“新星”高橋宏斗投手を獲得したドラフトから見えてくる竜の明日は?
「これまで夢を与えてもらったドラゴンズ。今度は自分が子どもたちに夢を与えたい」
ドラフト1位指名を受けた直後の18歳が語るステキな言葉を聞きながら、正直ホッとした気持ちの2020年ドラフト会議だった。新型コロナによる極めて異例なドラフトだっただけに。
抽選なし!高橋を単独指名
中日ドラゴンズは、2020年ドラフト会議で、地元・中京大中京高校の右腕エース・高橋宏斗投手の単独指名に成功した。ファンのひとりとして、心のどこかで、いや、かなり全面的に、ドラゴンズの1位指名については、今回は「抽選なし」を望んでいた。
この2年、ドラゴンズは根尾昂、石川昂弥という地元出身で全国的にも注目されていた高校生スター選手を1位指名し、競合の末、いずれも与田剛監督の右腕が当たりくじを引き当てた。歓喜のドラフトだった。
この高揚感は緊張感と背中合わせである。他球団の1位指名発表について与田監督が「高橋の“た”が聞こえるなよと待っていた」と語った同じ気持ちをファンとしても味わったが、結果は抽選なし。地元の逸材を3年連続で獲得できた。
新型コロナで前例なきシーズン
異例のシーズン、そして異例のドラフト会議だった。
新型コロナによって会議の姿は変貌した。大広間に用意された丸テーブルに12球団の幹部や監督が座り、会場に詰めかけたファンの前で指名や抽選に臨んできたスタイルは一変した。無観客で各球団は個室、さらに部屋の人数も6人までに限定された。抽選会場も別室に設けられ、くじを引く人には手指消毒も義務づけられた。無限の将来が広がる若者の進路を決める場にもかかわらず、真逆の閉そく感に対し戸惑いもあった。
会議に至るまでの道も険しかった。来季への戦力分析もままならないペナントレース途中での開催、さらに選手をチェックするスカウト活動も限られた。春夏の甲子園大会が中心になるなど、高校野球に留まらずアマチュアの大会は中止が相次ぎ、さらに感染防止のため「人との接触」が禁じられた。その環境下で、チームの将来の戦力を選択し獲得することは至難の仕事だったはずだ。一方で、もし高橋投手が甲子園の舞台で大活躍していたら、ドラゴンズが“一本釣り”で指名できたかどうかとの思いもよぎる。
即戦力外野手もほしかった?
各球団の指名にはところどころに戸惑いも見られた。
顕著だったのは、上位指名の高校生の数が少なかったことだ。大学生や社会人など安定を求めたようだ。そんな中、ドラゴンズは1位の高橋宏斗投手を含む6人を指名した。高校生4人、大学生1人、社会人1人で、この内の投手は4人。育成選手は投手ばかり3人を指名した。
センターを守る大島洋平選手の他はケガが多く、シーズンを通して活躍できなかった外野陣。この補強ポイントのためには、6位の三好大倫選手に加え、もう1人か2人は即戦力の野手がほしかったところだ。それでも、与田監督が「100点」と総括したように、3年連続で事前に指名を公表した選手を1位で獲得できたことは成功と言えるだろう。
他球団では、セリーグの首位を独走する讀賣ジャイアンツが育成選手をなんと12人も指名。それも阿部慎之助2軍監督に指名を任せるという画期的な戦略を見せた。首位にいながらも着々と将来のビジョンを描いて歩む巨人。ドラゴンズも負けてはいられない。
今こそ球団あげての“演出”を!
ドラフト前から注目していた3年連続「ドラゴンズジュニア出身」の1位指名が実現し、竜党は大いに盛り上がっている。
少年野球チームでドラゴンズブルーのユニホームを着ていた小学生たちが、大人になって同じユニホームを着る。根尾昂、石川昂弥、そして高橋宏斗。何という夢があることだろう。根尾、石川両先輩がバックを守るナゴヤドームのマウンドに高橋投手が立つ日は、スタンドでその姿を見守りたいと今からワクワクする。
同時に、ドラゴンズ球団にはファンが描くこうした夢を積極的に紡いでいってほしい。
ドラゴンズジュニア3人衆のグッズも見てみたい。3選手そろい踏みのタオルなどはもちろんのことだが、ジュニアユニホームの“大人バージョン”を逆に制作してもいい。
ドラフト前の当コラムでも書いたが、ドラフト会議は“チームに勢いをつける場”でもある。こうした盛り上がりは少年チームである「ドラゴンズジュニア」にも大きく跳ね返り、そこからまたファンのすそ野が広がるはずだ。
高橋宏斗投手について、ドラフト前に米村明チーフスカウトは「松坂大輔投手や田中将大投手の高校時代に負けていない」と語っていた。松坂投手も田中投手も、ドラフト1位で入団した直後に背負ったのは背番号「18」だった。現在ドラゴンズの「18」は空き番号である。
新型コロナに翻弄された2020年ドラフト会議は終わったが、ドラゴンズファンの夢と楽しみは明日へ向かって続いている。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。