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松坂大輔投手へ「惜別の辞」~スーパースターがドラゴンズに存在した日々~

松坂大輔投手へ「惜別の辞」~スーパースターがドラゴンズに存在した日々~

“平成の怪物”松坂大輔投手が中日ドラゴンズを去った。当日に「激震」という言葉を使った報道もあったが、全国の松坂ファンはともかく、ドラゴンズファンは意外に淡々と受け止めていたのではないだろうか。退団を申し入れにやって来たナゴヤ球場での談話には、松坂投手の思いを示すキーワードが3つあった。

松坂大輔と世代交代

最も心に残ったのは「これからのドラゴンズのことを考えた時に」という言葉だった。
今季2019年のドラゴンズは、これまで停滞していた世代交代が与田剛新監督の下で一気に動き始めた年だった。特に投手陣の新旧バトンタッチの波は顕著だった。
梅津晃大、勝野昌慶というルーキー2投手、清水達也と山本拓実という2年目の投手らが、先発で相次いでプロ初勝利を挙げた他、4年目小笠原慎之介投手や3年目藤嶋健人投手らもケガなどから復帰して活躍した。来季は本当に楽しみである。
そんな若手投手たちの相談相手でもあったと言われる松坂投手にとって、冷静に「自分の居場所」を考えていたことは容易に想像できる。今季の登板わずか2試合、そして来季には40歳を迎える松坂投手が、今後マウンドに上がる機会はどこまで与えられたのだろうか。「これからのドラゴンズを考えた時に」というフレーズは重い意味を持つ。

松坂大輔の退団理由

「サンデードラゴンズ」より松坂大輔投手(C)CBCテレビ

一方で退団を決意した理由について、松坂投手は先に退団が決まっていた森繁和さん(今季はシニアディレクター。前監督)と友利結さん(今季は国際渉外担当)の2人の名前を挙げて「2人が退団することになったのを聞いて『僕もいちゃいけないな』と思った」と語った。正直に話すなあと驚かされた。同時にがっかりもした。
横浜高校から西武ライオンズに入団していきなり最多勝を3年続けた。翌年からは最多奪三振のタイトルも加わった。最優秀防御率のタイトルも2回取り、2001年には投手にとっての最高栄誉である「沢村賞」にも選ばれた。そして大リーグ、ボストン・レッドソックスへ移籍し、いきなり15勝、18勝と活躍を続けた。そんなまぎれもないスーパースターである。
「エースは孤高の存在」と言われる。「誰々がいなくなるから自分も」という理由は正直残念だった。むしろ「球団からは大幅減俸を言われたが、その額に納得がいかないから退団する」と語ったとしたら、その方がファンの立場としては納得がいったと思う。

松坂大輔の竜党への感謝

「サンデードラゴンズ」より松坂大輔投手(C)CBCテレビ

最後のキーワードは「僕を一生懸命応援して下さったファンの皆さんに感謝しています」という御礼のメッセージだ。
ドラゴンズファンはこの2年間、ドラゴンズブルーのユニホームに身を包んだ松坂投手を心から愛し、そして応援した。久しくスーパースターという存在がなかったチームに、他球団のイメージが強いとはいえ「全国区のスーパースター」が加わったのだ。
1年目の背番号「99」、2年目の背番号「18」、それぞれにユニホームやグッズは飛ぶように売れた。特に入団早々の沖縄キャンプでは、北谷球場敷地内のどこに松坂投手がいるのか、その空気感で分かったほどだ。スーパースターのオーラを体感した。移籍1年目に6勝を挙げてカムバック賞も受賞し、かつて慣れ親しんだ背番号「18」で臨んだ2019年シーズンに竜党は大いに期待した。
しかし、キャンプでの右肩負傷から始まり、練習日にもかかわらず治療と偽ってゴルフに行った問題など、マウンドでの活躍よりも場外での話題の方が多かった。写真週刊誌に掲載された写真、ゴルフバッグを持っていたのが痛めていたはずの右腕であった姿には言葉をなくした。
それでもドラゴンズファンの熱い応援は、松坂投手の心に刻まれていたのだろう。最後の感謝の言葉は嬉しかった。

スーパースターの存在とは?

チームに「スーパースター」を持つこと、この経験はドラゴンズ球団も、そして私たちファンも本当に久しぶりだった。嬉しかった。頼もしかった。自慢したかった。しかし一方で戸惑いもあった気もする。この人は本当にドラゴンズを愛してくれているのか?
稀代のスターが去った後、ドラゴンズに期待したいことはひとつ・・・「今度は自前のスーパースターをファンの前に登場させてほしい」。
その時にこそ、松坂大輔という投手が名古屋の町に存在していた記憶が大きな意味を持ち、そして再び光り輝くのではないだろうか。

「またグラウンドで会えるように頑張っていきたい」と語りドラゴンズタウンを去った“平成の怪物”。もし来季に対戦がかなうのなら、それを打ち砕いてこそのプロである。

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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