産油国も大注目 “水素”が世界のエネルギー産業を変える?日本発の技術を「電動アシスト自転車」にも
クリーンエネルギーの代表格「水素」。燃やしても水と酸素しか出ないクリーンエネルギーの大本命として、日本はもとより世界中の国が開発競争にしのぎを削っています。今回、日本発の最先端の“水素革命”の現在を取材しました。
1回の充填で約50キロ走行可能!水素で走る電動アシスト自転車の開発も
水に電流を流すと発生する水素。地球上にほぼ無尽蔵にありながら、“完全無公害”という夢のエネルギーです。燃料電池に使えば発電し、電気自動車などの動力源になります。燃えやすいため、天然ガスのような燃料にもなり、すでにロケットの打ち上げにも使用されています。
東海地方でも、新しい技術による新製品が生まれています。名古屋のベンチャー企業「ABILITY」が発売した一見少しごつめのマウンテンバイク。実は、水素で電気を作って走る電動アシスト自転車です。
電源はカードキーでスタート。試乗した番組スタッフは、ペダルの軽さに驚きます。水素で発電してモーターを動かし、1回の充填で50キロの走行が可能です。自転車のフレームに付いているボトルが水素の容れ物で、その中身に新技術が使われています。
(ABILITY・宍戸智彦取締役)
「水素吸蔵合金です。これに水素の分子が吸着します。くっつく感じですね」
水素カートリッジの中身は、水素を吸着する特殊金属。水素をガスボンベに詰めるのではなく、吸着する特殊な金属に蓄えています。水素の充填には5時間ほどかかりますが、バッテリーのように簡単に交換出来て、宅配便での荷送りも可能です。
水素カートリッジの重さは約2キロ。同じくらい走れる電動アシスト自転車のバッテリーの約半分の重さです。この水素カートリッジは、すでに中国からも引き合いがきているといいます。
(ABILITY・宍戸智彦取締役)
「いつでも、どこでも、誰でもが扱えるエネルギーとして使っていただけるところが最大のメリットだと思っている。例えば今、電気を使っていない地域(国)の人たちも、電気を使えるようになる」
“アルミくず”から水素を製造!コストはほぼかからない革命的発明
水素は地球上にほぼ無限にありますが、石油やガスのようにすぐ使える形では、ほとんど存在していません。どうやって集めるのかという最大の課題がある中、画期的な技術を生み出した会社も。
富山県高岡市のベンチャー企業「アルハイテック」は、持ち運びができる水素製造装置で、世界から注目を集めています。水素を作る原料は、工場から出る“アルミくず”です。
(アルハイテック・水木伸明社長)
「これは炭素(二酸化炭素)を出さずに、全て完結できる脱炭素の仕組みです」
この技術のカギとなる「ある特殊な溶液」にアルミのくずを入れるだけ。実験の様子を見ると、細かい泡、煙がブクブクと出て、水素が発生。それを試験管の中に溜めて火をつけると、ポンっと音がしました。
アルミと溶液の化学反応だけで、驚くほど簡単に水素が発生。少し大きな実験装置でも、タンクにアルミくずを入れるだけで、水素が作られていきました。二酸化炭素などの排出はゼロ。余分なものは全く出ず、電気など外からのエネルギーも必要ありません。
(アルハイテック・技術スタッフ)
「装置を持っていって、そこに反応液とアルミさえあれば、電気を起こすことができる」
例えばゴミとして出た廃アルミ9キロ。相場だと450円ですが、ここから水素が1キロ取れます。水素ステーションなどで買うと1200円ほどになる量です。これを使って発電を行うと、電気自動車が180キロ走れるだけの電気が取り出せます。
さらに、副産物として建材などに使われる水酸化アルミが26キロ生成されます。これは約8000円で売れるそうです。コストはほぼかからず、エネルギーと副産物が手に入るシステムといえます。
水素を発生させる溶液は、約100回繰り返し使えて、その後リサイクルも可能とのこと。世界を変えるほどの技術なので、溶液の詳細は教えてもらえませんでした。
世界のエネルギー産業を大きく変える?産油国も注目の新技術
国の補助金も受けて、本格的に実用化に向けた開発が進むアルミくずからの水素製造技術。2023年7月、水木社長は、UAE・アラブ首長国連邦に訪問した岸田首相にも同行。国の強いバックアップと新技術の確かさを物語っています。
(アルハイテック・水木伸明社長)
「行ってみたら、UAEのムハマンド国王と話す機会があった。(岸田首相と)3人で話したが、緊張した」
エネルギーを輸入に頼る日本にとって、大きな力になると期待される水素。そう遠くない将来、世界のエネルギー産業を大きく変える可能性も秘めています。
CBCテレビ『チャント!』7月30日放送より