あなたはオムライスが好きですか?日本発祥の誕生秘話と魅力を訪ねてみた
オムライスが好きである。チキンライスを包んだ薄焼き卵にスプーンを突き刺すと、ほんわかした湯気と共に、ケチャップの香ばしい匂いが食欲をそそる。さあ楽しい食祭の始まりだ。そのオムライス、実は日本生まれの料理である。
オムライスという名前は、フランス語の「オムレット(omelette)」と英語の「ライス(rice)」を合わせたもの。国立国会図書館のデータベースにある。そのまま合体させれば「オムレツライス」。人気の洋食メニューに育つまでには、2つの店が関わっている。東京・銀座の「煉瓦亭」、大阪・心斎橋の「北極星」である。
1900年(明治33年)、東京の洋食店「煉瓦亭」の厨房で、スプーンひとつで簡単に食べることができる“まかない料理”として、溶き卵、肉、タマネギをご飯と共に焼いた一皿があった。見かけた客のひとりがリクエストした「是非それを食べたい」。かくして「ライスオムレツ」というメニューが誕生した。
そのおよそ20年後、大阪の洋食店「北極星」の前身である「パンヤの食堂」、常連客に胃の調子が悪く、いつもオムレツと白いご飯だけを食べている人がいた。店の主人が「毎日同じものばかりではかわいそうだ」とタマネギとケチャップで炒めたライスを薄焼き卵で包んで出してあげた。そこから「オムライス」という名前が付いたと国会図書館のデータベースは語る。つまり、卵とご飯を組み合わせた原型は「煉瓦亭」、薄焼き卵で包み込む現在のスタイルは「北極星」、オムライスは2つの支流から大河へと成長したのだ。
チキンライスの上に乗ったオムレツをナイフで切り開くと、とろりとした半熟の卵がライス全体に広がる。東京・日本橋の洋食店「たいめいけん」の名物オムライス、「タンポポオムライス」と名づけられている。「タンポポ」は1985年に伊丹十三監督が制作した映画の題名に由来する。“ラーメンウエスタン”とも例えられ、山崎努さん演じるラーメン職人が「タンポポ」という名の売れないラーメン店を助けるというストーリーだが、その中に、ある男性が男の子にオムライスを作るシーンが登場する。半熟のオムレツを開いてチキンライスと一緒に美味しそうに食べる、まさに“食通”伊丹十三監督の手腕が満開の場面だった。「たいめいけん」では「タンポポオムライス」に「伊丹十三風」と付けて、リスペクトの心を表している。人気メニューのひとつだ。
日本で生まれたオムライスは進化を続け、焼きそばを薄焼き卵で包んだ「オムそば」、チャーハンを包んだ「オムチャーハン」、オムライスの上にハヤシライスのルーをかけた「オムハヤシ」、コンビニエンスストアには「オムライスおにぎり」も登場した。海外でも日本スタイルのオムライスを食べることができる。洋食メニュー「オムライス」は、今や日本だけのものではない、世界の人たちにも愛される料理として成長した。
日本には古くから「包む」文化がある。風呂敷に象徴されるように、大切な品を包む、贈り物を包む、そしてそれは“心を包む”ことでもある。チキンライスを繊細な薄焼き卵で包む「オムライス」には、日本伝統の作法、人の温かさが込められている。
最後にひと言・・・「オムライスは文化である」。
あなたはオムライスが好きですか?
【東西南北論説風(221) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿のコレ、日本生まれです」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆します。