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その采配は本当にポジティブだったのか?井上ドラゴンズ本拠地での戦い終える

その采配は本当にポジティブだったのか?井上ドラゴンズ本拠地での戦い終える
井上一樹監督(C)CBCテレビ

バンテリンドーム5階席で観戦した本拠地最終戦は、讀賣ジャイアンツ相手に、実に痛快な逆転勝利だった。しかし、試合後のセレモニーで挨拶に立った井上一樹監督は、監督としての1年目のシーズンをふり返り、こう語った。「自分自身『どらネガ』みたいな月日もあった」と。(敬称略) ※ネガ=「ネガティブ(消極的・否定的)」の略

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「どらポジ」での粋な演出

バンテリンドーム最終戦:筆者撮影

2025年(令和7年)シーズンから指揮を取った井上監督が、就任から口にした合い言葉は「ポジティブ(積極的・肯定的)」。チームスローガンも「どらポジ」、春季キャンプも「ポジティブ・バトル」と名づけられた。実際、沖縄のキャンプ地のムードはここ数年になく明るく、選手たちも伸び伸びと練習に打ち込んでいた。

ペナントレースに入ってからは、驚きの演出が待っていた。バンテリンドームで勝利した時は、ゲームセット後に全員がマウンドで円陣を組んで、その試合で頑張った選手の音頭で勝利の一本締めをする。その後、スタンドのファンと共に「ドラゴンズ!」と叫ぶ。素晴らしい演出だった。9月21日の最終戦でも、日米通算200勝をめざしていた田中将大から逆転2ランホームランを打った、ルーキー捕手の石伊雄太が締めた。

立浪時代と変わらぬ負け越し

そんな1年目の井上ドラゴンズだったが、待っていた現実は厳しい。本拠地での戦いを終えて、60勝75敗2分と負け越しは15もある。(成績は9月21日現在)。3年前、立浪和義前監督の1年目の借金は9、3年連続最下位に沈んだ昨シーズンの最終的な借金は15だった。井上監督に替わった今季、好ゲームも多かった印象なのだが、実は相変わらず負け続けている。首位の阪神タイガースと最下位の東京ヤクルトスワローズに勝ち負けが偏った結果、全体バランスの中で、今は4位にとどまっているというのが現状なのだ。

本当に“前向き”だったのか?

井上監督自身が述懐したように、「ポジティブ」いう言葉を繰り返しながら、ベンチの采配は“前向き”を貫けたとは言い難い。井上監督が2軍監督時代、ナゴヤ球場のベンチはやたら元気だった。「自分を使ってくれ!という選手からのアピールがすごい」と井上監督自身も語っていた。たとえ負け試合でも、元気に声を出して全力で戦い続ける、それは相手チームが呆れるほどに。今季は竜のそんな「ポジティブ」な戦いぶりに期待していただけに、残念な思いが残る。

藤浪対策の左打線の末

象徴的な試合を挙げるならば、メジャーから日本球界に復帰して、横浜DeNAベイスターズに入団した藤浪晋太郎と対峙したゲームである。コントロールに難があり、特に右打者への死球が多い藤浪対策として、初対戦となった8月17日、井上監督は9人全員が左打者という打線を組んだ。さらに、2週間後の8月31日、3位のベイスターズと4位のドラゴンズの差は0.5、もし勝てばAクラスに入るという試合でも、ショート以外は左打者ばかり並べた。ここぞと言う正念場でベストオーダーを組まない采配、このどこに「ポジティブ」があるのだろうか。ゲームに敗れ、それ以降、クライマックスシリーズ出場への可能性は一気にしぼんでいった。

好投の金丸またも援護なく

金丸夢斗投手(C)CBCテレビ

9月17日から21日までの本拠地ラスト5連戦でも、度々試合運びの“綻び(ほころび)”が散見された。金丸夢斗が先発して、7イニングを1点に抑えたゲームでは、相手の先発・東克樹を攻略できず、0対1で敗れた。細川成也がヒットで出塁した後、5番とはいえ福永裕基に送らせる作戦はなかったのか。あまりにも無策で、好投した金丸をまたも“見殺し”にした。

涌井秀章が先発したゲームは、投手交代のタイミングが遅かった。勝利投手の権利を前にしても、5回表にピンチを迎えた時に涌井を替えるべきだった。続投の末、横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智に逆転ホームランを浴びた。直前に「ホームランは駄目だぞ」と伝えたと言うが、それは応援観戦している我々ファンでも分かること。ホームランをどう避けるかが大切なのである。さらに、リリーフの藤嶋健人を次の回もマウンドに送り出して追加点を奪われた。過去に藤嶋は“回またぎ”で失敗している。こうした采配は「ポジティブ」だったのだろうか?

中田翔ラストゲームの「?」

今季限りで現役を引退する中田翔の引退セレモニーの試合では、不思議な光景があった。クライマックスシリーズ出場の可能性がわずかでも残されていた時点での引退セレモニーには、正直、反対だったが、決まった限りはファンとしてもきちんと送り出したい。「4番・ファースト」でスタメン出場し、初回にやって来た最初の打席で三振。これが中田の現役ラスト打席だったと思ったが、どうもそんなムードはベンチに感じられず、中田は次の2回も守備に付いた。もう1打席あるのかと思ったら、1死ランナー1塁になったところで交代し、ベンチに下がった。スタンドのファンも労いの“拍手のタイミング”を逸していた。ベンチ内のコミュニケーションは、うまく取れていたのだろうか。

本拠地ドームは満員続き

バンテリンドーム最終戦:筆者撮影

それでも、ファンは熱い応援を続けた。最終戦セレモニーでは、ホーム来場者数が252万832人で、過去最多と発表された。1試合平均3万5,000人を超えている。野球そのものよりも、ペンライトなどでの応援を楽しみたいファンが増えていると球団フロントも語っていたが、満員の観客は間違いなく選手の後押しになる。しかし、プロ野球は勝負事であり、勝負事は勝たなければならない。弱いチームからファンはいずれ離れていく。13年ぶりのクライマックスシリーズ出場が途絶えた今、もう来季への戦いの号砲は鳴ったのだ。

最終戦セレモニーに拍手を送りドームを出た時、ようやく訪れた秋の夕暮れの気配に、応援で火照っていた体が包まれた。2025年シーズンも、残りビジターでの6試合だけとなった。ここで真の「どらポジ」野球を見せられるかどうかが、井上ドラゴンズ2年目の来季につながっていくことは言うまでもない。
                                                           
                     【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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