実はドラゴンズはノーヒットノーラン投手の宝庫だった!
ノーヒットノーランという記録はファンを大いに沸き立たせ、そしてチームに勢いを与える。
2019年9月6日に、福岡ソフトバンクホークスの千賀滉大(こうだい)投手がノーヒットノーランを達成した。プロ野球の歴史で80人目、育成出身選手としては初めての偉業である。この試合キャッチャーとして大記録を分かち合ったのが甲斐拓也捕手であり「育成出身バッテリー」だった。こんなところにもソフトバンクホークスの選手層の厚さを痛感する。令和に入っても初となるノーヒットノーランに球界は沸いた。
中日は「ノーヒットノーラン投手王国」
福岡から届く快挙のニュースを名古屋で受け止めながら、半世紀以上のドラゴンズファンとして、実はドラゴンズ投手のノーヒットノーランを結構な数で体験していることに気づいた。それもそのはず。1936年からのプロ野球の歴史の中で、ドラゴンズの投手がノーヒットノーランを記録した回数は実に11回。12球団で1位の讀賣ジャイアンツの16回に次ぐ堂々の2位なのである。実はドラゴンズは「ノーヒットノーラン投手王国」だった。
大谷翔平も驚く?ミスター・ドラゴンズの実力
2リーグ前の名古屋軍時代では、西沢道夫投手が1942年(昭和17年)に記録した。球団史上で最初のノーヒットノーラン投手だった。西沢道夫という選手の凄さは、第二次大戦後の1952年に今度は打者として、首位打者と打点王の二冠王を獲得したことだ。
ノーヒットノーラン時は、現在柳裕也投手が背負っている「17」番の背番号だったが、その後打者として「15」を背負って初代「ミスター・ドラゴンズ」と呼ばれるようになった。背番号「15」は永久欠番だ。こんなノーヒットノーラン投手は他球団にはいない。竜の誇りである。
その西沢投手に続き、翌1943年には石丸進一投手が球団2人目のノーヒットノーランを達成した。石丸投手はその年に20勝を挙げたが、その後に神風特攻隊員として出征、二度と竜のマウンドに戻ってくることはかなわなかった。
近藤真一ノーヒットノーランの衝撃
球団名が「中日ドラゴンズ」になってからの最初のノーヒットノーラン投手は杉下茂さん。エースとして球団初の日本一を達成した翌年の1955年(昭和30年)だった。
大矢根博臣さん、中山俊丈(達成当時は義朗)さんと続いた後に、衝撃のノーヒットノーラン投手が登場した。近藤真一(現・真市)投手である。1987年(昭和62年)8月9日、ナゴヤ球場でのジャイアンツ戦で記録したノーヒットノーランは、高卒ルーキーのプロ初先発という大舞台だっただけに、ドラゴンズファンはもちろんのこと、全国のプロ野球ファンを熱く興奮させた“真夏の夜の夢”だった。
巨人相手に次々と記録達成
野口茂樹投手と川上憲伸投手のノーヒットノーラン試合も記憶に鮮明だ。なぜか?
どちらも舞台は東京ドーム。相手はもちろん讀賣ジャイアンツ。野口投手は1996年(平成8年)、川上投手は2002年(平成14年)、それぞれ8月におけるノーヒットノーラン達成だった。近藤投手の快投を覚えている多くのドラゴンズファンにとって「8月」それも「宿敵ジャイアンツ相手」という痛快なノーヒットノーラン試合が続いた。
実は2リーグ後に、ジャイアンツに対しノーヒットノーランを達成した投手は全部で7人。その内なんとドラゴンズが1964年(昭和39年)の中山投手を含め4人も占めているのだ。竜党としてこれは胸のすくことであり、ノーヒットノーランという記録に親しみを持つ大きな要因なのかもしれない。
山本昌が最年長の金字塔
メルビン・バンチ投手、2000年4月の来日早々ノーヒットノーランも鮮烈だったが、忘れていけないのが山本昌投手の「プロ野球史上最年長でのノーヒットノーラン達成」である。2006年9月16日ナゴヤドームでの阪神タイガース戦だった。山本昌はこの時41歳。今でも破られていない記録だが、それ以上に大きかったのは、リーグ優勝をめざしていたチームに終盤戦での大いなる勢いをつけたことであろう。40代の快投によって、この年の落合ドラゴンズはゴールへと加速することができた。
あの日本シリーズから6年後の快挙
現時点でドラゴンズの最も新しいノーヒットノーラン記録は現役の山井大介投手である。2013年6月に横浜DeNAベイスターズ相手に達成した。山井投手は2007年(平成19年)の日本シリーズ胴上げ試合において完全試合達成目前の交代という、大きな議論を巻き起こした時の主役のひとり。その試合はリリーフの岩瀬仁紀投手と共に“2人で”ノーヒットノーランどころか完全試合を達成してチームは53年ぶりの日本一になった。「あの交代は是か非か」といろいろ語られたが、その6年後のノーヒットノーラン達成は山井投手の実力をあらためて見せた、大きな1勝だったと思っている。
ヤフオクドームのマウンドで抱き合う千賀と甲斐のバッテリーに拍手を送りながら、ドラゴンズで次にノーヒットノーランを達成するのは誰なのだろう?と楽しい予想をしている。
そんな思いに浸ることができるのも、2019年シーズン、10勝を達成した柳裕也投手、力強く復活した大野雄大投手、この左右の両輪の他、梅津晃大投手はじめ次々と有望な若い投手たちが登場してきたからである。
ドラゴンズ球団史上12回目のノーヒットノーラン、まもなく実現かもしれない。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※記録については2019年9月12日現在です。
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。