書評家が勧める「名作ならこれを読め!」

書評家が勧める「名作ならこれを読め!」

4月24日放送の「CBCラジオ #プラス!」では、書評家・大矢博子さんが、時代を超えて今読んで欲しい名作を紹介しました。この日紹介したのは井上夢人さんの『プラスティック』(講談社刊)。1994年発行のこの作品は、複数の人々の手記54遍からひとつの小説となるミステリーで、30年前だからこそ成立するテクニックが散りばめられているということです。

本屋大賞発掘部門受賞作品 あらすじ

毎年発表される本屋大賞には発掘部門というものがあります。
古い本の中から時代を超えて面白く、世に出したい本を全国の書店員が一冊ずつ推薦し、その中から本屋大賞実行委員会が選考し、一冊を超発掘本として発表します。
2024年、今年の超発掘本となったのがこの『プラスティック』です。

54遍の手記の冒頭3つのあらすじを大矢さんは紹介しました。

①主婦の日記
夫が出張中に書き始めた日記。書いていると奇妙な体験をし始める。
図書館で貸出カードを作ろうとすると、昨日既にカード作っていると言われてしまう。
作るためには身分証明が必要だが、夫は出張に行っているため図書館には行けないはず。
出張中の夫に連絡をとるために会社に電話をすると、電話先の夫の同僚は「僕の知ってる奥さんと違う」。
しかし主婦は夫の会社の人に会ったことも、会社の場所さえも知らない。
そう言うと同僚は、「奥さんは会社の元同僚で、職場結婚なんだから会社を知らないわけない」。
一体どういうことなのだろうか?

②誰かの手記
主婦の日記が途切れた6日後、書き手が暮らすマンションに女性の遺体が発見された。
その部屋の遺体はひとつ目の日記の主婦。
主婦の夫との連絡がつかないため捜索中らしい。

③誰かの手記
この一連の事件は何かがおかしい。
何が起きているのか調べていく。

『プラスティック』は1番目の日記を書いた主婦が亡くなった事件に迫るミステリーとなっています。

30年前だからこそ起こるミステリー!?

大矢さん曰く、『プラスティック』の最大の魅力は30年前の小説であり、30年前だからこそ成立するミステリーであるということです。

53遍の手記は1枚のフロッピーディスクに入っている設定です。
書かれているのはWordではなくワープロ。
手記を打ち込む際にワープロに慣れずに苦労しながら書いている人も、誰かが聞き書きで入力している人もいます。
現代では出来ない設定ですね。

また、ネットやスマホである現代ではこの仕掛けは使えません。

例えば、今ならスマホから夫に連絡することは可能ですが、当時は夫に連絡をする手段がなかったため、会社に連絡しないといけません。
このようなところも含めて、現代では使えないテクニックが散りばめられています。

2度読みたくなる作品

大矢さんは「待ち受けるサプライズがすさまじい」と太鼓判。

『プラスティック』のミステリーテクニックは当時は鮮烈なもので、そこからこのタイプの話が流行したということです。
そのため今となっては序盤からトリックに早く気がつく人がいる場合もあります。

しかし真相がわかったとしても、もう1回読み直すと作者がいかに細かく気をつけてこの手記が書かれているのかがわかります。
上手に読者を騙しつつ、嘘はついていない絶妙なテクニックです。

また、文章が手記というのもポイント。
当事者が書いたものだから全ての情報が本当かどうかわかりません。
そういうところも含めて興味深いミステリーのテクニックに痺れます。

当時読んだ方も、今読むと感覚が違うかもしれません。
30年前だからこそ成立する面白さと、今なお薄れない衝撃が味わえる一冊です。
(ランチョンマット先輩)

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