30年で酪農家が6分の1 に…地元の味を守れるか?三重県の「大内山牛乳」 が消費拡大や新たなファン獲得への取り組みに挑戦

北海道から沖縄まで全国に約2000種類あるとされる“ご当地牛乳”。しかし、酪農家の減少やエサ代の高騰など、業界全体が「逆風」に直面しています。三重県の給食でおなじみの「大内山牛乳」も例外ではありません。食文化とも言える地元の味を守ろうと、消費拡大に向けた取り組みが広がっています。
惜しまれつつ生産終了 厳しさ増す業界

今年3月、岐阜県の飛騨地方で長年親しまれてきた「飛騨牛乳」が生産を終了しました。新工場建設による多額の負債や酪農家の減少などが原因とされています。新工場建設で多額の負債を抱えたことや酪農家の減少などが原因とされています。生産終了の前夜には、地元では別れを惜しむイベントが開かれました。
(客)
「本当に寂しいです。最後の飛騨牛乳をかみしめて楽しもうと思う」
給食をはじめ、日頃から慣れ親しんだ「ご当地牛乳」は、地元の人たちにとって食文化であり、生活の一部でもあります。三重県を代表する「大内山牛乳」は、人口約6800人、県内で2番目に高齢化率が高い大紀町で生産されています。77年前に生産が始まった同牛乳は、三重県内から届く絞りたての生乳をすぐに製品化しており、コクがありながらも飲みやすい味わいが特徴です。1リットルの紙パックは1日約5万本が生産されています。

(大内山酪農農業協同組合 村田憲一さん)
「大内山酪農の牛乳は皆さまに安心して飲んでいただけるように、徹底した衛生管理のもと製造している」
年間50億円の売上を誇る大内山牛乳ですが、組合加盟の酪農家は30年前の6分の1以下となる12軒にまで減少しました。さらに輸入に頼る牛のエサ代は物価高と円安の影響でこの6年で1.4倍に跳ね上がり、経営の厳しさが増しています。
(大内山酪農農業協同組合 村田憲一さん)
「農家の高齢化もありますし、乳牛を育てるのは365日休むことができないので、なり手がいない」
地元から広がる「消費拡大」への取り組み

牛乳は日持ちせず、小売店が在庫を抱えたがらないほか、学校給食にも使われることから値上げが難しいのが現実です。そこでブランドを守ろうと力を入れているのが「消費の拡大」です。
コロナ禍では一時、学校給食が休止されましたが、大内山牛乳は宅配スーパーに販路を広げるなどして逆に売り上げを伸ばしました。去年はインフルエンサーとタッグを組み、YouTubeで番組を展開するなど、新たなファン獲得も狙っています。
(大内山酪農農業協同組合 村田憲一さん)
「僕自身も子どものころからずっと飲んでいる牛乳なので、これから先100年守っていきたい」

消費の拡大でブランドを守りたいという思いは、地元の人にも広がっています。大内山牛乳の工場近くにある喫茶店「Cafe Tora8」では、シュークリームやクレープなど大内山牛乳をふんだんに使ったスイーツが看板メニューとなっています。
店主の薗部眞理子さんは、もともと夫と2人で製菓店を営んでいましたが、町内の子どもが減りケーキなどの注文も減ったことで、20年ほど前に店を畳んでいました。しかし3年前、喫茶店の開店に突き動かしたのが、自身も飲み続けている大内山牛乳の存在でした。
(Cafe Tora8 薗部眞理子さん)
「おいしい大内山牛乳のブランドがあるので、牛乳を使った食べ物を出させてもらえたらと思って、店を出した」
過疎と少子化で店を閉めた経験を持つ薗部さん。「大内山牛乳」を生産する組合で働く約100人ほぼ全員が地元の人で、ブランドの維持は若者の流出防止にもつながると感じています。

(Cafe Tora8 薗部眞理子さん)
「若い男の子が『酪農組合の面接に来ました』と言っていた。地元に残って住まないとだめという人たちに対して、酪農組合があることはうれしいことですよね」
慣れ親しんだ「当たり前」の味を守ることが、地元の“食文化”、そして“雇用の場”を守ることにつながっています。ご当地牛乳の存在が、改めて見直されています。
CBCテレビ「newsX」2025年5月7日放送より
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