コロナ患者受け入れた民間病院 人、設備、物資・・・ 不十分な現実
コロナ病床が空いていない 患者は遠路はるばるやって来る これが実情
午後7時半。病院に到着した1台の救急車。
防護服を着た救急隊員が搬送してきたのは、80代の女性の新型コロナ患者。発熱と倦怠感の症状が出ています。
愛知県大口町のさくら総合病院は「断らない医療」を理念に掲げる中規模の民間病院です。
さくら総合病院 小林豊院長:
「大学病院でコロナ病床が空いていないので、なんとかということで遠路はるばるこちらまでやってきた。かなり遠方から。これが実情」
先月から病棟の一つを新型コロナの患者用に転換し、治療やリハビリを行っています。
対応する医師は、小林院長を含めて2人のみ。
しかし、愛知県内各地から患者が運ばれ、20床あるコロナ病床は、ほぼ満床の状態が続いています。
病床にいたコロナ入院患者 夫婦で感染 夫はすでに帰らぬ人に
患者の女性:
「ずいぶん楽になった。ありがとう。少し勇気がわいてきた。頑張る」
女性は、回復の途上で、未だ苦しそうな声を出しながら、医師の問いかけに答えます。
夫とともにコロナに感染し入院しましたが、 夫は帰らぬ人に。
女性も一時 容体が悪化しましたが、治療を受けて回復しました。
女性はさらに医師に対し、こう続けました。
患者の女性:
「息子が『(親を)2人も失いたくない。どうしてもおかあは(生きて)帰れ』って」
女性のように回復に向け順調な経過をたどる患者がいる一方で、 重症化してしまった人も。
さくら総合病院 小林豊院長:
「中等症で入っていたが、急激に状態が悪化して重症化した患者もいる。本当は大学病院等の高次医療機関で診てもらいたいと打診したが、今どこも空いていなくて5人待ちの状態なので」
この病院では 中等症までの患者しか受け入れていませんが、入院中に重症化しても、転院できる病院が見つからないのです。
医療関係者らが吐露 「平時の体制保てない」「子供がいじめにあうのでは」「もしクラスター発生なら大幅減収危機」
さくら総合病院 小林豊院長:
「我々はもう医療崩壊だと思っている。平時の救急医療体制が保てていないことが明確になっている」
看護師たちも自らが感染するリスクと戦いながら休みなく働いています。
さくら総合病院 福田さおり看護師長:
「子どもを学校に預けている同僚などは『周りの目がすごく気になる』『子どもがいじめにあうのでは』と」
経営面での不安もあります。コロナ患者を受け入れると 国から補助金が出ますが、クラスターが発生してしまった場合などは 一般の診療が続けられなくなり、大きな減収になる恐れもあります。
さくら総合病院 小林豊院長:
「十分な診療報酬であったり、十分な補助金という形で、民間病院に元々無い余力を蓄えないと、 民間病院の十分な協力(は得られない)、応じたくても応じられないということを理解してほしい」
ほぼ満床の名古屋 地域診療を担う病院でも受け入れたものの…
一方、名古屋市昭和区「かわな病院」。民間病院です。
救急診療をしていない地域密着型のこの病院では、コロナ患者を受け入れる体制は整っていませんが…
かわな病院 石田治院長:
「なかなか名古屋市に空床がないという状況で、我々のような民間でも受けざるを得ない状況が出たのは確か」
この病院では、これまで外来などでコロナ患者が出た場合、近隣にある公立の大病院に転院させていました。
しかし、名古屋の病床がひっ迫し、 受け入れ先が見つからず、急遽、一般病棟の奥に臨時のスペースを作り、コロナ患者を入院させました。
外部の専門医からのアドバイスを受けて、病床を3つのゾーンに区分けし、個室の中に患者を隔離しました。
ここで重症者を含む 計3人のコロナ患者を受け入れましたが、様々な課題が見えてきたと言います。
医療現場では、防護具の不足が続いている さらに心理的負担が…
コロナ患者と接する際は、空気感染を防ぐことができる「N95」という医療用のマスクを使うことが推奨されていますが。
かわな病院 石田治院長:
「発注しても入荷しない」
流通量が少なく行政からの支給もないため、必要な量を確保できず、使ったマスクを封筒に入れて保存し、再利用するという方法を取らざるを得ませんでした。使い捨てで、マスクを使うことができなかったのです。
かわな病院 石田治院長:
「これが使い捨てできれば、スタッフも安心してケアにあたれる」
新型コロナウイルスの特徴の一つが、患者の容体が急変する恐れがあること。
呼吸の乱れがないかなどを確認するため、看護師らは、24時間つきっきりで対応。感染症の専門医はおらず、スタッフの心理的な負担も大きかったといいます。
かわな病院 臨床工学技士 坂内幸子さん:
「何もかもが初めてのことばかり。大変心配、不安もあった。急変した時にやれる限界がある。そういう時にどうしたらいいのか…」
さらにこの病院には、ウイルスの拡散を防ぐ「陰圧室」などの設備はなく、コロナ患者と 一般の患者の動線も分けることができません。
院内でクラスターを起こさないため、コロナ患者をビニールで囲った車イスに乗せて移動させるなど、知恵を絞ってできる限りの感染対策をしていますが。
かわな病院 石田治院長:
「もちろん医療従事者なので、患者さんを助けたい。社会の役に立ちたいという人ばかりだが、なかなか設備や人員が十分ではない病院もある中で、民間病院へのコロナ患者の受け入れを義務化したりあるいは、一部の処罰化ということがあることに関しては危惧するところ」
コロナ病床がひっ迫し、民間病院で患者を受け入れるべきという声が上がる中、現場から聞こえてきたのは、人的、そして物的に、備えが十分ではないという現実でした
(1月22日放送 CBCテレビ『チャント!』より)