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社会派な青春ミステリー!書評家が絶賛『僕たちの青春はちょっとだけ特別』

社会派な青春ミステリー!書評家が絶賛『僕たちの青春はちょっとだけ特別』

毎週水曜日の『CBCラジオ #プラス!』では、書評家の大矢博子さんが、小説などのおすすめの新刊を紹介しています。12月18日にピックアップしたのは、人の死なないミステリー、雨井湖音の『僕たちの青春はちょっとだけ特別』(東京創元社)。ミステリーでもあり、青春小説でもあり、「こんな世界があるのか」と勉強にもなる一冊なんだとか。

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あらすじ

舞台は特別高等支援学校で、中学を卒業した軽度の知的障害を持つ生徒が、就労や自立のために学ぶ3年制の私立学校です。
小説を書いた雨井さんは、実際にこの高等支援学校の先生なんだとか。

主人公の語り手は、支援学校に入ることになった新1年生の青崎架月。 
彼は場の空気や人の気持ちを読むのが苦手で、言葉をそのままで受け止めてしまうため冗談がわかりません。
中学時代までは通常クラスに通っていましたが孤立していたため、高校からは支援学校に通うことになりました。 

入ってみると、この学校は1クラス8人という少なさ、中学校とはカリキュラムが全く違います。
戸惑うことはたくさんあったにせよ、だんだん学校に馴染んでいきました。

ところがある朝、先輩が掃除をしている階段に、細かく切られた4色の紙がばら撒かれているのを発見。
青崎が先輩に質問しても、先輩は人が話しかけたことをそのままオウム返しにするだけのタイプの人だったため、実態がわからず。

ひょっとしたらこの先輩に対する嫌がらせなのではと思った青崎は先生に相談。
すると先生は「じゃあお前が犯人を探してみろ」
青崎の真相探しが始まります。

その後も生徒のロッカーの中身が全部移動させられていたり、生徒の失踪などの事件が起きますが、その度になぜか青崎が真相を探ることになってしまうというミステリーです。

障害の名前ではなく、人で見る

大矢「いいなって思ったのが、生徒たちが持ってるその困難、その障害の描写なんですよ」

視点人物が青崎なので、一人ひとりの生徒についての障害の説明や、障害の名前がほとんど出てきません。
今や発達障害も分類され、名前がつきますが、その障害の理解と対応ができる一方、名前がつくことによってカテゴライズしてしまい、個人を見ないリスクも同時に起きているのが現状。

しかしこの小説では、青崎の目を通すことで障害の名前が出るわけではなく「この人すぐ怒るのに、急に機嫌が良くなるの不思議だな」「なんでこの人毎日同じ質問をして、同じ答えが返るまでやめないんだろう」「なんでもできて、生徒からも先生からも信頼されてるのに、なんでこの学校にいるんだろう」などと描写されます。

一人ひとりの特性が描かれるので、障害の名前や症状の名前の前に、読者もその人を見るようになるとか。

大矢「名前をつけることで、一括りにされがちな症状や障害にも様々なグラデーションがあり、困ってることって人によって全く違うんだなっていうのがわかってきます」

さらにミステリーとして面白さも一人ひとりの特性が背景にあるそうで、個人の困っていることや障害と深く関係しているとか。

社会派ミステリーでもある

主人公の青崎は人の言葉をそのままにしか受け取れない子ですが、「どうやって情報を集めて、真相にたどり着くのかというのがとても興味深いんです」と大矢さん。

というのも、生徒らがそれぞれの得意分野を持ち寄り、それが解決のヒントになっていく様子が面白いとか。
事件の背景がわかった時に彼らを取り巻く現実が浮かび上がってくるので、社会派としての読みどころもあります。

大矢「外から見て勝手に『こういうことね』って納得してると、気づかないようなことに気づかせてくれる。そういう小説です」

青春ミステリーとしても楽しめる

「何よりね、青春ミステリーとして、これ、とても瑞々しい!」と、大矢さんは評価しました。

小説の彼らは一般の高校とは環境は少し違いますが、友情や恋、成長や葛藤などは全く何も変わりません。 

作者の雨井さんは支援学校に勤務していく中で「この子たちのキラキラした青春を小説にして伝えたい」と思ったことが執筆の動機だそうです。

カテゴライズして見るのではなく、全くフラットに、「こういう青春があるんだ」ということを、感動的に伝えてくれる小説。価値観を変えてくれそうな一冊です。
(ランチョンマット先輩)
 

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