最下位から脱出の手応えは?井上ドラゴンズが沖縄キャンプで手に入れた成果
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井上一樹新監督を迎えた中日ドラゴンズの沖縄キャンプが終わった。特に前半は、沖縄らしからぬ寒い日々が続いたものの、大きなケガ人もなく、一方で「ポジティブ・バトル」を掲げて大きな話題を提供し続けた印象だ。オープン戦も始まり、いよいよペナントレース開幕まで1か月となった。(敬称略)
井上色が全開のキャンプ
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まさに「ドラゴンズが変わった」というイメージチェンジお披露目の日々だった。1軍の北谷町と2軍の読谷村は、連日、多くのファンでにぎわった。2つの球場を結ぶシャトルバスも今回初めて運行されて、行き来したいファンにとっては歓迎だった。球場周辺で連日のように開催される、選手による臨時サイン会。井上新監督がバットを手に投手陣を鍛える「Dirty Hustle 99(ダーティー・ハッスル・ナインティナイン)」と名づけられた特訓ノック。キャンプ終盤には、グラウンドの一部をファンに開放して、間近に選手たちを見せる粋なサービスもあった。
他球団のフロントが「ドラゴンズのキャンプ地が、一番ファンでにぎわっている」と評価したそうだが、3年連続最下位のチームにとっては、特に必要不可欠な、明るさと元気さ全開のキャンプだった。
1ランク上がった宏斗
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そんなムードは上々として、肝心な戦力面での注目で、真っ先に名前が挙がるのは、高橋宏斗(※「高」は「はしごだか」)だろう。過去のキャンプでは、信奉する山本由伸(現ロサンゼルス・ドジャース)のすり足フォームを採り入れるなど、試行錯誤の場面もあった。しかし、今回はキャンプインから、1軍ブルペンでの堂々たる主役だった。背番号「19」が心地よく投げ込む剛球に、思わず時を忘れて見入ってしまうほどだった。醸し出すオーラも別格で、ドラゴンズにとって、待望久しい“全国区のスター選手”誕生を予感させた。宏斗は2025年、いよいよ本格的な“エース道”を歩む。
復活なるか?投手王国
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長く「投手王国」と呼ばれ続けたドラゴンズだが、実は高橋宏斗以外に“計算できる”先発投手陣がいないのが現状である。「築城10年落城1日」とはよく言ったもので、ここ何年かの内野手重視の選手補強の中、主力投手陣も全体的に年齢が上がってしまった。もちろん、ドラゴンズでの3年目を迎える涌井秀章はじめ、ベテラン陣もきっちりと投げ込んだ。
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そんな中、ドラフト2位ルーキーである吉田聖弥が“即戦力”の名に恥じない投球を見せていた。期待できそうだ。腰のコンディションから、無理をしない練習だったドラフト1位の金丸夢斗も、キャンプ後半には1軍ブルペンで投げたし、1年前のドラフト1位投手、草加勝もピッチングを始めた。新戦力の若手投手たち、楽しみである。
ライデルの後釜は誰?
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リリーフ陣は、このキャンプでも元気だった。かつて最優秀中継ぎ投手のタイトルを取った祖父江大輔と福敬登は、2軍の読谷ブルペンで、しっかりと調整をした。進境著しい橋本侑樹は、日本代表の侍ジャパンに招集されるほどの好調ぶりである。
ライデル・マルティネスが抜けた抑え投手には、松山晋也、清水達也、そして藤嶋健人が意欲を見せる。さらに、米国テキサス州出身のナッシュ・ウォルターズ、ドミニカ出身のジュニオル・マルテら新たな助っ人投手たちも力強い投球を見せていた。しかし、通用するかどうか、こればかりは実戦になってみないと分からない。開幕ローテーションと共に、オープン戦を戦う中で精査されていくことになる。
開幕スタメンも見えた!
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得点力不足に悩み続けてきた打線、さすがに今季こそ何とかしてもらいたいのが、ファンとしての切実な願いである。新しい背番号「7」で躍動している福永裕基、15キロという大減量をしてキャンプに臨んだ中田翔、長距離砲として侍ジャパンに選ばれた細川成也、久しぶりの1軍キャンプを順調に過ごした石川昂弥、そして、ひと回り体も大きくなって安定した打撃と守備を見せた村松開人。打線のリードオフマンが期待される岡林勇希も元気だった。キャンプが終わった時点で、開幕スタメンの顔ぶれが何となく予想できそうなことも、大きな成果である。
しかし「打線は水もの」と言われるように、目の前で実際にヒットを積み重ね、得点を増やしてもらうまでは、応援する側としても油断はできない。井上監督が直々に誘致した松中信彦・打撃統括コーチの方針で、とにかく「バットを振る」キャンプだった。その効果に期待しながら、決して楽観することなく、竜の打撃陣を見守りたい。
ほぼ忘れかけているクライマックスシリーズでの戦い、そして、遠い過去の思い出になりそうな優勝の歓喜。「そろそろ頼むぞ!」と竜党は誰しも願う。井上ドラゴンズは、今年の沖縄キャンプで、ファンからは熱い応援の確約を、そして、グラウンドの選手たちからは一皮むけた成長の手応えを、それぞれ手に入れたはずである。期待して裏切られ続けた何年かを経て、決して安心はしないが、開幕に向けての全力応援だけは誓いたい。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。CBCラジオ『ドラ魂キング』『#プラス!』出演中。