人気デザート「プリン・ア・ラ・モード」を日本で誕生させた老舗ホテルの真心

人気デザート「プリン・ア・ラ・モード」を日本で誕生させた老舗ホテルの真心

皿に盛りつけられているのはカスタードプリンだけではない。アイスクリームに生クリーム、そして数々のフルーツ。豪華で楽しい人気デザートの「プリン・ア・ラ・モード」は日本で生まれた。

誕生の舞台は、横浜の「ホテルニューグランド」。1927年(昭和2年)に開業したホテルは、第二次大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)に接収されて、アメリカ軍の高級将校の宿舎となっていた。ホールでは、当時最新のアメリカ映画が上映されるなど、日本でありながら、ホテルの空間だけはまるで異国のようだったと言う。そこには軍人である夫の赴任に伴って一緒に日本にやって来た大勢の将校夫人たちも滞在していた。慣れない異国で暮らす女性たちを喜ばすことはできないだろうか?

ホテルのスタッフたちは知恵を絞り、米国風のデザートを作ることになった。

「 1930年頃のホテル内 」提供:ホテルニューグランド

このホテルニューグランドは正統派のヨーロッパスタイルのホテルで、初代料理長だったスイス人、サリー・ワイルさんが、戦前にドリアを発明したことでも知られている。ワイルさんのサービスの基本は“お客様が主役”。ドリアも「コック長はメニュー以外のいかなる料理にもご用命に応じます」とレストランメニューに書いて、リクエストが来たことがきっかけだった。その“おもてなしの心”は、歳月が経って戦後になってもレストランのスタッフたちに受け継がれていた。「見た目も華やか」「ボリューム感たっぷり」そんなデザートは何だろう?菓子を担当するパティシエたちは、米国にある製菓学校の教科書を取り寄せたり、将校夫人たちの要望を聞いたり、研究を進めた。そしてでき上ったのが「プリン・ア・ラ・モード」だった。

「1930年頃のメインダイニング」提供:ホテルニューグランド

カスタードプリンはもともと「クレーム・キャラメル」という名で、レストラン創業の時からメニューにあった。そのプリンだけでなく、バニラアイスクリーム、生クリーム、さらに、オレンジ、りんご、キウイ、チェリーなどのフルーツを加えた。チェリーは米国から輸入した缶詰を使用して、本場の味にこだわった。しかし、この盛りだくさんのデザートは、普通の小さな皿には入りきらない。そこで「コルトンディッシュ」という、ホテルでは小海老のサラダを盛りつけるために使っていたガラス製の横長の皿を使うことになった。そして「プリン・ア・ラ・モード」が完成した。

「ア・ラ・モード」はフランス語で「最新の」「流行の」という意味で、まさに当時は時代の先頭を走るデザートの誕生だった。

「プリン・ア・ラ・モード」提供:ホテルニューグランド

その中で、もうひとつ誕生したものもあった。りんごは「アローカット」と呼ばれる“うさぎ型”にカットされた。今や全国各地に広がり、お弁当などにも添えられる「うさぎカット」である。これが生まれたのも、実はこの「プリン・ア・ラ・モード」を開発する中でのことであり、大きな皿の上、プリンのすぐ脇で存在感を示している。横浜のホテルニューグランドではコーヒーハウスで、今も当時と同じ「プリン・ア・ラ・モード」を食べることができる。

軍人である夫と共に異国の日本にやって来た夫人たちを喜ばせたい。ホテル伝統の“おもてなしの心”が大きなデザート皿の上で花開いた。そこにはプリンやフルーツだけでなく、料理人たちの“真心”も盛りつけられている。

日本生まれ・・・「プリン・ア・ラ・モードは文化である」。

【東西南北論説風(256)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】 ※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿のコレ、日本生まれです」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして紹介します

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