書評家おすすめの名作!伊坂幸太郎『死神の精度』
毎週水曜日の『CBCラジオ #プラス!』では、書評家の大矢博子さんが様々な書籍を紹介しています。5月29日の放送で紹介したのは、伊坂幸太郎『死神の精度』(文春文庫)。大矢さんおすすめの名作とのことです。
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2005年に刊行された伊坂幸太郎『死神の精度』は連作短編集。語り手は千葉という死神です。
調査部に所属する千葉は、人間の世界に派遣され、情報部から指定された調査対象の人物の行動を1週間監視する仕事をしています。
調査の結果、対象は死ぬべきなのか見送るべきかを判断し、死ぬべきである「可」であればその翌日、つまり調査開始から8日目に人物は死ぬことになります。
対象になった時点でその人物の調査結果の大体は「可」で、よほどのことがないと「不可」になりません。
千葉は調査対象に近づきやすい見た目や年齢に設定され、対象との会話を経てどういう人物かを観察します。
千葉が地上で仕事している1週間はずっと雨で、晴れた空を見たことは一度もありません。
この『死神の精度』には、千葉が人間界で出会った人物との一週間の交流を描いた6つの短編が収められています。
1話の対象はメーカーの苦情処理係に勤務する女性。ただでさえメンタルを削られる仕事。
さらに彼女を指定してクレームを入れてくるストーカーのようなクレーマーもいて困っています。
2話の対象はヤクザで、兄貴分を殺した敵対する幹部を敵討ちで殺そうとしています。
3話では雪で孤立したペンションが舞台で、調査対象はある宿泊客。それ以外の宿泊客がどんどん殺されていきます。
そして4話での調査対象はブティックに勤務する若い男性、5話は人を刺した逃亡犯、最後の6話では70歳を過ぎて美容師をやっている女性です。
作中は千葉の仕事中になるため、常に雨が降っていますが、6話になってこの雨が効いてくる展開になっているということです。
魅力その1
大矢さんによると、この作品には1週間で二転三転する展開を見せてくれる面白さがあります。
調査対象と交流する千葉ですが、情に絆されて死を見送りにすることは一切なく、常にクールに見ているため、ほとんどの話で調査結果に「可」が出ます。
そのため調査対象が死ぬ結末がほとんどですが、その間に起きる事件の顛末がとにかく面白いということです。
例えば1話のクレーマーの目的は何なのか?、そして2話の敵討ちはどうなるのか…それぞれの謎が意外な展開を迎えます。
大矢「そういうことだったのか!ていう、腑に落ちる解決が待っている」
また、それぞれの話の伏線がとにかく上手とのこと。
些細な描写やちょっとした会話が後になって効いてきます。
魅力その2
主人公の千葉は根本的に人間と価値観が違いますが、それ故に滲み出る面白さがあるという大矢さん。
千葉が仕事中いつも雨であることを話したら「雨男なんですね」と返されます。
すると千葉は「じゃあ雪男は、仕事をする時に雪が降る人のことを言うんだな」といった、新しい発想を読者に与えます。
また「なぜ人間は見た目を気にするのか?」「片思いとわかってるのになぜ人を好きになるのか?」「人間はなぜ何を見ても人生に例えるのか?」など、哲学的な問いかけもあったり。
この作品では死を扱いますが、とても洒落ていて、哲学的な雰囲気も楽しめるエンターテインメント。
他とは一味違った名作を読んでみてはいかがでしょうか。
(ランチョンマット先輩)