捨てはせぬ!大量借金の与田ドラゴンズ、だからこそ“捨て身”の戦いを!
中日球場(現ナゴヤ球場)近くに生まれ育ち、親も熱心な竜党だったため、毎朝宅配の中日スポーツを読むことから一日が始まった。それは半世紀以上たった今も変わらない。その中日スポーツに1977年(昭和52年)ひとりのファンが詠んだ川柳が載ったことがある。心に残ったので日記帳に記録していた。
「捨てはせぬ 竜が捨て身で あるかぎり」
もう40年以上も前のもので“読み人知らず”なのだが、中日ドラゴンズが低迷する度に思い出す。2021年の今、心に痛いほど沁みる一句である。
「目標は優勝」ではなかったのか?
土壇場の8回裏に4番ダヤン・ビシエド選手のホームランで同点に追いついたものの、勝てはしなかった。負けゲームとしては「起死回生」、しかしペナントレースとしては「起死回生」ではない。借金チームの引き分けは負けに等しい。引き分け2つをはさんでの5連敗は継続中、借金は2ケタの「10」、3位の東京ヤクルトスワローズとは、実に「9.5」ゲーム差となった。(成績は2021年7月5日現在)
ドラゴンズファンからも、そうでない人からも、最近よく言われるのは「交流戦強かったのにどうしたの?」。日本一チームの福岡ソフトバンクホークスを撃破した印象が強いのだが、手が届くと思われた交流戦の優勝は、オリックスバファローズに奪われた。そこで勢いをつけたオリックスのパ・リーグ首位独走を横目に、本当にもったいないことをしたと地団太を踏む。
12球団トップの投手陣に何が?
ここへきての深刻な問題は、安定感抜群だった投手陣に陰りが見られることだ、チーム防御率はずっとリーグトップ、それどころか12球団でも1位だったのだが、いつのまにかリーグ2位、12球団でも3番目に落ちてしまった。奪三振の数と共に防御率もトップだった柳裕也投手が、交流戦の後半あたりから打たれ始めて失点が目立つ。ノーヒットノーランをやるか?というゲームがあったほど好投を続けてきた印象の勝野昌慶投手にも、実は4月28日の3勝目以降勝ち星がついていない。昨シーズンから続く「投高打低」が解消されない内に、白星というエネルギーが注入されない投手陣の歯車も狂い始めてしまったのか。
勝負弱い打線に特効薬は?
問題なのは攻撃陣である。気になる点が2つある。ひとつには、相変わらずどこか落ち着いてしまっている先発オーダー。ようやく5連敗後の7月4日の試合で、4番ビシエド以外の打順をすべて入れ替えたが、それも1軍登録メンバー内でのこと。1軍と2軍との選手入れ替え数は依然として少ない。もっともっとチーム内を動かして活性化するべきだ。そんな中、2軍で好調だった石川昂弥選手と岡林勇希選手が怪我をしてしまい、せっかく出場が決まっていたフレッシュオールスターゲームも辞退となった。シーズン開幕時の岡林選手。プロ入り初の開幕1軍だったが打席わずか1回だけで登録抹消、しかし2軍に降格した直後のゲームで4安打を放った。この残念な事実を象徴に、ドラゴンズ打線には“旬”が活かされていない。そして気になるもうひとつは、個々のバッターの淡泊な打撃である。よく言われる「あと1本が出ない」これはベンチ采配以上に、打者の力量である。執念である。チームに勢いが足りない中で「打低」が「投高」を侵食し始めている。
戦い方の再検証を今こそ
ちょうど1週間前に当コラムで書いたことを、あえてもう一度書く。2021年シーズンは特別なことがある。オールスターゲームに続く東京オリンピック開催によって、7月15日から8月12日まで1か月、ペナントレースは“休戦”となる。シーズン途中にこんな長期の出直し期間があることは、これまでにはなかった。ではここで何をすべきか。猛練習、戦力そしてベンチ采配の再検証、もし不足しているのなら大きなトレードもありだろう。実はこの1か月という時間は、シーズン後半の戦いに影響するだけでなく、現状のチームを見るにつけ、将来のドラゴンズにも大きく関わってくる重要な期間だと拝察する。フロント、ベンチ、そして選手一丸となっての闘争心を見せてほしい。そのためにも、休戦前これからの9連戦が“試金石”となることは言うまでもない。
「捨てはせぬ 竜が捨て身で あるかぎり」
この川柳が中日スポーツに掲載された1977年シーズン、ドラゴンズは貯金3の勝ち越しで3位だった。Aクラスの成績ですらこんな厳しい句が、ファンによって詠まれたのだ。チームもファンも毎シーズン「優勝」を狙っていた。ドラゴンズは強いチームなのだ。球団創設85周年、どうかそれを忘れず“捨て身”の戦いを見せてほしい。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】