「命ですね。スライダーがなければ橋本侑樹じゃなくなる。」ドラゴンズの背番号13が獲得したキラーボール

「とある妄想しがちなファンのドラゴンズ見聞録」
CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日午後12時54分から東海エリアで生放送)を見たコラム
あっという間に開幕まで2週間を切り、実戦を経て陣容も明らかになってきたドラゴンズ。打撃陣は若手の台頭も目立ち、ポジションも徐々に埋まりつつあるのを感じる。
その中でまだ競争の最中にあるのは勝ちパターンだ。昨シーズンは7回清水達也投手、8回松山晋也投手、9回ライデル・マルティネス投手だったが、オフにマルティネス投手が移籍し配置転換を余儀なくされた。長年ドラゴンズの勝ちパターンを支えたレジェンドの岩瀬仁紀氏は、勝ちパターンについて現状は実績のある投手が有力だが、先日実戦初登板したユニオル・マルテ投手は、まだピッチングは未知数だけど、育成から成長を遂げたマルティネス投手の事例もあるので、可能性として楽しみな部分もあるとした。
そこで、新たな勝ちパターンを松山投手は9回、清水投手は8回と去年の実績と安定感を重視したかたちで予想した。また7回には橋本侑樹投手の名前を挙げた。昨シーズン、ブレイクした橋本投手に勝ちパターンとして入ってほしいと期待した。その勝ちパターンとして、もうワンランク上の成長を遂げるためにした岩瀬氏のアドバイスはこうだ。

「確かに逸品のスライダーを投げてますけど、もう少し抜けるボールを減らしたらもっと良いピッチャーなりますよね。そこの精度と言うところですね。」
そんな期待を背負い、ドラゴンズから侍ジャパンに初選出された橋本投手に迫ります。
侍ジャパンでは「もっと投げたかった」初選出の思い

数々の記録や記憶に残るレジェンド岩瀬氏の背番号を引き継いだ橋本投手。その並々ならぬ重圧を跳ね除けて、投手としての実績を着実に積み上げ、昨シーズンは47試合に登板し防御率1.73とキャリアハイの成績を残した。そのピッチングが認められ、侍ジャパンに初選出されたときの気持ちについて少年のようにキラキラと目を輝かせながらこう言った。
「すごい選手の集まりなんで楽しかったですね!」
3月5日のオランダ戦では1回を投げて無失点で一つの三振を奪う上々のデビューだった。
「登板までは緊張するんですけど、登板が終わって振り返ってみると楽しかったなと思いますし、もっと投げたかったと正直思いました。」
世界を相手にしても十分に戦えるスライダーという武器を、橋本投手は手にしていた。大舞台での緊張感と達成感のカタルシスを味わい、その自分の最大限の力でピッチングそのものを楽しんでいた。
「みんなと同じようなスライダーを投げているつもりなんですけど。反応を聞くと『大きく曲がる』とよく言われますし、『壁に当たって曲がってくる』という表現もされます。意識していることは、真ん中高めに投げること。曲がらなくてもいいと思っています。」
侍ジャパン投手コーチの吉見一起氏はそのスライダーについてこう評価する。

「こういった言葉を使っていいか分からないですけども、殺人系のボールを投げると言うか。変化量も多いし変化する場所も遅いし。岩瀬さんと比べると失礼ではあるんですけども、ちょっと人にはないスライダー持ってるんじゃないかなと。岩瀬さんみたいなスライダーを持っていると僕は思っていますね。」
照れながらも嬉しそうに「自信になります。」と答える橋本投手は、プレッシャーと期待を大きく背負った同じ背番号の大スターと同じ球種で、大きく胸を張って投げられる自分だけのキラーボールを獲得していた。
「スライダーがなくなれば橋本侑樹じゃなくなる」決め球にかける思い

様々な人から絶賛される変化球を操る橋本投手。その強みをしっかり活かしてキャリアハイの成績を残して侍ジャパンでも経験を積んだ彼には、さらに大きな目標がある。
「やっぱりリリーフをやっている以上はセットアッパーになって、そこで良い成績残してから、クローザーっていうのは、やっぱり目指していきたい。今なら球種でいえばスライダーが1番ずば抜けているという自信もあるんですけど、やっぱり(ドラゴンズ救援陣の)レベル高いんで 何かがズバ抜けてないとセットアッパー、クローザーという位置は掴めないと思うんで、僕が良い場面で投げられるようになったらもう1つリリーフの層が厚くなるかなと思っています。」
そう語る橋本投手の目には、強い自信が感じられた。世界を相手にした心強いスライダーがその自信をしっかりと支えているのだろう。そのスライダーは橋本投手にとってどんな存在なのかを答えた。

「命ですね。スライダーがなくなれば橋本侑樹じゃなくなるんで。スライダーっていうのは、心臓と一緒ぐらい大切なものです。」
穏やかに受け答えをする橋本投手から、不意に出た重みのある言葉。身体への負担も大きいスライダーという球種。改めてそこに強いプロの覚悟と、それ故の儚さをも感じた。命と例えるほどに橋本投手の全てが込められたボールで鮮やかに強打者を仕留めていく一挙手一投足を目に焼き付けていきたいと心から思う。頑張れ橋本投手!
澤村桃