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国宝の茶室「如庵」 ~信長の弟・織田有楽斎と重なる有為転変の歴史

国宝の茶室「如庵」 ~信長の弟・織田有楽斎と重なる有為転変の歴史
国宝茶室「如庵」(正面)提供:名古屋鉄道株式会社
国宝茶室「如庵」(正面)提供:名古屋鉄道株式会社

茶人有楽斎(うらくさい)として知られる、織田信長の弟、織田長益(おだ ながます 1547~1622年)。その名は、国宝に指定されている茶室「如庵(じょあん)」によっても知られている。

如庵(点前座・中柱) 提供:名古屋鉄道株式会社

現在、愛知県犬山市「日本庭園 有楽苑」に建つ茶室 如庵。現在、国宝に指定されている3つの茶室のひとつである。千利休が作ったとされ、同じく国宝に指定されている「待庵(たいあん)」が持つ求道的な厳しさにくらべて、二畳半台目という決して広くはない空間ながら、給仕の動線に沿った三角形の板畳「鱗板(うろこいた)」、壁に当時の暦を貼った遊び心など、有楽斎の瀟洒(しょうしゃ)な美意識を感じることができる。

安土城、大坂城… 当時の壮大な建築がことごとく消え失せ、この小さな“庵”が現代に残っていることは奇跡的なことである。

富岡鉄斎 如庵図 正伝永源院蔵 提供:四百年遠忌記念特別展「大名茶人 織田有楽斎」京都会場広報事務局

如庵は、元和4年(1618年)頃、有楽斎が隠居所とした京都 建仁寺の塔頭(たっちゅう)正伝院に書院とともに建てられ、その生涯を閉じるまで、有楽斎が悠々自適の生活を送り、その後、江戸時代を通じてその場所に在った。

にわかに慌ただしくなったのは、戦乱とは縁遠そうな明治になってから。明治新政府の神道国教化政策によって行われた仏教の破壊運動、「廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)」である。

新政府が当初置かれた京都でも、明治4年(1871年)「社寺領上知令」で大寺院がその境内地の大部分を没収され、京都の近代化政策の中心事業だった四条大橋の鉄橋化では、用いられた鉄筋の材料は供出された仏具などの什器類だったという。

正伝院も例外ではない。寺地を移動することとなり、元の土地と建物は、建仁寺の旧所有などとともに「下京第十五区」現在の祇園甲部に払い下げられた。

払い下げられた土地建物は、歌舞練場や芸舞妓が職業教育を受けるための製茶場や養蚕場、療病院などに活用され、現在の「学校法人八坂女紅場学園」となる。ちなみに、広大なこれらの土地、祇園町南側界隈は、当時から一貫して現在も八坂女紅場が所有者となっている。

長谷川等伯 旧書院障壁画のうち山水画(部分)名古屋鉄道株式会社蔵 提供:四百年遠忌記念特別展「大名茶人 織田有楽斎」京都会場広報事務局

「都をどり」が創始された第一回京都博覧会(明治5年(1872年))で、如庵は博覧会を見て疲れた人々を茶でもてなすための場として用いられ、その後も画家たちの展示のための場として用いられるなど、文化サロンのように利用されていたが、明治41年(1908年)、如庵は書院、露地とともに、当時の価格千八百円で売却され、東京麻布の三井家に移築された。如庵は解体せず原形のまま東京まで移動されたという。

昭和11年(1936年)重要文化財(旧国宝)に指定された如庵は、昭和13年(1938年)当時の三井家当主が大磯の別邸に移築していたので戦火を免れたのである。ちなみに東京麻布の三井家は東京大空襲で焼失している。

さらに昭和45年(1970年)、名古屋鉄道株式会社の所有となる。

当時は高度経済成長期、国民の所得水準も向上し、レジャー需要も増大した。名古屋鉄道は、名古屋近郊の犬山市を観光事業地として、モンキーセンター、犬山野猿公苑、明治村、リトルワールド等のテーマパークを開園。また、犬山温泉、名鉄犬山ホテル(現在、跡地にホテルインディゴ犬山有楽苑がある)も開業した。

犬山城(ホテルインディゴ犬山有楽苑から) 提供:CBCテレビ

昭和47年(1972年)、国宝 犬山城を臨む佳景の地に、「如庵」、「旧正伝院書院」が移築され、昭和を代表する建築家 堀口捨己の監修によって作庭された庭園は有楽斎に因んで「有楽苑」と名付けられ、現在に至る。

コロナ禍も落ち着いた令和4年(2022年)10月、有楽斎を偲ぶ茶会「如庵茶会」が4年ぶりに催され、有楽斎自筆の書状など名品を用いて抹茶が呈された。

他の二つの国宝の茶室が建造当時の地にそのまま残るのに対して、有楽斎の有為転変にしてしたたかな生涯のように、茶室「如庵」は京都、東京、大磯、犬山と転々としながらも現代まで失われなかった。静かなたたずまいの如庵を見ていると、数百年も夢のようである。

参考文献:
 展覧会図録「大名茶人 織田有楽斎」読売新聞社
 「仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか」鵜飼秀徳著 文春新書
 「祇園甲部と都をどり~あゆみと未来~」学校法人八坂女紅場学園発行

【by CBCテレビ解説委員・北島徹也】

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