鬼まんじゅうは残された数少ないガラパゴス的隠れ名古屋めし(!?)~大竹敏之のシン・名古屋めし
庶民的だが謎多きおやつ菓子
名古屋人にはおなじみのおやつ菓子、鬼まんじゅう。さつまいもの角切りがゴロゴロ入った小麦粉生地の蒸し菓子です。現在では「○○餅」と店名につくような庶民的な和菓子店などで主に販売されています。昭和40年生まれの筆者の家庭では、母がしばしばつくってくれる家庭的なおやつでもありました。
浸透しているのは愛知県内が中心で、岐阜、三重では愛知から離れるほどあまり見られなくなっていきます。このような分布から、名古屋か愛知県内で生まれたと考えられますが、いつ、どこで、という発祥に関する確かな記録は残っていません。戦中戦後の食糧難の時代に生まれたとする説もあれば、もっと以前から食べられていたとの声も。加えて、鬼まんじゅうという名前の由来も定かではありません。ゴツゴツと突き出た芋が、鬼の角あるいは鬼のこん棒に見えるからともいわれますが、飢饉など災厄を追い払うという願いを「鬼」という名前にこめたとの言い伝えもあります。
サツマイモの旬の時季しかつくらない老舗も
主原料のサツマイモは、最近ではスーパーで一年中売られていますが、農作物ですから当然、旬が存在します。収穫は主に夏に始まり、2か月ほど寝かせることで甘みが凝縮されるため、10月~1月頃が食べ頃といわれます。鬼まんじゅうもまた多くの店で一年中つくられていますが、旬の時季しかつくらないというこだわりの店も。名古屋市中区で大正3年(1914)から店を構える「浪花餅」もそのひとつです。
「昔はサツマイモの旬は7月半ばから年末までだったけど、今は時季がずれてきて9月から2月くらい。その時季を過ぎたらつくりません」と3代目のご主人。期間限定にしているのはもちろんサツマイモの品質を何より大切にしているからです。
「気に入るイモが入ってくることは昔と比べると少ない。今は紅はるかのようなねっとりして柔らかい品種が人気で、つくる農家も多いんですが、あれは鬼まんじゅうには向いてないんです」
では、鬼まんじゅうに合うのはどんなサツマイモなのでしょう?
「栗のように“ほこっ”とした少し歯ごたえがある食感のもの。黄色い方がおいしいと思われがちですが、ちょっと白っぽさが残っている方がいい。品種でいうと鳴門金時が向いています」
鳴門金時は焼き芋にも向いているといわれ、甘みが強すぎない優しい味わいが魅力。素朴なおやつ菓子である鬼まんじゅうとも相性がいいのです。
名古屋に来た人にだけ食べさせたい秘密の名古屋めし
名古屋の人にとってはおなじみの鬼まんじゅうですが、他地域の人にはいまだあまり知られていません。理由の第一は日持ちがしないこと。サツマイモはそのままなら長期貯蔵できますが、蒸すと途端に足が早く(傷みやすく)なってしまい、鬼まんじゅうのほとんどが賞味期限は当日限りです。また田舎っぽくてあか抜けていないため、手土産には今ひとつ向いていないのも広まらない要因。自宅で食べる、おじいちゃんおばあちゃんの家に持っていく、というごく内輪での需要が多いのです。
名古屋めしは本来、名古屋でしか食べられないガラパゴス的希少性に価値があるもの。そういう意味では鬼まんじゅうは、残された数少ない真の名古屋めしといえるかもしれません。もっと多くの人に知ってもらいたいと思う反面、名古屋人が名古屋に来た人にだけ「これ知っとる?」と教えてあげる隠れ名古屋めしのままであってほしい・・・なんて気もします。
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#名古屋めしデララバ