東京五輪まで半年~時計の針が進む中で国民の不安そして切なる願い

東京五輪まで半年~時計の針が進む中で国民の不安そして切なる願い

嵐の5人が歌った『カイト』という曲は、2020年の東京五輪・パラリンピックを意識して米津玄師さんによって作られたものだ。歌詞のサビで3回も出てくるフレーズ、それは「君の夢よ、叶えと願う」。嵐はいったん活動を休止したが、1年延期となった大会開催の夢は、彼らの伸びやかな歌唱のように叶うのだろうか。

ウイルスと闘う中での五輪開催

五輪の開会式2021年7月23日まで半年を切った。新型コロナウイルス感染と向き合う国内外では、その開催をめぐって様々な声があふれ始めている。
現在の立ち位置を再確認しておくと、五輪は「7月23日」、パラリンピックは「8月24日」それぞれIOC(国際オリンピック委員会)によって開幕することが決まっている。現在の議論は、大会が半年後に迫る中、新型コロナ感染の現況を踏まえて「本当にこのまま開催していいのか?」と疑問や不安を呈するものだ。「五輪開催ありきで進むことによって、コロナ対策に影響は出ていないか?」心配の多くはこれだろう。IOCも政府も東京都も「予定通り」と言い続けている中、その「予定通り」を危惧する声を整理してみる。

「世界各国の選手たちは来日できるのか?」。

米ジョンズ・ホプキンズ大学の発表によると、感染者は世界全体で1億人を超えた。バイデン新大統領を迎えた米国は新規感染に歯止めがかからず、世界最多を走っている。変異ウイルスが広がった英国はじめヨーロッパでは、第2波がクリスマスと新年を経ても継続している。ワクチンの供給も追いつかない。さらにアフリカなどの途上国へのワクチン数は圧倒的に不足している。
「ワクチンが入手可能ならIOCがコストを負担する」
去年11月に来日した時に、IOCのバッハ会長はこう語ったが、はたして間に合うのか。

「平等なフィールドに立つことができるか?」

大会競技の内、まだ4割余りしか各国の代表選手が決まっていない現状。5月に中国の杭州で開催予定だった陸上のアジア選手権も中止となった。五輪出場資格にも関わる大切な大会だった。その他の競技でも中止や延期が相次いでいる。まだ決まっていない6割近い五輪代表選手を、各国はどのように選んでいくのだろうか。それは公平なスポーツマンシップに見合う選考になるのだろうか。残された時間は刻一刻と少なくなっている。

「開催地である日本は大丈夫か?」

画像:『pixabay』

世界各国から来日する大勢の選手、関係者、そして観客。日本国内での感染拡大の恐れはないのか。この不安を口にする人はあまりに多い。
開会中の通常国会で、五輪パラリンピック開催について、医療体制における必要な医師の数を尋ねられた橋本聖子五輪担当大臣はこう答弁した。
「ひとり5日程度の勤務をお願いするとして、医師と看護師を合わせて、必要な医療スタッフは大会期間中1万人程度の方に依頼をして確保を図っている」
開催地である東京都をはじめ、11都道府県で政府による緊急事態宣言が発令される中、
日本列島には「医療崩壊」という言葉がこだましている。医療現場が悲鳴どころではない
叫びをあげる中、“五輪のため”医療スタッフを捻出できる余裕があるのか。

「大会を迎える国内のムードは?」

JNNが1月11日に発表した最新の世論調査によると、東京五輪について、「開催できるとは思わない」は80.6%と8割超、「開催できる」は12.8%にとどまった。
他の報道機関の調査結果もおおむね同じ傾向であり、ほとんどの国民が「中止または延期」と見ている。政府は「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」という言葉を繰り返し開催への姿勢を見せるが、今はまだコロナウイルスとの戦いの真っ只中である。「何とか打ち勝とう」としている多くの国民にとって、戦い後のことなど考える余裕がない毎日である。現時点、開催地に歓迎されないオリンピックはあまりに不幸であろう。

アスリートたちの切実な叫び

オリンピック憲章に「平和をめざし、人類の発展にスポーツを役立てる」とその精神と理想が謳われているオリンピック。
「『できない』じゃなくて『どうやったらできるか』をみんなで考えてほしい」
こう語ったのは体操の内村航平選手、4度目の五輪出場を目指している。胸を打つ言葉だ。ただ、コロナウイルスへの警戒とそれに伴う自粛の日々はボディーブローのように蓄積し、正直その言葉を受け止める余裕すらも薄れさせてしまいがちだ。切実な思いを語るアスリートたちにとっても落ち着かない練習の日々が続いているはずだ。

無観客?観客数を制限?入国者を限定?ワクチンの確保と接種時期は?
コロナ禍の中でも開催に向かうならば、様々な選択肢があるはずだ。決定権を持つIOCにも、開催国・開催地として意見を表明できるはずの政府や東京都にも、具体的で的確な情報開示のスピードアップを願ってやまない。時計の針は今この時も進み続けている。

【東西南北論説風(207) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

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