「ヨコイ」のあんかけスパは、“おじ様ランチ”である
私はフードライターとして、名古屋の多様な食文化に誇りを持っている。しかし、ほんの少しだけ紹介するのに気が引けるのは、あんかけスパ。実際、地元でも賛否が分かれる。それこそ、好きな人は週イチ以上のペースで食べるし、嫌いな人はまったく食べない。これほど好き嫌いがハッキリしている名古屋名物も珍しい。
私が『ヨコイ』と出会ったのは、20歳のとき。これまで食べたことのなかった味に戸惑った。「何だこりゃ!?」が正直な感想だった。ところが、2週間ほど経つとアノ味の記憶がフッと蘇り、再び店に足を運んでしまう。気がつけばヘビーユーザーになってしまった。今でこそ『ヨコイ』には女性客も多いが、当時はほぼ100%中年サラリーマン。額にうっすらと汗を滲ませながら、何かに取り憑かれたかのように一心不乱にフォークを回してソースとラードにまみれた麺を貪り食っていた。
なぜ、あんかけスパはここまで中年サラリーマンに愛されるのか。冷静になって考えてみると、その秘密は麺の上にのるトッピングではなかろうか。赤ウインナーやミートボール(ハンバーグ)、唐揚げ、とんかつ、海老フライ……。どれも子供の頃に大好きだったものばかり。私を含めて、男というものはいくつになってもお子ちゃま料理が好きなのである。
お子ちゃま料理といえば、昔、デパート内のレストランで食べたお子様ランチ。ハンバーグや唐揚げ、海老フライの横にケチャップで味付けされた甘いチキンライスが添えられていた。一方、あんかけスパにのるお子ちゃま料理にたっぷりとかかっているのは、あんかけソースである。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた中年だからこそ、辛味だけではなく、じっくりと煮込んだ肉や野菜の旨みやコクも伝わるソースが旨いと感じるのだ。いわば、あんかけスパは“おじ様ランチ”なのである。私は初めて食べたあんかけスパが「ミラネーズ」だったことから、今でもミラネーズをこよなく愛している。
赤ウインナーとハム、ベーコン、マッシュルームとミラネーズは肉まみれ。身体によいとはとても言い難い。そこに禁断の魅力、いや、魔力があるのだ。あんかけスパを食べるたびに「こんな重たいモノを喰っちゃって大丈夫か、オレ!?」という罪悪感に苛まれる。とてつもなく悪いことをしている気分になるものの、旨すぎてフォークを持つ手が止まらない。こんなヤバい名古屋名物は後にも先にもあんかけスパだけだろう。
『ヨコイ』もそれを知ってのことなのか、われわれの罪の意識を軽くせんがために、あんかけスパを食べる前にコールスローとポテトサラダを出してくれる。それが免罪符となり、再び店の扉を開けてしまう。『ヨコイ』、恐るべし!
フードライター兼カメラマン 永谷正樹
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#名古屋めしデララバ