「夫を家事の貴重な戦力に!」料理教室に通う男たちと妻たちの本音のホンネ

「夫を家事の貴重な戦力に!」料理教室に通う男たちと妻たちの本音のホンネ

『鬼平犯科帳』や『剣客商売』の作家・池波正太郎さんは、食通としても知られている。食についてのエッセイも多い。著書『男のリズム』の中に、男の料理について書いた下りがある。池波さんが若い頃に、曽祖母に素麺を作っていたら一緒に暮らしていた叔父さんに「男がそんなまねをするな」と叱られたと言う。

池波さんはそんな思い出を紹介しながら、それは徳川幕府が決めた男女の規範であって、それ以前にさかのぼると「男はみな台所に首を突っ込んでいる」と続ける。
織田信長や豊臣秀吉などの英傑たちは客をもてなす献立を料理人たちと熱心に検討していたと語り、同じ戦国武将の伊達政宗の言葉を著書の中で次のように紹介している・・・
「客を招き、これをもてなすとあらば、料理が第一である。亭主が台所に入ってよくよく吟味もせずに、念の入らぬ料理を出すことは客に対して無礼きわまることだ。そのようなことになるのなら、はじめから客を招かぬほうがよい」
※池波正太郎『男のリズム』(角川書店・1976年)

料理教室に通う男性が増えている。一般財団法人ベターホーム協会によると、定年後の男性の自立をめざし「食の知識や料理を身につけるべし」と「60歳からの男の基本料理の会」をスタートしたのが1991年(平成3年)のこと。この時の受講者は350人だったそうだ。
しかし、男性だけのクラスに留まらず男性の参加者は増え続け、2017年に教室参加者はおよそ6000人となった。四半世紀で17倍に増えたことになる。実際に料理教室では、必ず男性の姿を見かけるようになった。
男性向けのコース以外でも、和食、洋食、中華、魚、肉など各コース、さらにパン作りのコースにも男性が参加している。動機はそれぞれだ。「もともと料理に興味があった」「定年後に時間ができた」「魚を自分で捌きたいと思った」などなど。「何となく来た」という人はほとんどいない。何かしら強い意志が感じられる。メタボリックシンドロームという言葉が定着し、食生活を見直そうという動きも無関係ではないだろう。教室では作る料理のカロリーについて必ず講師が紹介する。皆熱心にメモを取っている。

男性が料理をすることについて、ベターホーム協会が2017年4月にアンケート調査結果を発表した。対象は料理教室に半年以上通った20代から80代の受講者368人だ。
料理教室に通い始めたきっかけは「趣味や楽しみとして」という回答が56.7%と最も多い。「生活上必要に迫られて」という人は1割強だが、「健康管理のため」と答えた人は20代から30代が最も多かったことに、昨今の健康志向が垣間見られる。
料理教室へ参加することに「ためらいなし」と答えた人は全体で72.6%、池波正太郎さんの叔父さんが聞いたらさぞや驚いたであろう。もはや男性が料理教室に通うことは稀有なことではない時代なのだろう。
料理教室で通う前と通った後との違いでは、「月2~3回は料理をする」という人の割合が、31.3%から83.7%に飛躍的に伸びていて、「まったく何もしない」人はわずか2.7%だった。「ラーメンを作るとき今までは卵を入れるくらいだったが、野菜を刻んで加えるようになった」という回答もあった。明らかに男性の食生活に変化が生じている。

あれほどに家族が喜んでくれるとは正直思わなかった

家族など周囲の思わぬ好反応に驚く人も多かったようだ。「たまに料理をすると家内に大変好評、拍手ももらえる」「孫がおじいちゃんの料理はとても美味しいと評価してくれ励みになる」など微笑ましい感想の中に、料理教室で学んだことの「家庭への還元」が歓迎される実態が浮き彫りになっている。
私事で恐縮だが、料理教室で学んだメニューを実践すると、あれほどに家族が喜んでくれるとは正直思わなかった経験がある。ベターホーム協会では「妻にとっては夫が家事の戦力になる実益もある」と同時に「夫が自分のために作ってくれた料理を食べることに大きな喜びと感動があるのだろう」と温かく評価している。

料理は段取りが勝負である。沢山のことを順序だてて進めるためにとても頭を使う。料理教室に通い始めて、真っ先に感じたことは「料理する人へのリスペクト(尊敬)」だった。家庭ではもちろん外食先でも「いただきます」「ごちそうさま」と手を合わせる時の心の込め方は明らかに変化した。

超高齢社会の中、男性にとっても「食」から学ぶことは多い。「独眼竜」と呼ばれた伊達政宗ではないが、カッと目を見開いて料理に向かい合うことで、これまでとは違う食卓の風景がさらに見えるかもしれない。

【東西南北論説風(65) by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

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