【防災特集】110年前の警告を無視して16人が犠牲に…災害の教訓は生かされるのか

9月は防災月間です。9月1日、防災の日の『CBCラジオ #プラス!』では、CBC論説室の石塚元章特別解説委員が「日本の災害 過去を知る、未来に備える」をテーマに解説しました。災害大国日本で私たちがどう生きていくべきか、過去の教訓と未来への備えについて考えます。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴く90年前の警鐘が今も響く
災害大国日本では、誰もが明日、被災者になる可能性があります。身近で起きた過去の災害を知り、避難所生活を他人事とせず意識することが大切です。
石塚はまず、「天災は忘れた頃にやってくる」という名言を紹介しました。これは、物理学者・寺田寅彦の言葉です。寺田は随筆家で俳句も作る、夏目漱石の弟子でもありました。
寺田は講演や文章で、災害を防ぐには過去の記録を忘れないようにすることがとにかく大事だと説き、将来必ず起こる災害に備えることの重要性を指摘していました。
この言葉は一見当たり前のことを言っているようですが、実は90年も前に指摘されていたこと。その間に阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、能登半島地震など多くの地震が発生しました。
しかし、寺田の警告は十分に守られてきたでしょうか。私たちは過去の災害を意識して生活してきたでしょうか。
地震や災害の直後は意識が高まりますが、時間が経つと徐々に薄れてしまうのが現実です。
「過去を知る」
まずは「過去を知る」から。石塚は、自然災害を伝えるモニュメントや石碑の「自然災害伝承碑」について取り上げました。
国土地理院は2019年、「自然災害伝承碑」の新しい地図記号を決定しました。石碑型で中央に縦棒が入った記号で、日本で最も新しい地図記号のひとつです。
なぜこの地図記号が制定されたのでしょうか。実は260人以上が命を落とした2018年の西日本豪雨で象徴的な出来事がありました。
水害碑が伝える教訓
16人が土石流で犠牲になった広島県坂町で、救助隊が活動しているすぐ横に大きな石碑が立っている写真が、国土地理院のサイトに掲載されています。
その石碑は、西日本豪雨より110年前に建てられた「水害碑」でした。同じような災害で、多くの命が失われたことを後世に伝えようと残したものです。その横で同様の災害が起きたことを示す象徴的な写真でした。
地元の人に話を聞くと、「石は立ってた」「碑があるのは知ってたけど、何の碑かよくわからなかった」という声が多かったといいます。
東日本大震災でも繰り返された歴史
同じようなことは東日本大震災の時にもありました。三陸地方は何度も津波に襲われており、江戸時代、明治、昭和、そして平成の東日本大震災と繰り返されています。
そのたびに、後世に伝えるための水害碑が多く残されました。それを守って集落を高台に移し命を守れた場所もあれば、海に近い方が便利だからと石碑より下に住宅が建てられてしまった場所もありました。
石塚は、こうした事実から、自然災害伝承碑の重要性や、災害のあった場所や状況を知っておくことの大切さを指摘しました。
全国の伝承碑を確認できる
国土地理院の調査によると、2025年7月現在、全国に約2,300基の自然災害伝承碑があることがわかっています。これらは国土地理院のウェブ地図で確認できます。
サイト上でマークをクリックすると、設置されているモニュメントの写真と、どのような災害だったかの簡単なコメント、碑に書かれている内容が表示されます。現場に立っているものもあれば、伊勢湾台風の碑のように平和公園などに改めて建てられたものもあります。
東海地方でも、安政東海地震や濃尾地震などの過去の地震の石碑が、愛知県で76基、三重県で80基以上、岐阜県で52基残っており、今も地図に載っています。
同じような地震でも、戦時中など国が災害の事実を国民に知られたくない時期には、情報統制が行なわれたこともありました。それでも、地元の人々は一生懸命に災害の痕跡を残そうとし、跡碑が建てられたのです。
こうした行動こそが、「過去を知る」ということの意味を示しています。
「未来に備える」
続いては「未来に備える」。石塚は「スフィア基準」というキーワードを紹介しました。
スフィア基準は、もともとアフリカのルワンダで民族紛争が起き、難民キャンプで感染症が広がって多くの人が命を落としたことをきっかけに、赤十字やNGOによって作られました。命からがら逃げてきた人が助かった後に命を落とすことがないようにする、という考えから生まれた基準です。
この基準は現在、被災者の避難生活にも適用されています。災害そのものは生き延びたものの、避難所でのストレスや環境衛生の問題で命を落とす「災害関連死」を防ぐためです。
スフィア基準の考え方
「スフィア」とはもともと英語で「球体」を意味します。地球上どこであっても最低限の生活ができるようにする、という考えを象徴した名前です。
スフィア基準では、避難所で1人あたり3.5平方メートルの広さを確保することや、トイレは20人に1基設置し、男女比は1対3にするなど、具体的な数値が定められています。
しかし、石塚は重要なのは数字だけではないと指摘します。たとえ避難所であっても、誰もが尊厳のある生活を送る権利があり、その考え方を共有し準備や支援に生かすことが大切だと、スフィア基準には盛り込まれています。
避難所でも尊厳を守る
日本人は特に「避難所なんだからある程度我慢するのはしょうがない」「命が助かって雨露をしのげればいい」と考えがちだと石塚は指摘します。
しかしスフィア基準では、「最低限の生き方ができるようにすることが重要」という考え方が基本です。
「未来に備える」ということは、自分たちが備えることも大切ですが、避難してきた人たちに対して「それぐらい我慢しろよ」と言わない、という意識も含まれます。
私たち一人ひとりがこの考えを身につけることも、未来への備えです。防災の日を機に、過去の災害から学び、未来の災害に備えることは、物理的な準備だけでなく、被災者の尊厳を守る心の準備も含まれています。
(minto)
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