全国でも珍しい!陶器と磁器が同一エリアで作られる東海エリアの魅力

日本に陶磁器の産地は数多くありますが、実は東海エリアはその中でも特に有数の焼き物の産地。瀬戸焼、常滑焼、美濃焼、萬古焼など、全国に名を馳せる焼き物の窯が点在しています。2月11日放送のCBCラジオ『つボイノリオの聞けば聞くほど』では、「多治見ぶらり美濃焼の旅」と称して、特に美濃焼に焦点を当てて焼き物の魅力を徹底解析しました。ゲストは名古屋市にある「古川美術館」の学芸員・林奈美恵さん。つボイノリオと小高直子アナウンサーがコメントしつつ、その歴史を掘り下げています。
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まずは基本として美濃焼の定義について尋ねる小高。
小高「この地方にもいろんな焼き物がありますが、美濃焼に定義はあるんですか?」
林「美濃焼というと、器の定義というよりも地域ですね。多治見、土岐、可児、瑞浪とかで作られている陶磁器のことを総称して美濃焼と呼びます」
同様に瀬戸で焼かれたものは瀬戸焼、常滑で焼かれたものは常滑焼といったように、単純に産地を表す意味合いが強いようです。
小高「そうすると、焼き物の特徴ということではないんですね?」
林「全国的に見ると『美濃焼は華やかである』という評価がされています。萬古焼はどちらかと言えば、あまり釉薬を付けずに土の力強さを見せていますけど、美濃焼は志野焼や織部焼にみられるように、カラフルな色が付いているものが多いです」
釉薬とは、素焼きの陶磁器の表面に光沢を出すためのものです。焼成することでガラス化するため、美しい色彩を表現することができます。
色鮮やかで綺麗な、昔ながらの器というイメージがあるのが美濃焼だそうです。
同じエリアで陶器と磁器
つボイ「山ひとつ越えた瀬戸とは、土の性質も違うんでしょうか?」
林「瀬戸の土は特殊で、あそこは磁器の土も陶器の土も両方採れたんです。瀬戸はすごく資産に恵まれた土地柄なんですね」
焼き物は陶器と磁器に分けられますが、その違いは土の種類です。陶器が陶土と呼ばれる粘土を原材料にしているのに対し、磁器は陶石と呼ばれる岩石を原材料にしています。
林「明治より前は、山の向こう側とこっち側で一体となって焼き物をやっていたかもしれません。ただ、それが明治になって急に県ごとに分かれてしまったので、それに伴って『美濃焼』『瀬戸焼』と厳格な名前分けがされたのかなと思います」
陶器と磁器が同じエリアで作られるというのは、全国的に見ても非常に珍しいのだそう。
土の種類によって器の見た目や触感、強度や吸水性、焼成温度なども変わってくるため、どの産地でどういった土を使っているのかは、器の出来栄えに大きく関わってくるようです。
時はさかのぼり
小高「美濃のあたりで、焼き物があれだけ盛んになったのはどうしてなんですか?」
林「あの辺ってもともと焼き物の歴史が古くて。朝鮮半島から須恵器っていうものが伝来したことで、7世紀頃にろくろの技術が美濃のあたりにも広まって、焼き物作りが始まります」
「須恵器」は青灰色をした硬い土器で、貯蔵や調理など様々な用途に使われたようです。
林「一番ブームになったのは、やっぱり千利休が登場した桃山期。千利休や織田信長、豊臣秀吉なんかの影響で非常にお茶の文化が浸透するので、それに伴って陶器がぐっとこの地域で発展していくわけなんです」
つボイ「このあたりの人たちが天下人やったからか」
日本で空前のお茶ブームが巻き起こったその時、天下人を生んだのがこの東海エリア。陶器の生産を奨励したり、出兵した先の朝鮮で多くの陶工を連れ帰ったことなどにより器の文化も大きく花開き、革命的で斬新な焼き物も多く作られたといいます。
林「あとはやっぱりいい土が出るのがこの辺の地域なんです。なぜいい土が出るかというと、火山の問題があるんですよね。いわゆる温泉地には、良い土が出やすいんです」
焼き物の産地が東日本よりも西日本が多いのはそのためだとか。土地の性質と、そこで活躍した人。ふたつの条件が重なり合って焼き物がこれだけ発展したようです。
日用品から美術品へ
小高「そうすると、器が生活雑貨から美術品になっていったのは、やっぱりお茶の世界が始まってからですか?」
現代では、器は日用品であると同時に美術品の側面も持ち合わせています。ところがその動きは「もっと後」と林さん。
林「桃山期における器ははまだまだ雑器。そこから器がいっぱい作られるようになっていって、陶芸家たちが職人じゃなくて芸術家になろうって動きが始まるのが、明治以降なんですよね」
千利休の登場により価値が上がった器ですが、それゆえに大量に作られるようになって大衆化してしまったとか。
そのことに対して危機感を覚えた職人たちが、芸術という分野での価値を確立していこうと立ち上がったのが明治以降。そこから器の魅力がさらに広がったのです。
こうして歴史を紐解くと、東海エリアが焼き物の地であることに深く納得するとともに、当たり前に使っている器の背景に飛鳥時代からの人々の積み重ねがあることを感じます。
日用品としての器も美術品としての器も、生活の面と文化の面でそれぞれ私たちの生活を豊かに彩ってくれるものです。何気なく使っている器の魅力を再発見しに、焼き物の地へ足を運んでみてはいかがでしょうか?
(吉村)
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