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自分の耳の中をスマホで見ながら耳掃除!究極の欲求を実現した「耳かき」の歴史

自分の耳の中をスマホで見ながら耳掃除!究極の欲求を実現した「耳かき」の歴史
「スマホで視ながら耳かき掃除機」提供:サンコー株式会社
「スマホで視ながら耳かき掃除機」提供:サンコー株式会社

古代ローマの遺跡から青銅で作られた「耳かき」みたいな道具が見つかり、また中国でも3000年以上前の遺跡から、翡翠で作られた「耳かき」が見つかっている。「耳の中を掃除」するという行為は、古今東西を問わず、人間の性(さが)と言えるのだろうか。もっとも耳鼻科など専門家によると、耳垢(あか)は取らなくても自然に排出されるもので、むしろ耳の中を傷つけてしまうことが心配という指摘もある。

「耳かきと綿棒」提供:サンコー株式会社

そんな「耳かき」だが、日本でも自然発生的に登場したようである。記録に残っているのは江戸時代、髪に差す簪(かんざし)と一対だった。髪に差す側の反対側に、小さな匙(さじ)状の耳かきが付いている。江戸幕府によって、暮らしのぜいたくを禁止するおふれが出た時に「これは髪を飾るかんざしではなく、耳を掃除する道具だ」と言い訳したらしい。海外では耳掃除をする時、多くは綿棒を使用するが、日本では「耳かき」という道具が日常生活に入り込んでいる。観光地でもお土産で売っているし、持ち歩き用のポーチにも小型のものが入っている。匙部分の反対側に「梵天(ぼんてん)」と呼ばれるフワフワの白い羽毛がついている「耳かき」は、日本人にとって昔から馴染みのある形だろう。

江戸時代には、耳かきを専門とする「耳垢取り」という商売もあった。落語「耳垢取りのおはなし」に紹介されている。金、銀、そして釘、松竹梅3種類の耳かき道具も登場する。現在でも「イヤーエステサロン」という耳かきサービス専門店がある。2005年に厚生労働省が「耳垢を取ることは医療行為にあたらない」と見解を出したことから、こうした店がお目見えした。海外から訪れる人はそんな店の存在に驚き、日本人の「耳かき好き」をあらためて認識すると言う。

「スマホで視ながら耳かき掃除機」提供:サンコー株式会社

そんな中、驚きの進化を遂げた「耳かき」が登場した。耳掃除をする時、自分の耳の中を見ることはできない。手探りで道具を動かす。しかし「それができたらいいな」と思う人は多いはず。そんな欲求を満たす新たな「耳かき」が誕生した。製造したのは、東京に本社がある「サンコー株式会社」。真夏に首に巻いて涼しい「ネッククーラー」や傘に扇風機がついた「ファンブレラ」など、アイデア商品を次々と生み出すことで知られている。「自分では見ることができない耳の中を、実際に自分で見ながら掃除する」そんな耳かきの仕組みとは?

「スマホで視ながら耳かき掃除機」提供:サンコー株式会社

耳かきの先端には小さなカメラ、耳の中を照らすLED搭載の3.9ミリ。そのカメラが写す映像は、無線で外へ送られる。映像を映し出す画面はスマートフォン。専用のアプリに接続すれば、手元のスマホに自分の耳の中が映し出される。右手に耳かき、左手にスマホ、それで耳掃除をスタートする。画期的な新商品だったのだが、問題も生じた。耳かきを耳の中で動かすと、スマホに映し出される映像もそれに伴って揺れてしまう。せっかくの画面は動いてしまって、とても見づらい。そこで手を動かさなくてもいいように耳かきの先端をモーターで回転させ、さらに吸引ノズルで残った小さな耳垢も吸い取るように工夫した。こうして完成した耳かきは「ごっそり爽快!スマホで視ながら耳かき掃除機」と名づけられて、2021年11月に発売された。“ここに極まれり”とも言える究極の「耳かき」は6980円(税込)、順調に売り上げを伸ばしているそうだ。

膝枕で誰かに耳掃除してもらう微笑ましい風景も今は昔なのか。気持ちよく耳掃除をしたいという願いに応えて、ニッポンのアイデアと開発技術によって生み出された究極の耳かき道具。「耳かきはじめて物語」のページには、日本の生活文化の歩み、その確かな1ページが、今は“スマホ画面に映し出されながら”刻まれている。
          
【東西南北論説風(378)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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