2015年2月

調査から去年の総選挙を振り返る その①~選挙と調査について~

横地昭仁

2015年2月 7日

<はじめに>

 去年12月第47回総選挙が執行されました。結果を見ますと、与党の内、自民党は選挙直後の追加公認を加えると291議席となり、一強多弱といわれた政治状況は、改選後も大きく変わることはなく、35議席まで増やした公明党とあわせて、与党は全体の三分の二を超える大きな勢力となっています。

 では、自公政権は有権者から無条件に信任されたといえるのでしょうか。

 ここでは、これから何回かにわたって、主に今回の選挙でCBCテレビが実施した世論調査と出口調査から、東海三県の有権者の選択を見てみることにしましょう。

 

<選挙と調査>

・有権者の疑問

 その前に、選挙の度に各マスコミが実施する調査、特に放送局が実施する調査について考えます。

 最近ツイッターなどのSNSが発達し、有権者のみなさんが選挙についてどう思われているのか、自由に書かれたご意見をこれまでより容易に閲覧することができるようになりました。その中で散見されるのは、マスコミの選挙調査は何のためにやっているのかという疑問、また、調査結果に正しく有権者の意思が反映されているのかという疑問です。

 まず、こうした疑問にお答えしましょう。

 

・当確報道と出口調査

 まず、何のための調査なのでしょうか。一言で言えば冒頭に記したように有権者の選択を示すためです。

 しかし、放送をメインの媒体とする私たちは、新聞や雑誌などの印刷媒体とは異なり、選挙当日の夜、時々刻々と変わる情勢を「生」で伝えることが大きな使命だと考えています。そうしますと投票が締め切られてから、どの候補がバッチをつけるのか、私たちの責任において、その折々に的確に当確報道をしていくことがとても大切だということになります。次々に判明する一つ一つの議席の積み重ねが、選挙後の国政のありかたを作り上げていくからです。

 的確な当確報道のためには、それぞれの選挙区での取材の蓄積も大切ですが、選挙当日は開票状況の取材、そして、投票を終えた皆さんに直接投票行動について伺う出口調査がなにより重要になります。さらに期日前投票が有権者に広く浸透してきた現在、期日前投票の出口調査も重要です。

 

・有権者全体を考えるには世論調査が欠かせない

 ただ、私たち放送メディアの選挙報道の役割は当確報道だけにあるとは考えていません。私たちを規律する放送法には、目的の一つに、「健全な民主主義の発達に資するようにすること」と記されています。誰が当選確実なのか、だけではなくて、投票に行かない方も含めて、有権者の皆さんがそれぞれの選挙にどんな思いをもたれているのか、それが結果にどう結びついているのかをお伝えすることも、「民主主義」のためにはとても重要なこと、これも有権者の選択としてお伝えすべき重要なことだと考えています。

 そうしますと、投票に行かない方も含めて、選挙区のすべての有権者を調査の対象としてとらえる世論調査、具体的には電話による聞き取り調査も大変重要になるのです。

 

・調査の大切さ

 もう一度、改めてどうしてこうした調査が大切なのか説明します。もし、出口調査や世論調査データがありませんと、全体として有権者の投票行動にどういう傾向がみられるのか、また、ポイントとなった争点はなにか、投票結果と個々の記者の取材の蓄積はあるにしても、推察を中心にした分析になってしまいかねません。

 どうしてかというと、投票用紙に記載するのは、候補者や政党の名前だけだからです。もちろん選挙には必要十分なのですが、開票結果を見ても一票ごとの投票者の年代や性別は分かりませんし、まして、それぞれの投票用紙にはどんな思いが込められているのかとなると、別に調査データがないと、客観的な根拠をもとに投票行動について考察し、報道することができなくなってしまうのです。

 

・調査は信頼できるのか

 しかしここで大きな疑問を持たれる方もいらっしゃるかも知れません。投票者、あるいは有権者全員に聞いているわけではないのに、どうして全体の傾向だといえるのかと。確かにSNSでもこうした点から、マスコミの調査の信頼性に疑問を持つご意見を拝見することがあります。

 ただし、そもそもすべての方に調査をするということは事実上不可能です。そこで、工業製品や食品の品質管理にも用いられているサンプリング調査という考え方が登場します。ごく簡単に言いますと、調査対象の全部を調べなくても、そのうちの一部をうまくとりだして調べれば全体の傾向がわかるという統計の考えかたを用いているのです。

 そうはいっても、だれにうかがうのかという調査対象の決め方や、質問の方法など、具体的にはさまざまなやりかた=手法があります。

 

・私たちの取り組み

 私たちCBCテレビはこれまでの国政選挙で独自・単独の出口調査を10年以上、世論調査については、さらに長い期間にわたって実施してきています。調査の手法については、さまざまな具体的な工夫を重ねることで、全体を代表するような調査となるよう取り組みをづつけ、統計上はおおむね選挙結果通りといってよい調査結果となっています。

 それはとりもなおさず、有権者の皆さんが私たちの調査についてご理解いただき、快くご協力いただいているからだこそともいえます。大変ありがたいことです。

 

 では、皆様からの貴重なデータをもとに、今回の選挙について考えてみることにしましょう。

 

シリアからの悲しいニュース、いま考えること。

石塚元章

2015年2月 2日

過激派組織「イスラム国」とみられるグループが、フリーランスのジャーナリスト・後藤健二さんを殺害したとする動画が公開された。この知らせに対しては、怒りや悲しみなど、皆それぞれの思いがあるはずだ。

私は放送局の人間として、後藤さんがフリーのジャーナリストだった...ということを改めて考えた。

日本の放送局の場合、戦争取材などでフリー・ジャーナリストや地元に暮らしている人たちを頼ることがある。万一の事態を避けたいという気持ちが頭をもたげてしまうからだろう(そうではない人だっているし、そうした判断が正しい場合だって、もちろんあるが...)。

1999年。私はユーゴスラビアで、NATO軍による空爆や内戦・民族対立が続くコソボと呼ばれるエリア(のちに独立)を取材していた。武装した治安部隊や空襲警報、衛星電話をどうやって隠すかの算段...などにようやく慣れ始めたころ、案の定、「そろそろ撤退しては...」の声が上がり、議論となった記憶がある。

日本のメディアに比べれば、欧米メディアはよほど果敢だったし、かなり危険な現場でさえ女性の記者やディレクター、カメラマンの姿も多く目にした(当時、危険な現場に赴く日本メディアはほとんどが男性だった...。今だって、たいして変わっていないと思う)。

後藤さんがこれまで何を伝えてきたのか、多くの人はいま初めて目にしている。

日本の放送局がやってこなかった仕事や役割のいくつかを、彼ら・彼女らが、懸命に果たそうとしている。そこに気づくとき、今回のニュースが持つ意味はさらに重く、悲しみはさらに深い。