中日・渡辺勝「憧れは王貞治さん」美しき一本足打法とラストサムライの秘技

中日・渡辺勝「憧れは王貞治さん」美しき一本足打法とラストサムライの秘技

♪『君のパワーで~ここまで飛ばせ~さあホームラン、大砲、大豊~』♪

かつての中日ドラゴンズの二冠王、故・大豊泰昭さんの打席テーマ曲。ナゴヤ球場のライトスタンドに響きわたっていました。

大豊さんは、まさに“気は優しくて力持ち”。一本足打法から繰り出される規格外の弾道は、ファンを虜にさせました。一方で、飴と鞭で鍛え上げてもらった星野仙一監督の辞任表明の日、恩返しの決勝ホームランを放ち、ベンチ前で出迎えを受けたことは語り草。あの10.8決戦となった1994年には、本塁打と打点の二冠王に輝きました。

大豊さんが亡くなってから早や5年。我がドラゴンズにあの一本足打法のシルエットを受け継ぐ選手が現れました。2018年11月に、支配下契約を勝ち取った中日ドラゴンズの渡辺勝外野手です。

2019年の沖縄キャンプでは、なんと主力中心の北谷キャンプに抜擢され、得意の打撃で大島洋平・平田良介・アルモンテと強力な外野陣の一角を狙います。

美しい一本足のシルエット

「一本足打法を辞めるなんて、一度も考えたことはありません」

と強い信念の渡辺勝外野手。育成ドラフトで東海大学から中日ドラゴンズに入団。ナゴヤ球場で鍛錬し、二軍での出場チャンスを掴み、3年かけて、一軍昇格の権利を得る支配下契約となりました。

彼の一本足のシルエットは美しい。

左足一本での立ち姿。上げた右足は直角に曲がり、体は捕手方向へ捻ったまま静止し、投球を待つ。そして、極端なまでのダウンスイング。上からたたいているのに打球には角度がつき、見事な放物線を描いていく。

荒川道場で磨いた秘技

「幼いころからの荒川道場の教えですからね。かつては、王貞治さんが日本刀で藁を切り裂いて鍛錬されたというお話。ボクは、荒川博さんから直接学んだ最後の弟子のひとりですから。木刀をバットに見立て、高校入学直前まで教わりました」

今朝も握っていた木刀とバットを大事そうに傍らに置きながら、話を続けてくれました。

「スパッと一点で斬るというよりも、押し出すような感覚なんですよね。なのに、理想のタイミングとスイングができるとキレ味の良い実感が残る。
荒川道場には、晩年、ゴルファーの片山晋吾プロや上田桃子プロも学びに訪れてました。ボク、片山プロと一緒にできるようになった秘技がありましてね」

そう語りながら披露してくれたのは、名刺で割りばしを折るという妙技。空手家の瓦割りのように、薄い紙の名刺を鋭く振り下ろし、一瞬で、木の割りばしを真っ二つにしていまうというもの。

「一点だけ、紙で木を切ることができるポイントがあるんです」

バットやゴルフクラブ、刀のミニチュア版ともいえるこの技には、集中力とターゲットを斬るというよりも押し出すような独特の感覚がないとできないそうです。

荒川道場で学んだすべてを実戦に活かそうとしてきたプロでの3年間、変則投手とも対戦してきました。

「はっきり言って、自分側の構えが、全てです。相手が崩そうとしてきても、構えができれば、自分の間で捉えることができています。コーチからもそう言われています。」

挑戦権をもらっただけ

かつての大豊さんのチームメイト彦野利勝さんもこう語ります。

「力を蓄えて一気に爆発する理論は、時代が変わっても不変ですね。一本足気味という意味では、ソフトバンク柳田選手やジャイアンツ坂本選手が挙げられます。足を上げて投手寄りに壁を作り、その状態で待てるか。МLBでも投手側の足のゆとりがポイントになってますね。また、渡辺選手を含め、長打と俊足を兼ね備えているというのも魅力です。
ただ、さすがの大豊さんも疲労がたまると、かがみ過ぎて、足も出にくくなっていました。若い渡辺選手も、来季、構えからの安定感とスーパークイックモーションに対応する引き出しが必要ですね」

渡辺選手本人もその課題を認識しています。

「これまで多くのコーチのアドバイスを自分の一本足打法のために、噛み砕いて工夫してきました。それがプロで通用するかは試合に出ないと分かりませんから。今回の支配下契約は、その“挑戦権”を頂いただけです」

沖縄へ出発直前の屋内練習場。早朝からマシン打撃を黙々と続け、聞こえてくる打球音の主、そのシルエットは、“一本足打法”でした。燃えよドラゴンズ!

【CBCアナウンサー 宮部和裕 CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週水曜午後6時放送)ほか、ドラゴンズ戦・ボクシング・ラグビーなどテレビ・ラジオのスポーツ中継担当。生粋の元少年ドラゴンズ会員。山本昌ノーヒットノーランや岩瀬の最多記録の実況に巡り合う強運。早大アナウンス研究会仕込みの体当たりで、6度目の優勝ビール掛け中継を願う。】

あなたにオススメ

RECOMMENDATION

エンタメ

ENTERTAINMENT

スポーツ

SPORTS

グルメ

GOURMET

生活

LIFE