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ドラゴンズファンからメジャー菊池雄星投手に贈る応援歌

ドラゴンズファンからメジャー菊池雄星投手に贈る応援歌

海の向こうで投げるひとりの投手が気になっている。シアトル・マリナーズの菊池雄星投手である。

日本のプロ野球ペナントレースも開幕して1か月。
多くの野球評論家が最下位と予想した中日ドラゴンズ、しかし現時点は一転、その健闘ぶりが注目されている。原動力のひとつは投手陣の頑張りであろう。
先発ローテーション投手たちはゲームを作り、昨シーズン救援防御率4.93、逆転負け実に38試合と“崩壊”したリリーフ陣もがんばっている。
やはり22年前に広いナゴヤドームに移ってからのドラゴンズ野球には、投手陣の整備が必要不可欠なのだろう。

菊池投手ドラフトで人気殺到

そのドラゴンズと菊池雄星投手の接点は、ちょうど10年前、2009年(平成21年)のドラフト会議である。
1位指名は岩手県花巻東高等学校の左腕エース菊池投手に殺到し、ドラゴンズはじめ6球団が入札した。抽選の結果、埼玉西武ライオンズが菊池投手を獲得した。
ちなみにドラゴンズは、智弁和歌山高等学校の同じく左腕、岡田俊哉投手を獲得した。背番号「21」、けがに苦しみながらも貴重な中継ぎ投手である。

ドラゴンズが逃した選手たち

我が身を振り返ってもファンというものは勝手なものであり、「逃がした大魚」についてはどうしても忘れたい気持ちが働く。ドラフト会議で1位指名入札したものの獲得できなかった選手の記憶を自ずから薄め、代わりに指名して入団した選手を応援したくなるのは人情だろう。
1985年(昭和60年)の清原和博選手、1992年(平成4年)の松井秀喜選手、それぞれドラフト1位の抽選で外したことは覚えているものの、紀田彰一、河内貴哉、そして寺原隼人らの高校選手を1位指名して獲得できなかったことは、今回あらためて思い出したほど遠い記憶になっている。2018年ドラフトで高校球界のスーパースター根尾昂選手を見事に獲得できたことの喜びも、それに拍車をかけたのであろうが。

驚きの「雄星ノート」

この春、ドラゴンズとは縁のなかった菊池雄星という投手にあらためて注目したことには理由がある。3月末に出版された1冊の本だ。タイトルは『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋刊)。その名の通り、菊池投手が書き綴ってきた日記などをまとめた本である。
冒頭で菊池投手は、「書く」ということが自分の人生の中心にあると語り、中学2年生の冬から日記的なノートを書き始めたと明かしている。練習に明け暮れる野球選手が文章を書き続けてきたことにも驚くが、本では14年間にわたって綴られた野球ノートが写真によって紹介されている。
「必ず日記を書く時間帯があり、そこから逆算してスケジュールを立てる」との言葉通り、「菊池雄星」という投手が自分の野球人生を“構築”していく姿そのものが、律儀な書体の文章からあふれ出ている。

メジャーへの道を綴った日々

2017年(平成29年)に16勝6敗、防御率1.97という成績で、最多勝と最優秀防御率のタイトルを獲得してからは、夢だったメジャーリーグへ向けて歩み出す。
そこからの野球ノートには、「メジャーまであと〇〇日」という日々のカウントダウン記入と共に、「今日の感謝」「メジャーへ近づけた一日だったか?」「今日をもう一度やり直せるとしたら何をするか?何をしないか?」という3つの項目について、思いが綴られていく。野球に対して人生を賭けて向き合い、自分の目標と考えを文章にしたためながら投げ続ける、その真摯な歩みに強烈な印象を受けた。

父の死を乗り越えて初勝利

菊池投手は4月20日、メジャーでの初勝利を挙げた。6度目の登板、待ちに待った勝利であった。
その菊池投手だが、シーズンに入って早々に最愛の父・雄治さんを病によって亡くしている。著書『雄星ノート』の中にも随所に両親に対する思いが綴られている。高校を卒業する時にメジャー入りを強く願ったのも両親だった。父の訃報を受けても菊池投手は帰国しなかった。そして悲しみの中での念願の初勝利。万感の思いであっただろう。
「雄星ノート」の新たなページには何が綴られたのだろうか。
日本でも米国シアトルでも、夜空を見上げれば星がある。父はきっと、最愛のわが子のピッチングを“星”となって見続けている。

新生・与田ドラゴンズ1年目の戦いに一喜一憂しながら、太平洋の向こうで1年目の戦いを続ける左腕にもエールを送り続けたい。
「平成」から「令和」へ、2019年の野球シーズンが進んでいく。

【CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

<引用>菊池雄星『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋・2019年)

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