伊藤七段が初タイトルを獲得!藤井八冠、防衛ならず…
6月20日、山梨県甲府市「常磐ホテル」で行われた第9期叡王戦五番勝負第5局で伊藤匠七段が藤井聡太八冠を制して初タイトルを獲得。これにより藤井聡太八冠は七冠に退きました。22日放送のCBCラジオ『大石邦彦のNOW ON SHARE!』では、CBC論説室の大石邦彦アナウンサーが歴史的なシリーズを振り返ります。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴く初めてづくしだったタイトル戦
第9期叡王戦第5局では、伊藤匠七段が156手で藤井聡太八冠を下し、3勝2敗でシリーズを制して叡王位を奪取しました。
早朝から会場となった甲府市まで取材に赴いた大石。
大石「二人の対局は痺れましたね」
藤井八冠は防衛ならず、七冠となりました。歴史的な八冠の維持は8ヶ月で途切れたことになります。
大石「あの羽生さんでも(七冠維持は)5ヶ月だったんです」
圧倒的な強さで今後2、3年は続くかと思われた藤井一強時代。
藤井八冠の前に現れた強力なライバル・伊藤七段は、奇しくも同学年。
2勝2敗で最終戦を迎えましたが、実はこれまで伊藤七段はプロ入り後、藤井八冠に一度も勝ったことはありませんでした。
大石「これまで勝ったことなかったんです。それが初めて藤井さんに勝った!」
第二局で初白星を飾った伊藤七段はそのまま勢いに乗り、連勝。
大一番に勝ったことで自信をつけたとみられます。
伊藤七段は2勝1敗で先に王手をかけましたが、藤井八冠がタイトル戦で王手をかけられたのも初めてのことでした。
そういう意味では、初めてづくしの五番勝負だったといえます。
過密なスケジュールの影響?
カド番を迎えた藤井八冠ですが、続く第4局では盤石の勝利を収めます。快勝だったため、伊藤七段のタイトル奪取はやはり難しいと思われていました。
最終戦の勝負を分けた理由を「藤井八冠の過密なスケジュールにあった」と見る大石。
というのも、17日には新潟で棋聖戦第2局があり、山崎隆之八段と対局しています。
新潟からおそらくは愛知に戻り、19日に叡王戦の対局場となる山梨に再び移動。前夜祭などのイベントを行った後、20日の最終局を迎えました。
大石「日月火水木、と休みなかったわけですよ。移動するのも疲れますよ」
いくら”乗り鉄”で知られる鉄道好きの藤井八冠とはいえ「表情には出ていなくても、相当疲れが溜まっていたのだろう」と大石は分析します。
因縁の対決は「一分将棋」に
実は幼い頃から対局している二人。その対局で藤井少年は大泣きしたそうです。
大石「『藤井さんを泣かせた男』としても有名だったんです」
二人のプロ入りは藤井八冠が14歳2ヶ月(史上最年少)、伊藤七段が17歳1ヶ月の時でした。
プロ入りしてからは最高勝率を収めるなど、メキメキと頭角を現した伊藤七段。しかしながら、藤井八冠に対しては連敗続きでした。
大石「叡王戦でなんとか勝利をし、タイトルを奪ったという形になります」
戦前の予想では、「本来の力を出し切ればタイトルは防衛できる」と藤井八冠の師匠。
一方、伊藤七段の師匠は「伊藤有利」を予想していたそうで、見事的中となりました。
大石「強がりではなく、『それだけ今、実力をつけているんだ』とはっきり言っていましたので、対局楽しみだと思っておりました」
決着の場は、過去にタイトル戦が13回行われた「常磐ホテル」。序盤・中盤は藤井八冠がリードしていました。
ところが、中盤後半に伊藤七段に追いつかれてからは、持ち時間がなくなって「一分将棋」に追い込まれ、さすがの藤井八冠にもミスが出たのでは、と大石は指摘します。
八冠独占が思ったより早く過ぎ去った藤井七冠ですが、将棋ファンにとっては観戦を楽しむ要素が増えたことでしょう。
新たなライバルの登場によって、ますます藤井七冠が強くなることを予感した大石でした。
(nachtm)