国立大学法人化から20年。大学はどう変わっていくのか?
『CBCラジオ #プラス!』の「ニュースにプラス!」のコーナーでは、アナウンサーの光山雄一朗が気になるニュースを紐解いていきます。6月4日放送のテーマは「国立大学法人化の20年」。大学によって自立した運営、活性化を促すために国立大学が法人化されて20年。メリットもありますが、まだ課題もありそうです。解説はCBC論説室の北辻利寿特別解説委員です。
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北辻「もともと国立大学は文部科学省が管轄する内部組織で、言ってしまえば国の行政機関でした」
そして20年前の2004年に行われたのが国立大学の「法人化」です。
目的のひとつは、大学での教育や研究を活性化させるため。
もうひとつは行財政改革の一環として公務員を減らすことがありました。
北辻「それまで文部科学省の内部組織だったので、いろいろ役所のルールがあって、何かやろうとしても手続きに時間がかかることも多かったんです」
自主性と自律性
法人化によって得られたメリットは何でしょうか?
北辻「国から独立したので大学の自由度が一気に上がりました。それぞれ自由に判断して対応できるようになった。
民間企業との連携もいちいち国にお伺いを立てなくてもいい。共同研究や寄付などが増えたり、いろんな意味で大学は自由に動くようになりました。
すなわち大学の自主性と自律性が増したというメリットがあります」
先に挙げた目的のひとつは達成できたようです。
経営が厳しい
一方、問題点もあると指摘する北辻委員。
北辻「まず費用です。国からの交付金が減りました。自分の脚で立ちなさいということですから。
今まで交付金で賄っていた人件費とか、キャンパスの光熱費とか、いろんなことが影響を受けた。
例えば辞めた教員の穴埋めができない大学も出ています。人件費を抑えるため、無期雇用でなく、3年とか5年とかの有期雇用、そういう任期あり教員が増えています」
論文の減少
厳しい予算繰りによるデメリットはまだあります。
北辻「教員自らが自分で研究費を外部から確保しないといけなくなった。かといって申請したり、やりとりしたりは時間がかかります。大学の講義は削れないので、自分の研究時間を減らしていく。
その結果、論文の数が減ってきました。
法人化される2004年は世界の主な国の中でも論文の数が4位だった。今は13位に落ちています。G7の中でも最下位です。
クオリティも落ちていて、イギリスの雑誌の国際的な貢献度を示す世界ランキングの上位100位に入った日本の大学はわずか2校、東大と京大だけです。日本の大学の研究力が落ちています」
二極化が広がる
さらに人件費や研究費など、大学間の格差も目立つようになっているようです。
北辻「法人化する時に小規模の大学であれば、一丸となって頑張るだろう、地方大学であれば地元の企業・自治体と連携できるだろう、と言っていましたが、現実は交付金が減っているのでなかなか目標を達成することができないです。
自由度が増したということで授業料も各大学で自分で決めることができます。それまで年間54万円だったのが、20%まで値上げをすることができるようになりました。
ただ、値上げすると少子化もあって、志望者が減ります。するとだんだん格差が広がり、二極化が広がっているという現状はあります」
少子化の影響
こうした二極化を止めるための支援策があるようです。
北辻「一昨年から、一部の大学ですが、国が数百億円を渡す、国際卓越研究大学制度を始めました。世界でもトップクラスの研究をやっている大学を対象にしてお金を出す。ただ、対象は5~6つの大学です」
しかし、この制度はむしろ二極化を進めてしまうのではないか、と北辻委員は懸念します。
そしてもうひとつ大きな問題もあります。
北辻「少子化です。一昨年の大学入学者数は63万人でした。文科省は2040年以降は12~14万人減ると試算しています。国立大学にとっては生き残りが大変です。大学同士の統合の動きも出てくるかもしれない。
法人化によって研究力が落ちることは、日本の国際競争力が落ちることなので、これをなんとか食い止めないといけません。課題に真剣に取り組む時期が来ています」
(みず)