晴れ着トラブルへの大いなる怒り

北辻利寿

2018年1月29日

画像:足成

「節分の日」が土曜日のため、週末に家族で食べようと馴染みの店が注目を受け付けている特製「恵方巻」を予約した。

この店の恵方巻を以前にも2~3回食べたことがあり、とても美味しかったので再び・・・と店頭にて予約注文したのだが、その場で代金の支払いを求められた。

「えっ?」。

当日には同じ店で他の惣菜も一緒に購入するつもりだし、前に予約した際は当日受け取り時での一括支払いでよかったのに・・・。ましてや電話予約でもOKだった。

そう言えば、去年のクリスマスに同じ店でローストチキンを買った際も、予約と同時に料金を求められたことを思い出す。店のシステムが変わったのだ。

 

ふと思い出したのは、去年の忘年会シーズン、飲食店の「無断キャンセル」が相次いでいると複数のメディアが取り上げたニュースだった。

20人、30人といった規模で宴会の予約が入る、しかし当日誰もやって来ない。店が幹事役の人間に電話すると「じゃあ、キャンセルで」とひと言。ちゃんと自分の電話番号をお店に伝えているのだから、悪戯ではないのだろう。

しかし、お店にとっては料理の仕込みや他の客へのお断りなど、大変な損害であろう。

そんな時代の中、恵方巻も「予約」即「支払い」とせざるをえなかったのだろうか。

 

客からではなく、店側からの"ドタキャン"で、この正月に世間を騒がせたのは、成人式の晴れ着騒動である。

横浜市の貸衣装会社「はれのひ」が営業を突然停止し、「成人の日」に合わせて予約していた大勢の新成人が、振り袖を着られなくなるという事態になった。

驚いたことだろう。一生に一度の"晴れの日"に喜びにあふれて晴れ着に袖を通そうとしたら、予約してあった店がもぬけの殻、着付け会場には誰もいない。成人式の開始時刻は迫ってくる。想像するだけでも背筋が寒くなる。それが現実に起きてしまった。

親子二代で着ようと預けてあった母親の晴れ着も店と共になくなってしまったという女性客もいた。ひどすぎる。新年早々に本当に腹が立った出来事である。

 

騒動から3週間、ようやく社長が姿を見せて記者会見を行なった。しかしその内容に納得した被害者は少ないようだ。

会見で社長は去年4月には経営危機に陥っていたことを明らかにしたが、なぜその時点で顧客にアラームを伝えなかったのだろうか?

「はれのひ」という会社名、その象徴が「成人の日」であるはずだ。古来、商売というものは、売る側と買う側の信頼関係に基づくのが原則である。

社長は詐欺を否定したものの、どんな理由であれ、これは許されないことだろう。

 

平成という時代がまもなく終わる。

昭和の時代には、金の先物取引で多くの消費者を泣かせた豊田商事事件があった。当時、この事件を取材したが、「だまされているかなと思ったけれど、私の話し相手になったくれたことが嬉しかったので話に乗った」と語ったお年寄りの言葉が忘れられない。

核家族化が進み、1人暮らしの老人が増えていく、そんな時代の隙間に生まれた詐欺事件だった。

今回の「はれのひ」トラブルは何なのだろうか?そこには時代も背景も今のところ見い出すことができない。

単なる無責任という"空洞"が広がっている。だからやるせない。だから悲しい。そして怒りがこみ上げる。そんな時代に生きていることを、再認識させられた悲しい新年の1か月だった。

 

今回のひどいトラブルの中、世の中まだまだ捨てたものではないという動きがあった。

騒ぎを知った同業者が、ホテルなどから連絡を受けて支援を申し出て、途方にくれていた大勢の新成人に晴れ着を着せた。

行政も式典の時間を遅らせるなどの柔軟な措置を取って、ひとりでも多くの新成人が出席できるようにした。当日の対応としては実にスピーディで見事だった。

キャンセルに合った新成人にとって、1年以上も前から自分が選び抜いた晴れ着を着られなかったことは悲しい事態だろうが、善意という晴れ着は温かく身を包んでくれたことと信じたい。

 

まもなく節分。「鬼は外、福は内」という言葉をあらためて噛み締める。

 

東西南論説風(28)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】