竜(ドラゴンズ)は秋の沖縄で爪を研ぐ・投手編~根尾、仲地、そして柳の現在地~
井上一樹新監督を迎えた中日ドラゴンズは、2年ぶりとなる沖縄県北谷町での秋季キャンプに入った。強化メンバーとして選ばれた22人の竜戦士が、3年連続最下位からの逆襲に向けて、野球漬けの日々を送る。「投手王国」復活に向かう投手陣、3人の投手を追う。(敬称略)
根尾昂~来季すでに7年目
アマチュア球界ナンバーワン左腕・金丸夢斗投手の指名権を引き当てたドラフト会議での井上新監督のガッツポーズ。それを見ながら6年前を思い出した。同じように4球団の競合の末、ドラゴンズが獲得した“甲子園のスーパースター”根尾昂。感動のドラフト、しかし、入団してからの日々は、周囲の期待とは裏腹の“いばらの道”であり、内野手、外野手そして投手と、そのポジションも紆余曲折が続いた。来季は7年目を迎える中堅選手である。その根尾が沖縄メンバーに選ばれた。応援するファンとして、ホッとする反面、いよいよ迎えた土俵際の時を痛感する。
投手としても土俵際
前任の立浪和義監督によって、野手から投手専任へと転向した根尾だが、先発投手としての足跡は刻めていない。2024年(令和6年)シーズンも1軍での登板は3試合、この内の先発は1試合だけで敗戦投手となった。井上新監督は「野手に戻す気はない」と明言、根尾はマウンドで活路を見出すしかない。時に乱れるコントロールをどう制御するか、決め球を確立できるか、先発ならば長いイニングを投げるペースとスタミナ配分を自分のものにできるか、秋の課題は多い。
根尾には他の選手にない、秀でた天性の才がある。それは「球場の空気を一瞬で変えること」。代打であっても、リリーフであっても、「根尾昂」の名前が場内アナウンスされた瞬間、舞台の空気は一変する。こんな選手はなかなかいない。練習熱心で知られる根尾だけに、7年目のシーズンに向けて、どうか沖縄での日々が実を結びますように。
仲地礼亜~けがに打ち勝つ体を
“地元”である沖縄に戻っての秋、仲地礼亜は何を思うのだろう。2022年(令和4年)のドラフト1位であり、ルーキー年に初勝利も挙げて、先発投手として順調な歩みを続けるはずだった。しかし、2年目のシーズン、度重なるケガが仲地を襲った。開幕前は先発ローテーションの一角に入ると思われたが、それを逃し、5月下旬の初登板では、いきなり右脚を痛めた。
2軍で成績を積み重ねて先発に復帰した夏、しかし、再び同じ場所を痛めて、2回のマウンドにその姿はなかった。仲地の体に何が起きているのか。その解明を進める中でも沖縄メンバーに選ばれたことは、期待の表れであろう。11月でも暖かい故郷で、とにかく走り込み、プロとしての頑強な体を作ることが求められる。先発して即降板、こんな姿は仲地には似合わない。3年目は、マウンドでキレのいい投球と飛び切りの笑顔が見られますように。
柳裕也~30歳投手が異例の抜擢
沖縄で汗を流すメンバーの中、唯一の30代が柳裕也である。2024年シーズンは、待望の開幕投手を務めながらも、そのピッチングは次第に本来のものとは程遠いものになっていった。好投しても打線の援護がなく、不本意な途中交代もあったが、柳クラスの投手になれば泣き言は許されない。ましてや選手会長である。投手陣、そしてドラゴンズを引っ張る意気込みは人一倍である投手だけに、規定投球回数にも達しない4勝5敗という成績は、不完全燃焼そのものであろう。3年連続最下位の責任を最も感じているはずである。
ファンとして柳に期待すること
沖縄キャンプで柳に期待するのは、全員が後輩である若手たちと一緒に汗を流す中で2つある。ひとつは、自分自身の気持ちをリフレッシュさせること。ファンとして見ていて、今季はベンチとの意思疎通がうまくいっていない部分を感じた。そのストレスを消滅させてほしい。そして、もうひとつは“ひとつ屋根の下”で過ごす後輩たちの心を、しっかりと教育してほしい。これだけ何年もチームが勝てていないと、どうしても“負け犬根性”が沁みつくものである。新監督の下での逆襲へ、若竜たちをうまくリードする期間であってほしい。おそらく、井上監督もそれを期待しての、秋の沖縄帯同だと信じている。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。CBCラジオ『ドラ魂キング』『#プラス!』出演中。