押し寄せる津波は12.4m 被害を最小限にするための自治体と大学の取組とは
近い将来、発生が予想されている南海トラフ巨大地震。最悪の場合、三重や愛知の沿岸部で高さ20メートル以上、名古屋市でも5メートルの津波が到達し、津波だけで15万4000人もの死者が想定されています。車より早いスピードで押し寄せる津波から、どう逃げればよいのでしょうか。実際に自治体で行われた津波避難シミュレーションを取材しました。
実際に歩いてみて、避難できるか検証
2021年12月、三重県紀宝町で行われた総合防災訓練に、津波防災を研究している中央大学理工学部の有川研究室が参加しました。
実際に住民が歩きながら、発生から何分で避難を始め、避難所まで何分かかるのかを細かく調査し、現在の避難計画で住民全員が本当に助かるのかを検証しています。
紀宝町では、南海トラフ巨大地震が起こると6分後には高さ1メートルの津波が到達し、最大で高さ12.4メートルに達すると考えられています。このため町では、海抜13メートル以上の地点に避難所を27か所設置。地域ごとに、どの避難所に逃げるかを決めていますが、この日の避難訓練でも、坂道が急で、想定より時間がかかる高齢者も少なくありませんでした。
検証結果では全員が津波から逃げることができないことに
研究室のメンバーが、参加した住民に聞き取り調査を行い、さまざまなことが見えてきました。今回の訓練に参加した106人に、避難開始までにかかる時間を聞いたところ「5分~10分」と答えた人が38人。津波が到達してしまう「10分より後」という人が30人もいたことが分かりました。
1人1人の住民が時速3キロあまりで移動するのに対し、せまってくる津波のスピードは時速約20キロ。有川教授が住民の実際の行動データを基にしたシミュレーションを行ったところ、
「役場の方に逃げようとした方々が途中で津波に遭っています。一部の方々はやはり山の側へ逃げていただくのがいいですし、場合によっては山へ逃げても間に合わないという可能性もあります」(有川教授)
現在の避難計画だと、全員が逃げ切れるのは地震の発生と同時に避難を始めた場合のみ。
避難が数分間遅れると、多くの人が逃げきれず、途中で津波に呑み込まれるという結果に。マグニチュード9が想定されている南海トラフ巨大地震では、強い揺れが5分程度は続く予想で、揺れが収まってからの避難では、間に合わない恐れがあるのです。
重要なのは、1人1人の意識
有川教授は、「避難の開始する時間が遅れれば遅れるほど、津波に遭遇するというのは当たり前です。場合によっては避難の場所を変えていただく必要が、あるかもしれないということを理解していただくことが重要だと思います」と警鐘を鳴らします。
シミュレーション結果を受けた、紀宝町の向井美樹也調整監は、
「最短ルートと最も安全に逃げられるルートの違いを認識しました。地元の住民の方に必ず伝えなければいけないです。津波に対しては、とにかく避難しかない。その意識付けをしていくことが重要だと思いました」と気を引き締めます。
いつか東海地方を襲う地震と津波。地元の避難計画でいざという時、津波から本当に逃げきれるのか。行政任せでなく、1人1人が関心を持つことが重要です。
CBCテレビ「チャント!」3月11日の放送より。