かつて“親子3世代海女さん”として地元盛り上げた家族 22歳長男が海女小屋の料理長に
三重県鳥羽市で有名な親子3世代海女が、リゾート施設にオープンした海女小屋があります。女性が切り盛りしているのかと思いきや、海女小屋を支えているのは22歳の若き男性料理長でした。三重県を知ってもらいたい…。郷土の魅力を広めたい…。情熱を燃やす若手料理人の想いを取材しました。
海女小屋で食べられる贅沢なコース料理とは
2021年、三重県多気町にオープンした日本最大級の商業リゾート施設「VISON」。年間350万人が来場する大人気施設です。産地直送の野菜や果物が並ぶマルシェや、国内屈指の人気飲食店が立ち並びます。
その中にある、「海女小屋なか川」は、現役の海女さんがおもてなししてくれる海鮮専門店。
お店の外では、気軽に食べられる伊勢海老汁や、大粒の牡蠣などを販売。一番人気の焼き牡蠣は多い時には1日100皿以上売れることもあり、連日多くのお客さんで賑わっています。
「海女小屋なか川」の一番の売りは、お客さんの目の前で新鮮な魚介を焼いてくれる「海女小屋」。海女さんが実際に獲った海の幸を使った、贅沢なコース料理が楽しめます。
従業員は現役海女でもある母・中川早苗(50歳)さんと娘・静香さん(31歳)、漁師の父・和昭さん(58歳)。かつて親子3世代海女として鳥羽市を盛り上げてきた中川家が家族で経営しているお店です。
働いているのは海女さんばかりかと思いきや、中川家長男の涼太郎さん(22歳)が料理長を務めています。
(海女小屋なか川・中川静香さん)
「涼太郎がいなかったら(店は)できないです」
涼太郎さんは、今後少子高齢化で海女さんが減少していく中で少しでも貢献したいという思いをもって日々働いています。
地元食材に最大限こだわって提供
現在、涼太郎さんが住む三重県鳥羽市は全国有数の海女の街として、多くの海女さんが活躍してきました。
しかし、年々海女さんの数は減少。1949年に3115人いた海女さんも、2017年には430人に。海女文化は消滅の危機に陥っています。
(海女小屋なか川・中川涼太郎料理長)
「海が昔から大好きで、時間があれば海に行っていた。これ(海女文化)がなくなってしまうのは悲しいので、少しでも力になれたらなと」
涼太郎さんが作るのは、趣向を凝らした創作料理の数々。大あさりに特製のアリオリソースをかけた料理など、お店のコースメニューは全て涼太郎さんが考案しています。
料理によって塩は、炭塩、海外産岩塩と使い分けていて、食材にもこだわりがあります。
市場で仕入れたサザエや牡蠣などの他にも、海女さんである母・早苗さんがとったアワビや、漁師資格を持った涼太郎さんが釣った旬の魚を提供。実家の畑で野菜の収穫や稲刈りも行います。
涼太郎さんが地元食材にこだわる理由は、せっかく畑と海があるのだから最大限に活かしたいから。自分たちが作った食材をお客さんに提供すると、お客さんが関心を持ってくれて、それが自分たちの自信にもつながると言います。
取材した日は朝、涼太郎さんが釣ったアジの刺身に実家の畑で収穫したキュウリを付け合わせにした料理を出しました。食べたお客さんたちも「おいしい」と大満足です。
鳥羽の魅力を伝え、賑わいを取り戻したい…奮闘する料理長
実は涼太郎さんを見守る家族は、涼太郎さんに後を継いで料理人になってほしいとは言いませんでした。
父・和昭さんは、「頑張っている」と話しますが、母・早苗さんは、「まだまだ足りない部分がある」とちょっと厳しめの評価。
しかしこの厳しい評価は、涼太郎さんに期待しているからこそ。家族みんなで涼太郎さんを見守る姿勢に変わりはありません。
涼太郎さんは「VISON」内の練り物専門店「新兵衛屋」に、自ら考案した「海老のパリパリ天」を置くなど、若いお客さんに地元の食材を食べてもらえるよう奮闘しています。思わず写真を撮りたくなるような映える見た目の商品です。
地元鳥羽の魅力を伝え、また賑わいを取り戻したいと頑張り続ける涼太郎さんに目標を聞きました。
(海女小屋なか川・中川涼太郎料理長)
「(僕は)お客様との会話をめちゃめちゃ大切にしていて、世間話や子どもの話とか、そういう会話をしてお客さまと楽しい時間を作れたらいいなと思っています」
お店を訪れたお客さんに満足してもらえるよう奮闘する日々は、これからも続きます。
CBCテレビ「チャント!」8月19日放送より