開幕6試合を勝率5割キープ!新生・与田ドラゴンズ野球の姿とは?
地鳴りのような大歓声がナゴヤドームを包み込んだ。
2019年4月2日、新生・与田ドラゴンズの本拠地開幕戦。相手はリーグ3連覇中の広島東洋カープ。8回裏1死満塁で代打・阿部寿樹選手の打球がセンター前に飛んだ。逆転の2点タイムリーヒット。阿部選手のガッツポーズを待ちきれないように、スタンドではファンのハイタッチの渦が広がった。
野球殿堂の魂が竜に点火
「立浪のヒットが火をつけたよな」
ゲーム序盤に隣の席に座っている見知らぬ男性ファンがつぶやいた。たしかにそうかもしれない。この日のナゴヤドーム開幕戦に合わせて、今年1月に野球殿堂入りしたドラゴンズOBの2人、権藤博さんと立浪和義さんによる始球式が行われた。権藤さんが投手、立浪さんが打席に立った。
そして始球式では極めて異例なことなのだが、立浪さんは権藤さんが投じた球をライト前に弾き返した。ナゴヤドームのファンは驚き、そして2人の粋な演出に大拍手を送った。1点リードされての2回裏、ドラゴンズは、ダヤン・ビシエド、福田永将、そして堂上直倫の3選手による3本のツーベースで逆転した。そう、立浪さんは22年間の現役時代に487本の二塁打を打ち「ミスター・ツーベース」と呼ばれた。ファンはこうして記憶と記録を大切にしながらドラゴンズを愛している。
開幕6試合を総括する
新生・与田ドラゴンズが開幕6試合を終えた。3勝3敗の勝率5割(4月4日現在)。
ここまでの印象は「しっかりした野球ができているなあ」という思いだ。
広島での開幕戦こそリリーフ陣が炎上し、逆転負け38試合という2018年シーズンの悪夢を思い出しかけたが、先発投手は踏ん張っている。6人とも試合を作った。
ゲーム運びに落ち着きが感じられるのは、ベンチワークがちゃんと機能しているからだろう。選手がそれに応えるか応えないかという以前に、ファンが見ても“腑に落ちる”納得の采配というものがある。
かつての落合博満監督時代のオペレーションは実に見事で、ファンもいろいろなことを気づかされた。キャンプの最初から「選手をしっかりと見る」と宣言してきた与田監督、そして首脳陣の新たなベンチワークに注目したい。
堂上に加藤に躍動する選手たち
今季の与田野球には「覚醒」「復活」「発掘」というキーワードが浮かぶ。
これまで期待されながらも活躍できなかった選手、また目立ってこなかった選手が開幕から躍動している。
堂上直倫選手は13年目にして初の開幕スタメンだった。ファンは覚えている。2006年のドラフト会議で3球団競合の末、ドラゴンズが獲得した地元・愛工大名電高校のスラッガー。残る2球団は讀賣ジャイアンツと阪神タイガースだった。
加藤匠馬捕手は2014年のドラフト会議で指名されて入団したが、これまで1軍ではわずか5試合しか出場していない。2018年は出場試合なし。その加藤選手が開幕スタメンのマスクをかぶった。その強肩を新首脳陣に買われてのことである。盗塁を刺すたびにスタンドのファンからは声が飛ぶ、「いいぞ!加藤バズーカ」。
この2人の他、昨シーズンまさかの無勝利ながら本拠地開幕を担った大野雄大投手、本拠地初勝利のヒーロー阿部選手、そしてFA移籍しながら1年目は活躍できなかった大野奨太捕手ら、今ドラゴンズでは「覚醒」「復活」「発掘」が胎動している。
「しっかり準備してきた選手を使う」与田監督の言葉に迷いはない。あとはチームに勢いをつける新戦力の台頭、「登場」というキーワードを待ちたい。
ミスなきドラゴンズ野球を!
一方で、守備、走塁、そして送りバントなど凡ミスも目立った6試合だった。ミスをしたチームが負けるというのは球界の鉄則である。6年連続Bクラス脱出に向けてミスをしている暇はない。
ナゴヤドーム開幕戦は、シーソーゲームを見事に制したドラゴンズが7対4でカープを破った。多くのファンがゲームセットまで見守り、与田監督と選手らに拍手を送った。
帰路、球場外にあるデッキの階段で、ひとりのファンがこう叫んだ。皆同じ気持ちだったであろう。
「やっと中日の野球が帰ってきた!これが見たかったんだ!」
【CBCテレビ論説室長・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。