こうした戦力を束ねるベンチワークも、今季は不在だったヘッドコーチの必要性含めて、検証が求められよう。
球団創設90周年を迎える来季は、本拠地バンテリンドームに「ホームランウイング(仮称)」ができるなど、ドラゴンズの野球も節目を迎える。それに見合った戦い、そしてチーム編成は待ったなしである。井上竜2年目の戦いは、すでに始まっている。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。