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★In My Life with The Beatles(No.4)Yesterdayはラブソングではなかった・・・

★In My Life with The Beatles(No.4)Yesterdayはラブソングではなかった・・・
筆者撮影:ポール・マッカートニーの生家(C)CBCテレビ

『苦しかった思い出は、遠い昔のことと思っていたけど、心の中に沈んだまま今もなお消えてはいないようだ・・・』アコースティック・ギターをつま弾きながらポールが切なく歌う「Yesterday」。レコーデョング・プロデューサーのジョージ・マーチンがアレンジした美しい弦楽四重奏の響きも加わり、ビートルズのラブソングの最高傑作という高い評価を受けてきました。

ポール・マッカートニーが作詞作曲した「Yesterday」のサビの部分の歌詞に耳を傾けて、一度じっくりと聴いてみてください。ポールの心の奥に秘められた大切な心理が隠されています。『なぜ、あの人は行ってしまったのか?わからない。あの人は頑なに何も言ってくれなかった。ぼくが何か悪いことを言ったからなの?ああ、あの頃が懐かしい・・・』

ほんとうのことを言わなかった両親

『あの人は頑なに何も言ってくれなかった』・・・ポールの子ども時代の苦しく悲しい記憶が、この言葉の中に秘められているのです。ポールは、10歳代の前半に母親を病気で亡くしています。乳がんでした。当時、ポールのお母さんもお父さんも、病気について、ほんとうのことを、子どもたちには話していませんでした。ポールと弟に心配をかけまいとしたのでしょう。隠していました。

がんの治療は日進月歩・・・5年生存率は60%以上

現代では、がんの治療技術は日進月歩で進歩し、優れた薬も開発されて、5年生存率は、全体で60%を超え、10年生存率も55%です。半数以上の人が、がんと診断されても適切な治療を受けながら、人生を長く生きられる時代なのです。医療現場では、がんになっても、家族には正しい情報を伝え、情報を共有して、家族で支え合っていけるようにサポートする医療が広がってきています。

しかし、ポールのお母さんが亡くなった1950年代は、そうした医療のサポートもない時代でしたから、ほんとうの病名を子どもに話すのは、お母さんとお父さんにとっては、とても辛かったのでしょう。ポールは、「母がどうして亡くなったのか、その時は何もわからなかった。がんだったことは、後から知ったんだ」と、後のインタビューで話しています。

ぼくが悪い子だったからお母さんは・・・心のトラウマに

がんの正しい知識について、小・中学校の教育現場で子どもたちに伝えようという活動に取り組んでいるカウンセラーにお話を聞く機会がありました。授業の前に、子どもたちにアンケートをしたところ、「私が悪い子だったからお母さんは病気になっちゃうの?」などの間違った情報を持っていて、親の病気を自分が原因と思いこんで心のトラウマになっている子どもたちがいたそうです。だから、小中学校という早い段階から子どもたちには、正しい知識を伝え、「家族が病気になるのはあなたのせいではないよ」「がんは遺伝子のスイッチが壊れて暴走する病気」「がんは予防もできるんだよ」と教えることはとても重要なんだそうです。

もう一度、ポールが書いたあの歌詞を思い出してみましょう。『なぜ、あの人は行ってしまったのか?わからない。あの人は頑なに何も言ってくれなかった。ぼくが何か悪いことを言ったからなの?ああ、あの頃が懐かしい・・・』

Yesterday は心理学の教材?

ポールは最近のインタビューでこんな風に話しています。「曲を書いた時には、はっきりと意識はしていなかったけど、Yesterdayは、実は母のことを歌っているんだと思う。これって、心理学の教材になるんじゃないかな」
Yesterdayは、母親を亡くした時の喪失感をうたった歌だったのです!
もし、ポールの両親が、病気について子どもたちにもほんとうのことを話し、家族で包み隠さず語り合いながら支え合うコミュニケーションの道をとっていたら・・・
『苦しかった思い出は、遠い昔のことと思っていたけど、心の中に沈んだまま今もなお消えてはいないようだ』・・・ポールは、子ども時代の心のトラウマに、何年もの長い間とらわれ続けることはなかったかのかもしれませんね。

CBCテレビ論説室 特別解説委員
後藤 克幸

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