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「セロテープ」は絆創膏から生まれた?~米国をあっと驚かせたニッポンの開発力

「セロテープ」は絆創膏から生まれた?~米国をあっと驚かせたニッポンの開発力
「人気うさぎカッター」提供:ニチバン株式会社
「人気うさぎカッター」提供:ニチバン株式会社

セロハン粘着テープが生まれたのはアメリカだった。1930年(昭和5年)に、最初はマスキングテープとして、自動車の塗装に使われた。テープが透明で、糊(のり)などを使わずに、そのまま貼ることができる。やがて、米国では、梱包や封筒の封印に使われるようになった。

「創業者・歌橋憲一さん1930年代」提供:ニチバン株式会社

1889年(明治22年)に東京で生まれた歌橋憲一(うたはし・けんいち)さん。父親の薬局を継いで、1918年(大正8年)に「歌橋製薬所」を創業した。膏薬から始まって、主に絆創膏(ばんそうこう)を製造していた。太平洋戦争が終わったある日、そんな歌橋さんのもとに、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)から、ひとつの依頼が届いた。

「セロハン粘着テープを作ってもらえないか?」

GHQは、検閲した手紙の封書などを閉じたりするために、本国から持ち込んだ粘着テープを使っていたが、輸入すると経費もかかり、品不足になったため、日本国内での調達を考えた。そこで白羽の矢が立ったのが、絆創膏を作っている「歌橋製薬所」だった。

歌橋さんは、会社にとってのチャンスと、その依頼を引き受けた。絆創膏作りで培ってきた技術を応用して、発注からわずか1か月後には試作品を作り上げた。しかし、合成粘着剤を使っていたため、気温が高い夏は薬も軟らかく、しっかりとくっついたが、寒くて乾燥している冬は、その粘着力が一気に落ちてしまった。そこで原料を研究し直して、天然ゴムを使うことにした。冬でも効果がある粘着剤を開発して、テープに使った。

「セロテープ第1号1948年」提供:ニチバン株式会社

こうして発注から4か月の1948年(昭和23年)1月に、完成したセロハン粘着テープをGHQに納品した。

驚いたのはGHQだった。米国でも開発に10年かかったセロハン粘着テープを、わずかな期間で、ここまで質の高い商品に作り上げた日本の開発技術に感激し、量産を求めたのだった。歌橋さんは、GHQの依頼に応えながらも考えた。

「こんなに便利なものはない、日本国内向けに作れば、きっと売れるはずだ」

「現在のセロテープ」提供:ニチバン株式会社

同じ年の6月、国産のセロハン粘着テープを発売した。商品名は「セロテープ」。パッケージは、赤、白、青3色の目立つ色にした。しかし、当時の日本は、ものを貼る時に、糊や画びょうを使っていたため、最初「セロテープ」はなかなか売れなかった。大々的な宣伝戦略と共に、さらなる使いやすさの工夫を続けた。

「セロテープ」に塗られているのは、接着剤ではなく粘着剤、そのため、一度貼っても剥がすことができる利点があった。しかし、売れ始めると「くっつきすぎて、剥がす時にうまく剥がれない」という声が寄せられるようになった。そこで、セロハンと粘着剤の間に“緩衝材”として下塗り薬を入れるなど、改良を加えた。さらにテープへ目に見えないほど小さな凹凸をつけて、粘着剤が穴に沁み込んで、よりつきやすくなる工夫もした。「くっつきやすく、しかし同時に、剥がしやすい」というアイデアによって、「セロテープ」は、ますます使い勝手のいい、便利な文具に成長していった。

「初期のセロテープ1950年代」提供:ニチバン株式会社

“切り口”の研究開発も続けた。発売当初から、「セロテープ」にはテープをカットするために、ギザギザのついた簡単な金具が付属品として付いていたが、発売4年後の1952年(昭和27年)には、台座のついたテープカッターが登場。別名「ディスペンサー」とも呼ばれ、一段と使いやすさが増した。

「店頭風景1955年頃」提供:ニチバン株式会社

その頃から、全国の文房具店が便利さに気づいて、店頭に置くようになった。「セロテープ」は、家庭やオフィスに一気に広がっていった。

「テープカッター直線美」提供:ニチバン株式会社

1960年には、ハンドカッター付きのケースで挟み込んだ「セロテープ」を発売。小型のサイズもあって、持ち運びや移動も簡単になった。最も大きな進化は、2010年代にお目見えしたカッター、それまでギザギザに切れていたテープを真っすぐに切ることができるようになった。名づけて「テープカッター直線美」。これも日本らしい細やかなアイデアの成果だった。歌橋さんが創業した歌橋製薬所、現在の会社名は「ニチバン株式会社」。セロハン粘着テープの第一人者として、業界をリードしている。

「セロテープ使用風景」提供:ニチバン株式会社

本家本元のアメリカ人を、商品開発のスピードと技術でアッと驚かせたニッポンの底力。「セロテープはじめて物語」のページには、日本の文化の歩み、その確かな1ページが“しっかりとした粘着力で”貼り付けられている。

          
【東西南北論説風(403)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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