水道水の安全性は?高濃度PFAS検出の岡山県で血液検査
発がん性が指摘される有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」。岡山県吉備中央町では、浄水場から極めて高い濃度で検出されたことを受け、町の住民790人を対象に公費での血液検査が始まっています。各地で検出が相次ぐPFASですが、公費での検査は初めてのことです。12月2日放送の『CBCラジオ #プラス!』では、CBC論説室の石塚元章特別解説委員が、このPFASについて説明しました。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴くPFASとは何か?その特性とメリット
PFASは人工的に作られた有機フッ素化合物で、その種類はおよそ1万にのぼります。正式名称が非常に長いため、略してPFASと呼ばれています。
PFASの中でも、特に「PFOS(ピーフォス)」や「PFOA(ピーフォア)」と呼ばれる物質は、その有害性が指摘されています。
PFASには、水や油をよく弾く性質や高い耐熱性といった多くのメリットがあり、さまざまな用途で利用されてきました。
例えばフライパンのコーティングでは、焦げ付きにくく、水や油を弾く特性を発揮します。また、防水スプレーにも使われています。
ハンバーガーの包み紙が油を通さず、手に染みてこないのもPFASの効果。さらに、半導体や自動車部品の製造、航空機の火災時に使用する泡消火剤にも含まれています。
「永遠の化学物質」と呼ばれる理由
このように、PFASは私たちの生活に密接に関わる化学物質です。素晴らしいメリットがある一方で、デメリットも存在します。
PFASは非常に分解されにくく、一度生物(人間を含む)の体内に取り込まれたり、自然環境に溶け出したりすると、簡単には消えず、どんどん蓄積されていきます。そのため、「永遠の化学物質」とも呼ばれることがあります。
1990年代、アメリカのウェストバージニア州にある大手化学メーカー「デュポン社」の工場周辺で、住民のがん発生率や高コレステロール血症、甲状腺疾患などが他地域より高いことが判明。これを受け、約7万人の住民が集団訴訟を起こしました。
最終的に和解が成立し、補償金の支払いと健康診断の実施が行なわれましたが、この事件をきっかけに、PFASの問題が大きく取り上げられるようになりました。
2000年には、同じく大手化学メーカーのスリーエム(3M)が、特に有害性の高いPFOSとPFOAを、自社工場で製造しないと発表しました。
日本とアメリカの対応の差
PFASの有害性が注目され始めたのは1990年代後半から2000年にかけて。
この間、発がん性や免疫力への影響、コレステロール値の上昇、さらには妊婦への悪影響などが指摘され始めました。危機的な状況であるとの認識が広がり、規制の動きが加速しました。
特にPFOSとPFOAについては、1990年代から2000年にかけてアメリカで問題視され、規制や製造中止が進められてきました。
世界的に見ると、南極大陸以外のほぼすべての地域でPFASが自然環境中に存在しているといわれています。
日本では2022年に環境省が全国調査を実施し、国内110地点以上の川や地下水で暫定目標値を超えるPFASが検出されたと発表しました。
アメリカでは1990年代から企業の製造が問題視され、2000年代に入ると大手企業が製造を停止する動きがありました。
一方、日本では対応が遅れ、ようやく2022年に全国的な調査が始まったという状況です。
PFASと血液検査
最近の動きとして、岡山県吉備中央町で公費による血液検査が全国で初めて実施されました。これは、水道水への影響が懸念されているためです。
PFASは自然環境中の土壌にも存在しており、それが野菜などの食品に影響を及ぼす可能性があります。しかし、特に問題視されているのは、水道水に混入するケースです。
岡山県吉備中央町では、住民の中に「体調がおかしい」と感じる人が出てきたことがきっかけで調査が行われました。
その結果、一部の浄水場で非常に高濃度のPFASが検出されたことが判明し、全国初の公費による血液検査が実施されることになったのです。
汚染の原因は?
また、この問題において重要なのは、汚染の原因がどこにあるのかという点です。
前述したように、PFAS汚染の原因にはいくつかの可能性が挙げられます。
例えば空港で使用される泡消火剤は火災訓練や消火訓練で頻繁に使われるため、空港周辺が汚染されるリスクがあります。また、アメリカ軍や日本の航空自衛隊の基地、工場周辺もPFASが使用される環境として指摘されています。
もうひとつは産業廃棄物です。PFASが有害であると認識され始めたことで、工場では除去のための処理が求められるようになりました。
その過程で活性炭を用いてPFASを吸着し処理しますが、これ自体が新たな課題となっています。汚染された水を活性炭で浄化する際、PFASを吸着した活性炭が残ります。
この使用済み活性炭は、産業廃棄物として処理業者に引き渡されます。しかし、岡山県吉備中央町のケースでは、問題となった浄水場の水源上流に、この使用済み活性炭が山積みにされていたことが判明しました。
因果関係は明らかになっていませんが、これが汚染源である可能性も考えられます。
東海地方で確認されたPFAS
国土交通省と環境省は数年前から全国の水道水に対する大規模調査を実施しています。最新のデータによれば、暫定目標値は超えていないものの、約2割の水道事業でPFASが検出されています。
東海地方では、岐阜県各務原市の水道水が過去の調査で暫定目標値を超えていましたが、2024年度の最新調査では下回る結果となりました。同様に、愛知県岩倉市でも高い数値が報告されていましたが、現在は目標値をクリアしています。
日本の暫定目標値は、1リットル中に50ナノグラムという微量な設定です。ただし、これは正式な水質基準値ではないため、超過しても法的な義務が生じるわけではありません。
環境大臣が示した対応方針
この日本の暫定目標値は、アメリカに比べて基準が甘いとされています。先週の閣議後の記者会見で、浅尾慶一郎環境大臣は専門家の意見を踏まえ、2025年春を目途に方向性をまとめると話しました。
この見直しでは、暫定目標値を正式な水質基準値に格上げすることや、PFASの健康影響に関するデータ収集と継続的な監視体制の構築が検討されています。
PFASは長年便利な物質として利用されてきました。しかし、その有害性が明らかになるにつれ、迅速かつ適切な対応が求められるようになってきています。
(minto)