映画『敵』は老いる自分へのプレゼント?吉田大八監督インタビュー
1月17日封切の話題の映画『敵』。筒井康隆さんの小説を、長塚京三さん主演で、全編モノクロで映画化した作品です。1月19日放送のCBCラジオ『小堀勝啓の新栄トークジャンボリー』では、本作の吉田大八監督が出演しました。「映像化不可能」と言われたこの作品、一体どんな映画なのでしょうか?
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長塚さんは12年ぶりの映画主演。脇を固めるのは瀧内公美さん、河合優実さん、黒沢あすかさん、松尾諭さん、松尾貴史さんという役者陣です。
自由で堅実な余生を送っている77歳の元大学教授、渡辺儀助のパソコンに、ある時「敵がやってくる」という不穏なメッセージが届きます。一体、どんな敵がやってくるのか?
吉田監督は『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『パーマネント野バラ』『桐島、部活やめるってよ』で知られます。
小堀「話題の映画っていう常套句がありますが、本当に話題の映画です」
吉田「公開前にこんなに賞をいただいたり、アジアフィルムアワードにノミネートまでされて、こんな景気のいいことは自分の中で珍しいので少し戸惑っています」
本作は東京国際映画祭で東京グランプリ、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠を獲得。アジア全域版アカデミー賞のアジア・フィルム・アワードでは日本映画として最多の6部門にノミネートされるなど、公開前から話題になっています。
主人公のように暮らしたい
起きて顔を洗ったり、ご飯のおかずに網で鮭を焼いたり、身仕舞いをしっかりしていたり…主人公の暮らしぶりが丁寧に描かれます。
小堀「この人の生活が小津安二郎の映画を彷彿とさせる部分があったりして、ここ僕、すごく好きです。根が食いしん坊だから、美味そうだなと思いながら見てました」
主人公の儀助と歳が近い小堀は、自分ももしこんな境遇になっても、無精にならず、儀助のようにきちんと暮らしたいと常々思っているそうです。
また、長塚さんはフランス近代演劇史を研究しているような元大学教授の役がぴったりなんだとか。
小堀「形で演じているというより、まさにこの人でしょうという感じですよね」
吉田「それが不思議でしたね」
撮影の直前には、吉田監督の中では、主人公の儀助と長塚さんがほぼイコールになっていたそうです。
吉田「長塚さんがカメラの前で何をやろうが、それが儀助にしか見えなくて。結果、監督はすごく楽でしたね」
キャスティングの妙
小堀「他の出演者の皆さんも、この人しかいないでしょ、という人ばかりです」
吉田「自分でキャスティングをやるのが大好きですし、自分の仕事の一番大事な部分だと思ってるんです。キャスティングがうまくいけば、ある程度映画はうまくいくって思ってます」
キャスティングが映画を決めるとの吉田監督の言葉に、小堀も同意。
小堀「儀助の役は、色気のある年寄りじゃないとダメなんですよ」
知的で堅いだけ、知的でクールなだけではダメで、女性キャストに応じた表情がきちんと出せることが重要だったと言います。
吉田「長塚さんのあの色気は、僕らも撮影しながら、男女問わず全員がちょっとポーッとなりましたよ。色気と一緒におかしいし、情けない人間味もあるんです」
小堀「カッコいいのにすごく愛嬌のあるキャラクターですよね」
老いる自分へのプレゼント
小堀「今の日本映画として見ると身につまされるものがありながらも、見てて悲惨で嫌な感じはしなかったですよ」
吉田「それが一番ありがたいです」
吉田監督はこの映画を、万人の前に待ち受けている「老い」や「死」についての恐怖心が和らぐような、知らず知らずの間に向き合う準備ができるようなものにしたんだそうです。
吉田「みんなが漠然と抱えてる不安感や怖さとどう向き合うか、を考えながら作ったんですよね」
映画を観た人の中には、「ハッピーエンドとまではいかないけれども、見終わった後の感じが明るいのは意外だった」という人もいたとか。さて小堀の感想は?
小堀「僕はファンタジーとして受け取りましたね。自分のすぐそこまで来ている老いに、良いプレゼントをもらった気がしましたよ」
吉田「プレゼントとおっしゃっていただけるとは嬉しいです」
(尾関)