観客はドアラだけ!ナゴヤドーム初の無観客試合で消えた音と見つけた音

観客はドアラだけ!ナゴヤドーム初の無観客試合で消えた音と見つけた音

“音”という存在にあらためて向き合った午後だった。
4年に1度の閏年(うるうどし)にしか存在しない日、2020年2月29日のナゴヤドーム。新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、全国各地のオープン戦で史上初の無観客試合が始まったこの日、取材のためナゴヤドームを訪れた。

ドアラの背中が淋しそう

観客席が静まり返ったナゴヤドームのグラウンドでは、中日ドラゴンズと広島東洋カープ、両チームのゲーム前練習が行われていた。
1塁側内野席にポツンと座っているドアラを見つけた。いつもなら試合前にパフォーマンスを披露してファンの歓声を受けるのに、その背中は淋しそうだ。
小学生だった頃の中日球場(現ナゴヤ球場)時代からこれまで半世紀ほど野球場に通ってきたが、初めて出会う風景だった。本当にこの後、ゲームが始まるのか?という錯覚にも陥った。

観客席から音が消えた

筆者撮影:ナゴヤドーム大型スクリーン「106ビジョン」

プレイボールが近づく。先発メンバーを発表する場内アナウンスはいつも通り流れた。しかしそれに呼応する声援はない。1回表の守備につくドラゴンズ選手の紹介アナウンスもいつも通りだ。「ライト平田良介」「センター大島洋平」・・・場内コールを受けて、背番号「6」「8」がそれぞれ守備位置へ走るが、その背中を押す拍手もない。
ナゴヤドーム名物の大型スクリーン「106ビジョン」は、3画面の内、真ん中の画面のみにスコアと出場メンバーなどが表示されていたが、選手の写真やプロフィール、応援歌の歌詞が映し出される両横の画面は暗いままだった。
そしてプレイボール。1回の守備が終わり、その裏の攻撃、いつもならそこで拍手と共に、ドラゴンズ各選手への応援歌が合唱される。それもない。観客席からの音はすべて消えた。

野球場に響き渡った音たち

その一方で、見つけた音があった。
ボールがミットに収まる音。「ビシ!」守備ついた野手たちがボールを回す音。「ビシ!」ピッチャーが投げて、キャッチャーが投げ返す音。こんなに力強い音がするのだ。
球審のコールの音。球場全体に響き渡る。「オーライ」フライが上がった時に選手同士がかけ合う力強い声。
「シュッ!」ボールが投手の手を離れた時の空気を切る音まで聞こえる。そして打球音。
「カーン!」バットにボールが当たった瞬間の乾いた音がドーム全体に響き渡った。
そこにはトランペットなどの鳴り物応援に慣れた日々では、あまり気づくことがなかった沢山の音があふれていた。

思いもかけない音と出会った

筆者撮影:ナゴヤドーム無観客ゲーム

想像していなかった音を2つ見つけた。
「カーン!」の後に「ドスン」そして「コン、コン、コン」という規則正しい音。ファールボールがスタンドに飛び込んだ時の音だ。いつもは客席のファンが競ってボールをキャッチする。それがないため、ボールは内野席などに落ちた後に、ドーム内の段差を転げ落ちていく。聞いたことがない音が響く中、プレーは続く。
もうひとつはベンチからの声。「サイコー、サイコー!」「さあ行きましょう!」ゲーム中、選手たちはこんなに沢山の声を出していたのだ。しかし、ピッチャーがマウンドで投球モーションに入った瞬間は全員がピタリと黙る。シーンと静まり返った中で投じられる一球にバッターボックスで向かい合う打者。静謐な空気の中での真剣勝負は、正直新鮮で気持ちのいいものだった。

消えた音と見つけた音からの一歩

筆者撮影:ナゴヤドーム外観

「さみしいですね。抑えて歓声が上がり、打たれて歓声が上がる。それが野球だと思った。
普段は何気なくやっていることが大切なことなんだと思った」
翌日の無観客試合で投げ終えた後のドラゴンズ大野雄大投手のコメントである。
選手たちは間違いなく、ファンの声援の大切さとありがたさを肌で味わったはずである。それが今後ますます魂がこもったプレーにつながればいい。一方で打球音や捕球音の美しさにも、多くの人が気づいたと思う。その音はテレビ中継でも十分に体験できたからだ。それも野球の醍醐味である。

シーズン開幕へ、オープン戦の無観客試合はまだまだ続く。でもそこに、今後のプロ野球の魅力をアップするヒントを見つければいい。転んでもただでは起きない。それもまた新型コロナウイルスとの闘いに立ち向かう姿勢であるはずだ。頑張れ!プロ野球。

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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