列島を襲う寒波とポテンヒットの考察
北辻利寿
画像:足成
子供の頃の冬の楽しみのひとつに、色とりどりの氷を作った思い出がある。
赤、青、黄などいろいろな絵の具を水に溶かせて、それを沢山の小さな容器に入れて一晩屋外に出しておく。一夜明けるとそれが凍り、カラフルな氷が出来上がるというわけである。
結構、頻繁に作っていた記憶があるということは、連日、氷ができる寒い日々だったのだろう。1960年代前半、半世紀ほど前のことである。
地球温暖化の影響によって「暖冬」と言う言葉にもすっかり慣れて、冬の朝に町で氷やつららを見ることも少なくなっていた。
カラフル氷の思い出も遠い昔かと思っていた矢先、日本列島を過去最強クラスと言われる寒波が襲った。東京の都心で2日連続氷点下3度以下というのは実に53年ぶり、そして4年ぶりという20センチを越す積雪によって交通機関も大混乱した。
名古屋の街も真っ白く雪化粧し、氷やつららもあちこちで見ることができた。
寒さは今なお続く。
街では、いたるところで雪かきをする人の姿が見られた。
こういう時、特に商売をしているお店の姿勢がよく分かる。朝早くから歩道の雪かきが終わっているのは老舗と言われる店に多い。客を転ばせてはいけない。迎える姿勢が伝統的にでき受け継がれているのだろう。
早々にちゃんと雪かきが終わっている店、そうでない店、歩道を見るとそのまだら模様がはっきりしている。コンビニエンスストアの中で、店の前に、数日後も雪がベッタリと残っている店を見ると残念な気持ちになる。24時間営業なのだから、客の安全のためにも何とか早めに歩道の雪を取り除く対応をしていただいてもいいのではないか。
自宅近くの小学校脇で、早朝から懸命に通学路の雪かきをする先生の姿に遭遇した。
その横を集団登校の子供たちが、白い息をはきながら通る。シャベルを持った先生と子供たちが交わす朝の挨拶が清々しい。
自分の家の前だけでなく、両隣や向かい側の家の前までも少し余分にはみ出して雪かきをする人の姿も見られた。温かい気配りである。寒波は雪景色だけでなく、そんな人々の素敵な風景も運んでくれた。
そんな寒さが続く日々に、犯罪を疑う遺体を調べる検視について、愛知県警が検視を担当した医師への謝礼金を支払っていなかったミスを発表した。過去5年間で約1500件あったそうだ。
病院から「支払いがない」と問い合わせがあって発覚したのだが、愛知県警によると遺体の状況によって、検視料を国が払うか県が払うか分かれているという。
「国が払ったと思った」「県が払ったと思った」どうやら担当者の思い込みで隙間が生じてしまったことが原因らしい。
組織の危機管理において気をつけなければならないのは、実は「ポテンヒット」だと言われている。
組織内の誰もが注意する重大リスクは、内部統制において意外にしっかりとコントロールされる。しかし、組織に複数のセクションがあり、共同で何かに取り組む際に管理の隙間が生じることがある。
えてして仕事ができる担当者は、自分の仕事エリアをきちんと守りながら「自分がやっているのだから相手も当然やっているはず」と座標軸を「自分」基準に考える。
その結果、どちらもコントロールできていない空白区が生まれ、そこにリスクという名のボールが落ちる。
プロ野球でも野手同士が声をかけ忘れてポテンヒットになるケースがあるが、有無を言わさず諦めのつくホームラン以上に、ポテンヒットによる得点はダメージが大きい。
自分のエリアだけでなく、少し余分に他人のエリアも雪を取り除いてあげる配慮を多くの人がするならば、きっと滑って転ぶ人の数も少なくなるように思う。リスクを防ぐお互いの「糊代」があると心強いのは、何も雪かきだけではない。
久しぶりの都会の大雪は、カラフル氷からポテンヒットまで様々な思いをめぐらせてくれた。
まもなく立春。陽射しの中にはかすかな春を感じるが、寒さはまだまだ続く・・・。
【東西南北論説風(29) by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】