「1打席目が全てだった」川上憲伸が明かす、ライバル・高橋由伸とのプロ初対決

CBCラジオ『ドラ魂キング』、「川上憲伸、挑戦のキセキ」は、野球解説者の川上憲伸さんが、自身のプロ野球人生を「挑戦」という視点から振り返るコーナーです。7月16日の放送では、高橋由伸選手との初対決における決定的な1打席について伺いました。この打席が、その後の対戦に与えた影響とは?聞き手は宮部和裕アナウンサーです。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴く運命を決めた1打席目の見逃し三振
大学時代からライバル関係にあった川上さんと高橋由伸選手。プロ入り後、中日ドラゴンズの未来のエース候補と読売ジャイアンツの若き主砲として対戦することになりました。
長嶋茂雄監督から「ウルフ」と呼ばれた高橋選手を、川上さんはルーキーイヤーにわずか1安打に封じ込めました。
プロとして最初の対戦の1打席目。その決定的な瞬間について、川上さんは鮮明に記憶していました。
「これはツーストライクを追い込んでから、インコースのストレートでズバンって見逃し三振だったんです」
プロの配球への驚きと決断
当時のキャッチャーは中村武志選手でした。
「ツーストライクを追い込んで、サインはどう来るのかな。フォークかなとか、外のストレートかなとか思ったら、僕も意表を突かれた、インコースのストレートだったんですよ。『えっ、ここで?』。学生にはなかったパターンなんですよ」
川上さんにとって、これは予想外のサインでした。しかし、プロとしての判断を下します。
「これはやっぱり中村さんを信じて投げるしかない。これがプロの世界だと思って投げたら、高橋由伸はもうピクリともできないぐらいで、見逃し三振したんです」
このことは、その後の対戦に大きな影響を与えました。
「結果的に、その三振が尾を引いて、ずっと20打席ぐらいノーヒットで引きずってるんですけど。逆に僕はそれをいい意味で引きずってたんですよね」
川上さんは、この1打席目の成功体験を武器に、高橋選手との心理戦を制していったのです。
高橋由伸が語った「あの三振」
興味深いことに、高橋由伸さん自身もこの1打席目について強烈な印象を持っていたといいます。
「1打席目の見逃し三振が一生忘れられなくて。お前との対戦の中で、あの1打席目が全て」
「あれはびっくりした。ストレートがズバって来て。なんでこんなに攻めてくるんだろうっていう感じに思った」
高橋さんはこう語ったそうですが、実は川上さんも同じ感覚を持っていたといいます。
「1打席目が、その年に限っては特に“全て”だったなっていうことがあったんで。お互い相当1打席目に勝負をかけてたんだなっていうのはね」
新人王争いが生んだ特別な意識
高橋選手は、川上さんとの対戦で特別な意識を持っていました。
新人王を目指していた高橋選手は、川上さんとの勝負では単なるヒットやレフト前のような当たりではなく、長打、特にホームランを狙っていたといいます。
この心理状態が、かえって高橋選手の本来の力を発揮させない要因になったと川上さんは分析します。
「本来はここまで抑えられるレベルのバッターじゃないですけど。由伸としてもすごく力んでたし、引っ張り傾向と大きなスイングっていうところに、もうひとつ、さらに僕にチャンスがあったっていうとこですね」
チーム状況を超えた個人的な勝負
プロ野球では通常、チーム事情が最優先されます。連敗中なら連敗ストップ、先発投手なら勝利への責任など、様々なプレッシャーがあります。
しかし、川上さんと高橋選手の対戦は、それを超えた特別な空間でした。
「由伸が打席入った時には『ごめんなさい、それも無視させてください。お互いの勝負は別であります』って」
川上さんは当時を振り返り、「ふたりだけ申し訳ないけど、チームは別として試合させてっていうのが、多分1年目はありましたね」と振り返ります。
これらのエピソードは、4月に行なわれた東京六大学100周年イベントで、高橋さんとのトークショーで明かされました。
「お互いに“特別な感覚で勝負していた”という話になった」と川上さんは笑います。
初ヒットは特大ホームラン
川上さんから高橋選手への初ヒットは、8月9日の19打席目でした。しかも、それは単なるヒットではなく、特大ホームランでした。
「松井秀喜さんよりも飛んだんじゃないかっていうぐらい、ライトっていうか右中間の一番深いところに突き刺さるように飛んでいったんですけど」
その時の高橋選手の反応について、川上さんは印象的なエピソードを語りました。
「打たれた時に由伸の表情を見たら、一瞬ガッツポーズしようとしてたんですよ。でもそれを抑えて、手を引っ込めたんです。ホームランは打てたけど、やっぱりずっとノーヒットだったっていうのは...僕はその一瞬であったのかなって思ったんですよ」
本来の実力を封じた心理戦
高橋選手はホームランをずっと狙っていたからこそ、本来の技術を発揮できていなかったと分析します。
「彼ぐらいの技術があれば、追い込まれて逆方向に流そうと思えば、多分簡単にヒットは打てた。1年目から3割20本打ってますから。普通にできあがったトップクラスの成績を残してるわけですから。ちょっと隙を見せたらヒットなんて簡単に打たれますから」
大学時代からのライバル同士がプロの舞台でも築いた特別な関係。1打席目のあの三振が、すべての始まりでした。
(minto)
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