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作業用から防災用へ、大切な頭を守る「ヘルメット」日本での創意あふれる開発史

作業用から防災用へ、大切な頭を守る「ヘルメット」日本での創意あふれる開発史
CBCテレビ:画像『写真AC』より「防災セット」

関東大震災から100年を迎えて、あらためて防災についての大切さをかみしめる。もしもの時に、大切な頭部を守るものが「ヘルメット」であり、職場や家庭など、多くの場所に常備されるようになった。そんな「ヘルメット」の日本での歩みを辿る。

戦闘に使う兜だった

「ヘルメット」はもともと、戦闘に使われる兜(かぶと)だった。古代ギリシアや古代ローマの時代、兵士の頭部を守るために、青銅や皮によって“頑丈な帽子”が作られた。その後、“頭を保護する”という役割は、戦場だけでなく、暮らしの中でも活かされるようになった。ギリシア神話の「ヘルメス」が頭にかぶっていたことから、「ヘルメット」と呼ばれるようになり、米国などでは作業現場でも使用されるようになった。

鉱山で出合った保護帽

「創業者・谷澤末次郎さん」提供:株式会社 谷沢製作所

日本で、このヘルメットに注目した人がいた。1894年(明治27年)に、神奈川県横浜市で生まれた谷澤末次郎(たにざわ・すえじろう)さんである。仕事で出入りしていた鉱山で、作業員が頭にかぶっていた作業帽に出合う。それは、帆布製の帽子だった。当時、日本各地の炭鉱では、落盤事故が相次いでいた。作業員の命を守るために、頭を保護することが大切だと、谷澤さんは自らの手でヘルメットを作ることを決意した。

ヘルメットを作るぞ!

「プロテクトー」提供:株式会社 谷沢製作所

当時、日本で作られ始めたばかりのヘルメットは、鍋と同じアルミニウム製で、表面が凹みやすかった。谷澤さんが目をつけたのは、植物由来の繊維を重ね合わせて薬で固めた「バルカナイズドファイバー」だった。それをプレスして、ヘルメットの形にして、防水のために漆を塗った。内側には、綿(めん)で作ったテープを縫い付けて、外からの衝撃を吸収する、クッションの役目を持たせた。谷澤さんは、1932年(昭和7年)、東京に「谷澤営業所」を創業して、2年後に、最初の商品となるファイバー製ヘルメット「プロテクトー」の実用新案を取得、発売した。

「軽く」するためのアイデア

「かるメット」提供:株式会社 谷沢製作所

谷澤営業所のヘルメットは、次第に国内各地の鉱山で使われるようになり、戦後は、製鉄所や工場、さらに建設現場へと広がっていった。同時に、ヘルメットを使いやすいように、その開発も本格化していった。作業現場では「軽い」ことが求められた。しかし、軽くするために薄くすると、強度も落ちてしまう。様々な素材を試した結果、母材のポリエステル樹脂に替わる「ビニルエステル樹脂」にたどり着いた。強度は強く、衝撃を吸収する力も十分だった。それを使った国内最軽量のヘルメットが誕生した。1987年(昭和62年)に発売された「かるメット」である。従来のものより40グラム軽量化し、当時の国内最軽量となった。

頭に固定するバンドを開発

「EPAヘッドバンド」提供:株式会社 谷沢製作所

作業中に脱げないような工夫も凝らした。口元で固定する「あご紐」に加えて、かぶる人の頭のサイズに合わせて、ヘルメットの内側でも頭に固定する「ヘッドバンド」の形も改良を重ねた。また、ヘルメットの内側には発泡スチロールが備えられていたが、長い間かぶっていると、蒸れて不快になった。そこで通気孔を開けた上で、発泡スチロールに替えて、六角形のブロック状の衝撃吸収ライナーを採用。隙間が広がって、ヘルメットの内部に、より空気が通るようになった。

透明なひさしの効力

「透明ひさしイメージ」提供:株式会社 谷沢製作所

作業現場で活躍するヘルメットの正面には、落下物から頭を守るために「ひさし」が付いている。しかし、現場作業で上を見上げたりすると、視界を遮ったり、狭くしたりした。そこで「ひさし」を透明にした。1994年(平成6年)に「透明なひさし」を一体として形にしたヘルメットを開発した。実にさりげないアイデアだったが、作業する人たちにとっては、大いなる進化だった。日本製「ヘルメット」の細やかさの象徴とも言えよう。

防災用ヘルメットの進化

「回転式ヘルメット『Crubo』」提供:株式会社 谷沢製作所

“作業用”として歩み出したヘルメットだが、今や“防災用”としての役割もある。地震などの災害の時に、身体で最も大切な頭部を守ってくれる。いつも身の周りに置いておきたいが、使わない時はかさばってしまいがちだった。そこで誕生したのが、折りたたむことができるヘルメット。2016年(平成28年)には、ヘルメットの上半分を回転させると、高さがほぼ半分の8センチにまで、薄くなるヘルメット「Crubo」が誕生した。机の引き出しにも簡単に収納できるようになり、日常の“携帯用”として、ヘルメットはますます身近な存在となった。

「ヘルメットはじめて物語」のページには、日本の文化の歩み、その確かな1ページが、“軽くて脱げない”そんな“魂のヘルメット”によって、しっかりと守られている。

          
【東西南北論説風(452)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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