球春!ドラゴンズ逆襲へのキーワードは?

北辻利寿

2018年2月 5日

2月に入り、プロ野球の各球団は一斉にキャンプをスタートさせた。

ファンにとっては待ちに待った季節である。シーズンに向けて、ご贔屓のチームがどんなスタートを切るのか?キャンプ地から毎日届くニュースに胸を躍らせる。

何よりもこの時期は、応援しているチームの優勝を宣言しても誰も文句は言わない。

ある意味で、ファンにとっては"言いたい放題"が許される、短くも楽しい日々でもある。

 

最も注目のキャンプ地便りは、今年の場合は国内からでなく海外からである。

北海道日本ハムファイターズが一次キャンプを行なっているアメリカのアリゾナ州スコッツデール。注目のルーキー清宮幸太郎選手が、背番号「21」のユニホームを初披露した。右手親指を痛めていて打撃練習は見送られているが、その一挙手一投足にファンの目が注がれる。

12球団で唯一、初めて采配をふるう新監督が誕生した千葉ロッテマリーンズ。沖縄の石垣島からは井口資仁監督の若々しい気合いの咆哮が伝わってくる。

セ・リーグでは、球団初の3連覇をめざす広島カープ、大谷翔平選手と同期である甲子園のスター藤浪晋太郎投手の復活が待たれる阪神タイガース、ドラフト1位で東克樹投手を獲得し着々と「左腕王国」を築く横浜DeNAベイスターズ、昨季の本塁打王を獲得したが先発陣のコマ不足解消がテーマの讀賣ジャイアンツ、そしてメジャーから古巣へ戻った青木宣親選手を起爆剤に最下位脱出を狙う東京ヤクルトスワローズ・・・いずれも話題豊富なキャンプとなっている。

 

そして、創設82年目を迎えた球団史上ワーストの5年連続Bクラスと低迷する中日ドラゴンズ。

昨シーズンの実績から見れば、その戦力はセ・リーグの中でも残念ながら見劣りすると言わざるをえない。2ケタの勝ち星をあげた投手は皆無、本塁打王のゲレーロ選手もジャイアンツに移籍してしまった。

現状で計算できる選手は投手野手を通してただひとり、大島洋平外野手である。もうひとり、去年の新人王・京田陽太内野手も挙げたいところだが、何といってもまだ2年目。プロ野球界には"2年目のジンクス"という伝統的な言葉があり、ここは慎重に構えたい。

球団トップの口からも毎年この時期には出ていた「優勝」という言葉はなく「Aクラス入り」という表現にトーンダウンしていることからも、チーム現状のきびしさがうかがえる。

 

ひとつのキーワードを念頭にして、ドラゴンズ浮上の課題について期待を込めて挙げてみる。そのキーワードが何か?は後ほど紹介する。

 

投手では、小笠原慎之介、柳裕也、そして鈴木翔太という若い"ドラフト1位トリオ"がどこまで勝ち星を積み重ねることができるか。

こちらもドラフト1位で入団し唯一1軍キャンプに選ばれた鈴木博志が"即戦力"として本人の希望通りにセットアッパーまたはクローザーとして機能するか。

岩瀬仁紀、山井大介、そして浅尾拓也のベテランが活躍できるか。

そして2018年キャンプの主役となっている松坂大輔が初のセ・リーグで復活を遂げることができるか。

 

捕手では、北海道日本ハムからFA移籍してきた大野奨大が、待望久しい"正捕手"の座に座ることができるか。

 

野手では、毎年期待されながらも燻り続ける高橋周平が、その打撃力から内野のレギュラーを奪い取るか。

選手会長になり進境著しい福田永将が「サード4番」という期待に応えられるか。

明るいキャラクターだがなかなかシーズンを通して活躍できない平田良介がケガから復帰し「ドラゴンズ愛!」とヒーローインタビューで絶叫できるか。

新外国人選手であるアルモンテとモヤがホームラン35本を打ったゲレーロに代わることができるか。

3~4年前に社会人から入団し若い背番号を付けながらも1軍に定着できない野手たちが、過去に同じ番号を背負ってきた大先輩たちに顔向けできる活躍をできるか。

 

そのキーワードは「大化け」である。

すべてがすべて化けることは無理としても、この内の1つや2つではなく、複数のポイントで「大化け」がなければ、ドラゴンズの今シーズンもきびしい戦いとなるだろう。

逆に「大化け」があれば楽しみにシーズンになる。

ペナントレースは"生き物"である。ぜひ「大化け」を積み重ねてもらいたい。

そのためには、このキャンプをどう過ごすかが勝負となる。

どの球団でもあることだが「今年のキャンプは例年と違って・・・」と練習強化の報を聞くと、「では去年は何をしていたの?」と思ってしまう。プロなのだから。

妥協せず、徹底的に満足できるキャンプを送ってほしい。

数々の指導者や名選手が口にしてきた言葉がある・・・「練習は嘘をつかない」。

 

キャンプ序盤に、ドラゴンズの北谷キャンプから届く話題は「松坂、松坂、松坂」だった。訪れるファンの数も、2000人、3000人、そして5000人と日に日に増加。

「松坂が投げた」どころか「松坂が打った」ことも全国ニュースになる。これがスーパースターなのだとあらためて認識させられた。

 

注目を集めることはプロ野球の球団にとって大切なこと、「早くも松坂獲得の効果あり」と言いたいところだが、ドラゴンズというチームにおいては、去年秋のドラフトで入団したルーキーたちよりも最も歴史の浅い選手、「新参者」なのである。

これまでドラゴンズブルーを背負って戦ってきた選手たち、この現象をどう受けとめるのか?ここで悔しがらなくてどうする?巻き返さなくてどうする?

今のドラゴンズにも名前を挙げてきたように素晴らしい選手が沢山いる。

これからのキャンプの日々で、話題の主役の座に名乗りをあげていってほしい。

その結果として次々と「大化け」を実現してくれる選手が増えてくるならば、それこそもう1つの大きな"松坂効果"となる。

 

東西南北論説風(30)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

 

列島を襲う寒波とポテンヒットの考察

北辻利寿

2018年2月 1日

画像:足成

子供の頃の冬の楽しみのひとつに、色とりどりの氷を作った思い出がある。

赤、青、黄などいろいろな絵の具を水に溶かせて、それを沢山の小さな容器に入れて一晩屋外に出しておく。一夜明けるとそれが凍り、カラフルな氷が出来上がるというわけである。

結構、頻繁に作っていた記憶があるということは、連日、氷ができる寒い日々だったのだろう。1960年代前半、半世紀ほど前のことである。

 

地球温暖化の影響によって「暖冬」と言う言葉にもすっかり慣れて、冬の朝に町で氷やつららを見ることも少なくなっていた。

カラフル氷の思い出も遠い昔かと思っていた矢先、日本列島を過去最強クラスと言われる寒波が襲った。東京の都心で2日連続氷点下3度以下というのは実に53年ぶり、そして4年ぶりという20センチを越す積雪によって交通機関も大混乱した。

名古屋の街も真っ白く雪化粧し、氷やつららもあちこちで見ることができた。

寒さは今なお続く。

 

街では、いたるところで雪かきをする人の姿が見られた。

こういう時、特に商売をしているお店の姿勢がよく分かる。朝早くから歩道の雪かきが終わっているのは老舗と言われる店に多い。客を転ばせてはいけない。迎える姿勢が伝統的にでき受け継がれているのだろう。

早々にちゃんと雪かきが終わっている店、そうでない店、歩道を見るとそのまだら模様がはっきりしている。コンビニエンスストアの中で、店の前に、数日後も雪がベッタリと残っている店を見ると残念な気持ちになる。24時間営業なのだから、客の安全のためにも何とか早めに歩道の雪を取り除く対応をしていただいてもいいのではないか。

 

自宅近くの小学校脇で、早朝から懸命に通学路の雪かきをする先生の姿に遭遇した。

その横を集団登校の子供たちが、白い息をはきながら通る。シャベルを持った先生と子供たちが交わす朝の挨拶が清々しい。

自分の家の前だけでなく、両隣や向かい側の家の前までも少し余分にはみ出して雪かきをする人の姿も見られた。温かい気配りである。寒波は雪景色だけでなく、そんな人々の素敵な風景も運んでくれた。

 

そんな寒さが続く日々に、犯罪を疑う遺体を調べる検視について、愛知県警が検視を担当した医師への謝礼金を支払っていなかったミスを発表した。過去5年間で約1500件あったそうだ。

病院から「支払いがない」と問い合わせがあって発覚したのだが、愛知県警によると遺体の状況によって、検視料を国が払うか県が払うか分かれているという。

「国が払ったと思った」「県が払ったと思った」どうやら担当者の思い込みで隙間が生じてしまったことが原因らしい。

 

組織の危機管理において気をつけなければならないのは、実は「ポテンヒット」だと言われている。

組織内の誰もが注意する重大リスクは、内部統制において意外にしっかりとコントロールされる。しかし、組織に複数のセクションがあり、共同で何かに取り組む際に管理の隙間が生じることがある。

えてして仕事ができる担当者は、自分の仕事エリアをきちんと守りながら「自分がやっているのだから相手も当然やっているはず」と座標軸を「自分」基準に考える。

その結果、どちらもコントロールできていない空白区が生まれ、そこにリスクという名のボールが落ちる。

プロ野球でも野手同士が声をかけ忘れてポテンヒットになるケースがあるが、有無を言わさず諦めのつくホームラン以上に、ポテンヒットによる得点はダメージが大きい。

 

自分のエリアだけでなく、少し余分に他人のエリアも雪を取り除いてあげる配慮を多くの人がするならば、きっと滑って転ぶ人の数も少なくなるように思う。リスクを防ぐお互いの「糊代」があると心強いのは、何も雪かきだけではない。

久しぶりの都会の大雪は、カラフル氷からポテンヒットまで様々な思いをめぐらせてくれた。

まもなく立春。陽射しの中にはかすかな春を感じるが、寒さはまだまだ続く・・・。 

 

東西南論説風(29)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

 

「殿堂」から見えてくる時代 ~ミニーマウスと松井秀喜氏、そして...。

石塚元章

2018年1月29日

画像:足成

 特定の分野で活躍した人を集めて後世に伝えようという記念館などのことを「殿堂」といいます。人間という生き物は何でも1カ所に集めたがる癖(へき)がありまして、そのためか、世界には実に様々な「殿堂」が存在します。そこに名前が残れば「殿堂入り」として大変な名誉と扱われます。今回は、最近注目された「殿堂」のニュースから2題。

◆セクハラ騒動で人気キャラクターに出動要請!?

 まずは、アメリカはロサンゼルス・ハリウッド。映画スターの名前が刻まれた「名声の歩道」という名所がありますが、先日(2018年1月22日)、ディズニーの人気者ミニーマウスの殿堂入りセレモニーが行われました。
 ミニーマウスといえば、ミッキーマウスのガールフレンド。1928年の短編アニメ『蒸気船ウィリー』でデビューして以来、70本以上の作品でカップルとして観客を楽しませてきました。カップル双方の名前を完璧にフルネーム(?)で言うことができる世界で最も有名なひと組かもしれません。

 ミッキーは、1978年(デビューから50年目)に「殿堂入り」を果たしています。ですがそのとき、「ミニーも一緒にね」とはならなかったんですね。
 ところが、ハリウッドといえばご存知の通り、去年(2017年)秋以降、セクハラ問題で大揺れ。「ハリウッドには女性を軽く見る風潮があるのではないか?」との指摘も浮上していました。
 そんなこともあって、ミッキーに遅れること40年の時を経て、ミニーマウスの殿堂入りが急きょ決まったのではないか...という見方もあるようです。そうであれば、世論の批判をかわすためにミニーマウスが利用されたとも言えるのでしょうか。
 ディズニー社の幹部は今回の殿堂入りセレモニーで、「これまでミッキーが手柄を独り占めしてきた」と認めたうえで、「ミニーだってスターだ」と挨拶したそうです。

◆アメリカでは「野球殿堂」に入れなかった松井秀喜氏のなぜ?

 もうひとつの殿堂が「野球殿堂」。アメリカの...です。日本の野球殿堂については、先日(1月15日)、巨人やヤンキースで活躍した松井秀喜氏が最年少で殿堂入りを決めたと話題になりましたが、"本家"アメリカの野球殿堂でも、このほど(1月24日)、今年の殿堂入り元プレーヤーが発表されました。
 松井秀喜氏は、アメリカでも"候補"に名前を連ねていたんですが、残念ながら選ばれませんでした。これってある意味、"予想通り"の落選です。

 メジャーで殿堂入りを果たすには3段階のハードルがあります。まず、メジャーで10年以上プレーした上で引退から5年を経過しなければなりません。松井氏は今年、このハードルは超えました。
 次に、「全米野球記者協会」の代表が選ぶ"候補"にならなければいけません。つまりノミネートされる必要があります。松井氏、ここもクリアしていました。
 最後のハードルが投票。「野球記者協会」に10年以上在籍した記者が投票(複数投票)することになっているのですが、その数、今回なんと422人。その75%が「殿堂入りOK」と認めてくれて、やっと殿堂入りが決まるのです。単純計算で300人以上のベテラン野球記者のOKがなければ殿堂には入れない...ということになります。
 もし落選しても、5%以上の得票があれば次の年も候補に残れるのです(最長で10年は残れます)が、5%に満たなければ「それっきり」です。
 2014年に、野茂英雄氏が候補になった際は6票。当然ながら5%に満たず翌年以降の候補からも外れました。野茂氏の名誉のために言えば、この年、候補になった元プレーヤーの半数は、野茂氏よりさらに票が少なかったということですから、いかにハードルが高いかもわかります。
 で、今回の松井秀喜氏。「殿堂入りOK」は4票でした。得票率0.9%ですから、来年以降の候補に残る可能性もなくなりました。

 アメリカ国内で「殿堂入り」が毎回注目される候補として、バリー・ボンズ氏とロジャー・クレメンス氏の名前を挙げたいと思います。日本でも知られた名選手で、2013年から候補に名を連ねていますが、どうしても75%を超えることができずにいます(5%ははるかに超えるので、毎年、候補ではいられるのですが、それも最長10年間ですから、今年は折り返しの年でもありました)。
実はこの2人、現役時代に筋肉増強などを目的に薬物を利用した問題を抱えています。
 今年も、ボンズ氏が56.4%、クレメンス氏が57.3%の得票でしたから、また殿堂入りはなりませんでした。
 どんなに素晴らしい成績を残しても、「人格・品格・行動」などにクエスチョンマークがついていると、なかなか「殿堂入り」を認めてもらえないわけです。
 ただそれでも、最初の年に30%台だった得票が去年は初めて50%を超え、今回、さらに票が伸びました。つまり、少しずつ「殿堂入りさせてもいいんじゃないか」傾向が増えているのです。投票する記者の世代交代や、「当時の時代背景を考えれば、厳しすぎるのではないか」と考える世論など、さまざまな環境変化が影響しているのではと指摘されています。

 「殿堂入り」の基準。実は、時代や社会を、おおいに反映しているのですね。そういう視点で、このニュースを見るのも大事なことかもしれません。

【ニュースなキーワード/殿堂入り】
「殿堂」とは本来、「大きくて立派な建物」の意味。次第に、特定の分野で中心となる場所・建物のことを「○○の殿堂」と呼ぶように(たとえば「学問の殿堂」など)。やがて、その分野で活躍した人を顕彰する場所のことも「殿堂」と名づけ、名前が刻まれれば「殿堂入り」と呼ぶように。
ちなみに「野球殿堂」は英語で「Baseball Hall of Fame」、ハリウッドの「名声の歩道(ハリウッド映画の殿堂)」は「Walk of Fame」。単なる「Hall(ホール)」に当てはめるのに、「殿堂」という単語を持っていた日本語に感謝。

晴れ着トラブルへの大いなる怒り

北辻利寿

2018年1月29日

画像:足成

「節分の日」が土曜日のため、週末に家族で食べようと馴染みの店が注目を受け付けている特製「恵方巻」を予約した。

この店の恵方巻を以前にも2~3回食べたことがあり、とても美味しかったので再び・・・と店頭にて予約注文したのだが、その場で代金の支払いを求められた。

「えっ?」。

当日には同じ店で他の惣菜も一緒に購入するつもりだし、前に予約した際は当日受け取り時での一括支払いでよかったのに・・・。ましてや電話予約でもOKだった。

そう言えば、去年のクリスマスに同じ店でローストチキンを買った際も、予約と同時に料金を求められたことを思い出す。店のシステムが変わったのだ。

 

ふと思い出したのは、去年の忘年会シーズン、飲食店の「無断キャンセル」が相次いでいると複数のメディアが取り上げたニュースだった。

20人、30人といった規模で宴会の予約が入る、しかし当日誰もやって来ない。店が幹事役の人間に電話すると「じゃあ、キャンセルで」とひと言。ちゃんと自分の電話番号をお店に伝えているのだから、悪戯ではないのだろう。

しかし、お店にとっては料理の仕込みや他の客へのお断りなど、大変な損害であろう。

そんな時代の中、恵方巻も「予約」即「支払い」とせざるをえなかったのだろうか。

 

客からではなく、店側からの"ドタキャン"で、この正月に世間を騒がせたのは、成人式の晴れ着騒動である。

横浜市の貸衣装会社「はれのひ」が営業を突然停止し、「成人の日」に合わせて予約していた大勢の新成人が、振り袖を着られなくなるという事態になった。

驚いたことだろう。一生に一度の"晴れの日"に喜びにあふれて晴れ着に袖を通そうとしたら、予約してあった店がもぬけの殻、着付け会場には誰もいない。成人式の開始時刻は迫ってくる。想像するだけでも背筋が寒くなる。それが現実に起きてしまった。

親子二代で着ようと預けてあった母親の晴れ着も店と共になくなってしまったという女性客もいた。ひどすぎる。新年早々に本当に腹が立った出来事である。

 

騒動から3週間、ようやく社長が姿を見せて記者会見を行なった。しかしその内容に納得した被害者は少ないようだ。

会見で社長は去年4月には経営危機に陥っていたことを明らかにしたが、なぜその時点で顧客にアラームを伝えなかったのだろうか?

「はれのひ」という会社名、その象徴が「成人の日」であるはずだ。古来、商売というものは、売る側と買う側の信頼関係に基づくのが原則である。

社長は詐欺を否定したものの、どんな理由であれ、これは許されないことだろう。

 

平成という時代がまもなく終わる。

昭和の時代には、金の先物取引で多くの消費者を泣かせた豊田商事事件があった。当時、この事件を取材したが、「だまされているかなと思ったけれど、私の話し相手になったくれたことが嬉しかったので話に乗った」と語ったお年寄りの言葉が忘れられない。

核家族化が進み、1人暮らしの老人が増えていく、そんな時代の隙間に生まれた詐欺事件だった。

今回の「はれのひ」トラブルは何なのだろうか?そこには時代も背景も今のところ見い出すことができない。

単なる無責任という"空洞"が広がっている。だからやるせない。だから悲しい。そして怒りがこみ上げる。そんな時代に生きていることを、再認識させられた悲しい新年の1か月だった。

 

今回のひどいトラブルの中、世の中まだまだ捨てたものではないという動きがあった。

騒ぎを知った同業者が、ホテルなどから連絡を受けて支援を申し出て、途方にくれていた大勢の新成人に晴れ着を着せた。

行政も式典の時間を遅らせるなどの柔軟な措置を取って、ひとりでも多くの新成人が出席できるようにした。当日の対応としては実にスピーディで見事だった。

キャンセルに合った新成人にとって、1年以上も前から自分が選び抜いた晴れ着を着られなかったことは悲しい事態だろうが、善意という晴れ着は温かく身を包んでくれたことと信じたい。

 

まもなく節分。「鬼は外、福は内」という言葉をあらためて噛み締める。

 

東西南論説風(28)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

 

"ドラゴンズ松坂投手"誕生に贈る5つの期待

北辻利寿

2018年1月23日

松坂大輔投手の中日ドラゴンズ入団が決まった。1月23日午後、ナゴヤ球場で行われた入団テストに合格して、即入団が決まった。背番号は「99」と発表された。

 

ソフトバンクホークスを昨シーズン限りで退団した松坂投手については、その獲得にドラゴンズが名乗りを上げてから、ドラゴンズファンの間でも意見が真っ二つに分かれていた。否定的な意見の理由は、37歳という年齢に加えメジャーから日本球界に復帰しての3年間で1ゲームしか登板していないことだろう。ましてや昨シーズンの登板は0である。

去年11月のドラフト会議指名内容からも明らかなように、ドラゴンズが若手への切り替えを進めているチームだからこそ、ファンが疑問符をつけたくなる気持ちも当然であろう。

 

しかし、私は次の5つの理由から、松坂投手のドラゴンズ入団決定に期待したいと思う。

 

第1に、松坂投手が再びマウンドで投げる姿をもう一度見てみたい。

「松坂大輔」というブランドは、アマプロ問わず野球ファンにとってはやはり特別なものであり、パ・リーグそしてメジャーに続き、セ・リーグでは初のマウンドになる。

復活がかなえばその投球を見てみたいし、ドラゴンズファンの立場なら「ナゴヤドームのマウンドに立つ松坂が見たい」となるだろう。

 

第2に、松坂本人の「投げたい」という気持ちを大切にしたい。

甲子園を沸かせたスーパースター、そして日米通算164勝を挙げた投手が、入団テストを受けてまで現役生活にこだわるのである。

完全燃焼していないのなら、その思いを大切にしてあげたい。

3年間まったく戦力にならなかったホークスファンには申し訳ないが、華麗なる復活を目の当たりにしたい。

 

第3に、若返りを進めるドラゴンズのチーム内への効果である。

球団が松坂投手にアプローチを始めたことが表面化する中、多くの選手が松坂投手への"あこがれ"を語っている。

一流選手の言葉そして所作は、何よりの勉強材料になる。まして松坂投手は日本球界だけでなくメジャーでも活躍、さらにそこでの故障や挫折も味わっている。

チームにとっては有形無形の好影響があると思われる。同時に松坂世代のベテラン投手にも大いに刺激になるであろう。ブルペンの活性化は「投手王国」復活をめざすチームにとって何よりのことだ。

 

第4に、ドラゴンズというチームの体質である。

今年で球団創立82周年を迎えた老舗チームであり、その歴史において、これまでも意外な"懐の深さ"を見せてきた。

2002年(平成14年)にはメジャー行きを希望していた大阪近鉄バファローズの大塚晶文投手を受け入れて、翌年オフにポスティングでサンディエゴ・パドレスへ送り出している。

2007年にはオリックスバファローズを自由契約になり行き先のなかった中村紀洋選手を育成選手と入団させ、その後、支配下選手として登録した。中村選手はその年の日本シリーズでMVPを獲得した。

選手ばかりではない。ライバル球団である讀賣ジャイアンツで選手そして監督として活躍した故・水原茂氏を1969年(昭和44年)に監督として受け入れて3年間采配をまかせた。その間に新人として入団してきた故・星野仙一投手や谷沢健一選手らはその5年後に20年ぶりのセ・リーグ優勝の中心選手となった。

また、FA宣言して宿敵ジャイアンツに去って行った落合博満氏を、2003年オフには監督として戻している。ドラゴンズ球団史において翌年からの落合政権8年間は"黄金時代"となった。

数々の歴史が証明するように、名古屋に本拠地を置くこのチームは、球界で独自の光を放ってきた。松坂にもその光が注ぐことになる。

 

第5に、ドラゴンズが"オフの主役"として一躍スポットライトを浴びることになる。

「京田の新人王」「ゲレーロの移籍」この2つ以外に目立った話題の少ないシーズンオフである。5年連続Bクラスと低迷する中、大谷・清宮フィーバーに沸く北海道日本ハムファイターズだけが注目される現状にやきもきしてきたファンも多い。

松坂投手の入団によって、2月からスタートする沖縄キャンプ、オープン戦などシーズン開幕への日々が全国的に大きな注目を集めることになった。

そして、もし松坂投手の復活が実現すれば、公式戦でのナゴヤドーム観客動員への計り知れない効果が期待できる。

今から22年前にオープンしたナゴヤドームはここ2年連続で観客数200万人を割り、昨シーズンは1試合の平均観客数が2万8619人と開場以来、最も少ない数字となった。松坂投手がそのマウンドに立てば、間違いなく観客は増えるはずだ。

 

もちろん、今回の松坂投手獲得はプロ野球の球団として様々な計算もあってのことだろう。しかし、ドラゴンズの森繁和監督が先日テレビのインタビューで語った言葉・・・

「野球に対する姿勢。力が劣っていても向かっていく姿勢が、今のウチ(ドラゴンズ)に必要だ」。その松坂投手へのエールに拍手を贈りたい。

 

個人的な希望を述べる。ご容赦いただきたい。

2018年シーズン、マツダスタジアムでの広島カープとの開幕3連戦の後、ドラゴンズは4月3日にナゴヤドームで本拠地としての開幕を迎える。相手は讀賣ジャイアンツである。その先発マウンドに是非、松坂投手に立ってもらいたい。そして、移籍してきたばかりの四番打者から三振を奪ってほしい。竜飲、いや留飲が下がる名古屋のファンも多いことだろう。

そんな楽しみを抱かせるのが「松坂大輔」という投手である。

 

東西南論説風(27)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】