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第三セクターを直撃する新型コロナと変わりゆく時代の波

第三セクターを直撃する新型コロナと変わりゆく時代の波

本格的なスキーシーズンを迎えたが、各地のスキー場は新型コロナウイルスへの感染防止対策に追われている。リフトでのソーシャルディスタンスやレストハウスへの入場制限など、かつてない取り組みが続いている。そんな中、北海道夕張市のゲレンデはひっそりとしている。「夕張リゾート」が経営破綻し、スキー場も今季の営業を休止したためである。

姿消したスキーリゾート

もともとは第三セクターだった。炭鉱が閉山になった後、第三セクター「夕張観光開発」がスキー場やホテルを運営。新千歳空港からの交通アクセスも便利で、国内はもちろん、海外からのスキー客も訪れる人気のリゾート地だった。しかし夕張市自体の財政が悪化して、施設は民間企業に委託され、その後は中国の企業に転売されるなど変遷をたどった。新型コロナによる自粛や規制の影響が決定打となったのか、ついに2020年のクリスマスイブに、運営会社「夕張リゾート」は廃業を発表した。第三セクターの寂しい末路となった。

第三セクターの歴史

第三セクターは、日本の高度成長と共に登場した。国や地方自治体を「第一セクター」、民間企業を「第二セクター」と呼び、この2つを合わせた「半官半民」の会社や団体を「第三セクター」と呼んだ。利益を追求することが目的ではなく、“官”が進める公共事業に“民”のコスト意識やスピード感を取り込むことが狙いだった。
昭和時代の末期、1987年の国鉄分割民営化の際に、赤字ローカル線を引き受ける事業主体として知られるようになったが、その後、農林水産や観光レジャーなど「地域振興」をテーマに様々な分野で、第三セクターがお目見えした。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)も、今は民間に売却されたが、当初は第三セクターからスタートした。愛知県内でも、2005年「愛・地球博」会場へのアクセスを担ったリニモ(愛知高速鉄道)や、名古屋の観光名所のひとつ「名古屋テレビ塔」も第三セクターである。

赤字を抱えて走る

その第三セクターだが、現在は減少傾向にある。総務省が2019年3月時点でまとめた全国の第三セクターの数は6597法人。2009年は7535法人だったので、10年間で900以上減ったことになる。さらに全盛のころは、全国で1万を超えていたので、時代の変化の波は第三セクターにも及んだと言える。
第三セクターへの地方自治体からの出資額は全体の6割と、その負担はかなり大きい。さらに2019年度、赤字を抱える第三セクターの数は4割以上にのぼるなど厳しい現実が続いている。国は、地方自治体が赤字セクターに引きずられないよう財政の健全化をめざし、2009年度から5年間かけて、経営改善が見込めない第三セクターの整理を進めた。

沖縄で頑張る「ゆいレール」

健闘している第三セクターもある。沖縄唯一の鉄道でもあるモノレール「ゆいレール」だ。2003年8月に開業し18年目。沖縄県、那覇市、そして浦添市などが出資して設立した「沖縄都市モノレール」が運営している。もともとは那覇空港駅から首里城に近い首里駅までだったが、2019年10月に浦添市の「てだこ浦西」駅まで延長された。開業当時の利用客は1日あたり3万人余りだったが、今では観光客に加えて通勤や通学に利用する地元の人が増えて、2019年度は過去最高の1日あたり5万5800人の利用客になった。2016年度には黒字決算になり、2022年度には、現在の2両編成から3両編成に増強されるなど、順調に“レールを走って”いる。

第三セクターのジレンマ

そんな優等生の「ゆいレール」にも、新型コロナ禍は影を落とす。中国はじめ海外からの観光客が姿を消して、利用客の数は大きな影響を受けている。沖縄県の「ゆいレール」だけではなく、観光レジャー部門の第三セクターは試練の時を迎えている。第三セクターは、出資している地方自治体にとってリスクを伴い、経営が立ち行かなくなれば夕張市のように自治体の大きな負担になる。しかし一方で、地域密着として性質上、採算が取れないから「はい終わり」と店じまいすることも簡単にはいかない。そこに第三セクターが抱えるジレンマがある。

新型コロナという新たな危機に直面している各地の第三セクター。当事者には「半官半民」の強みの方を活かして難局に立ち向かうこと、そして税金が投入されている事業だけに、引き続き細やかな情報公開を望みたい。と同時に、利用する私たちひとりひとりもその動向を見つめ、時には温かい支援の気持ちを持つことも大切であろう。

【東西南北論説風(204) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

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