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卵子凍結を考える前に知っておきたいこと。費用・妊娠率・AMHを医師が徹底解説

卵子凍結を考える前に知っておきたいこと。費用・妊娠率・AMHを医師が徹底解説
CBCテレビ me:tone編集部

ロールモデルではなく、身近な「隣の女性」が持つリアルな本音を取材することで、「今」を生きる女性たちを応援したい――。 そんな思いから、CBCテレビは「me:tone編集部」を立ち上げました。
         
今回の取材テーマは、近年、女性タレントやアスリートのSNS発信をきっかけに注目が高まっている“卵子凍結”。妊娠・出産のタイミングを自分で選び、キャリアと両立させたいと考える女性にとって、いまや大切な選択肢の一つになりつつあります。一方で、正しい知識や実際の体験談に触れられる機会はまだ限られているのが現状です。

今回は、名古屋市・池下の「まるたARTクリニック」で行われた対談セミナーを取材。登壇したのは、同院の丸田院長と、卵子凍結を経て妊娠・出産を実現した女性です。「コンセプションケアの重要性」「卵子凍結の基礎知識と必要性」「将来の妊娠のために今知っておきたい自分の体」など、医学的な観点から日本の現状が語られる一方で、当事者によるリアルな声も共有されました。
(取材・報告;me:tone編集部 小島)

卵子凍結セミナーの様子

妊活の常識が変わる!男女のヘルスケア「プレコン」が話題

丸田医師:「妊娠を望んだ場合に、日本ではほとんどの人が“不妊症(※)に片足突っ込んでいる”というのが現実なんです。特に年齢とともに、妊娠までかかる期間はどんどん長くなっています」
※日本の不妊症の定義は妊娠を考えて1年間妊娠しないこと

日本では、「妊活を始めたらすぐ妊娠できる」というイメージを持つ人が少なくありません。しかし実際は、妊活から妊娠まで平均約1年4カ月かかるといわれています。。
背景には、正しい知識や情報が行き届いていないこと、そして一部のメディアや著名人による誤った発信があると丸田医師は指摘します。

当然、妊娠はいつまでもできるものではありません。だからこそ、妊娠を望む前から自分の体を知り、将来に向けて整えることが大切です。こうした考え方は、未婚・既婚を問わず、そして女性だけではなく男性にも広がり始めています。いま注目されているのが、“プレコン”――プレ(前)コンセプション(妊娠)ケア。

妊娠を「考える前」から体と心をケアし、自分の将来を見据える新しいヘルスケアの形です。

イメージ写真

日本は“世界一の不妊治療大国”

丸田医師:「治療を始める年齢に大きな差があることが、原因の一つであることは間違いありません。日本人は海外の先進国と比べても、基礎的な知識が足りていないんです」

日本では、妊娠や性に対して“奥ゆかしさ”を重んじる文化が根強く残っています。「できるだけ自然に妊娠する」という無為自然を尊ぶ考え方が広く受け入れられてきた一方で、不妊に関する知識は十分に浸透していません。その結果、治療を始める年齢が海外と比べて大きく遅れています。

さらに、有名人の高齢出産がSNSなどで取り上げられることも多く、「私にもできるかもしれない」という安心感が、かえって行動を送らせてしまう側面もあるといいます。「勇気をもらえるという意味では良いことですが、誤った希望になってしまうと困ります」と丸田医師は言います。

まるたARTクリニック提供:卵子凍結セミナー資料

実際のデータにもその差は明確に現れています。
日本の人口はアメリカの半分以下にもかかわらず、体外受精の件数は日本のほうが多い。それでも、出産に至る確率は日本が14%、アメリカは22%と、日本は大きく下回っています。最大の原因は、治療を始める年齢の遅さ。数年前まで日本では平均40歳で治療を始めていたのに対し、アメリカは36歳。
このわずか4年の差が、結果を大きく分けているといいます。

「保険適用が始まってからは、治療を始める年齢が少し下がってきました。それでも、根本的な意識改革が必要です」丸田医師はそう語気を強めました。

母体年齢ではなく“卵子年齢”が未来を左右する

丸太医師:「母体の年齢が何歳であっても、“若い卵子”があれば妊娠は可能です」

丸田医師は、アメリカでのデータをもとにそう話します。つまり、妊娠と年齢には強い関連がありますが、実際に鍵を握るのは“母体の年齢”ではなく“卵子の年齢”。母体の年齢が45歳であっても人から貰った若い卵子を利用すれば妊娠するということを表す、大事なグラフだと丸田医師は話しました。

しかし、アメリカでは卵子提供が一般的に受け入れられていますが、日本ではまだその文化が根付いていません。多くの人が「自分の卵子と、愛する人の精子で子どもを授かりたい」と考える傾向があります。だからこそ――丸田医師は言います。
「日本では、できるだけ早い段階で“自分の卵子”を守る意識を持つことが大切なんです。」

まるたARTクリニック提供:卵子凍結セミナー資料

若い=安心、ではない。大事なのは自分の“AMH”を知ること

丸田医師:「今できることは、正しい知識を身につけること。そしてAMHで自分の卵巣機能を知り、結果を踏まえてどう考えるかを選択することです。治療をしない、卵子凍結はしないという選択も、個々の正しい知識の上での判断であれば、それもまた“正しい選択”です」

女性の体内にある卵子は、生まれた瞬間から減り続けています。男性は一生精子をつくり続けるのに対し、女性は卵子を新たにつくることができません。1回の月経の間に約1000~2000個が消滅し、そのうち1個だけが排卵されます。つまり、1月に1個ではなく、毎日30~60個ずつ減っているというイメージだそうです。

卵子は日々減っていく一方で、自分ではどれくらい残っているかを感じ取ることはできません。その目安となるのが、「AMH(抗ミュラー管ホルモン)」。卵巣内に残っている卵子の数を推測できる指標です。血液検査で簡単に測定でき、約1時間ほどで結果がわかります。
       

まるたARTクリニック提供:診察室の写真

若いからといって油断はできません。日本人女性のうち、30代前半でも約1%が閉経しているというデータもあります。だからこそ、年齢にかからわらず、自分の卵巣の状態を知ることが大切なのです。

丸田医師:「2年後には卵子がなくなるかもしれない。今それを知ったうえで行動するのか、知らないまま過ごすのかで、人生が左右されます」

とはいえ、卵子の評価には量と質の両方があります。AMHでわかるのは“量”=残っている数。一方で、“質”は基本的に自分の実年齢と比例すると考えられています。量と質、この二つをあわせて初めて、自分の卵巣の状態を正しく理解できるのです。

卵子凍結は、費用やスケジュール面など、決して軽い決断ではありません。けれど、妊娠前から自分の体を整える意識“プレコンセプションケア”は誰にでもできることです。まずは正しい知識を得て、自分の体を知ること。栄養状態の改善、体重の管理、タバコなどの嗜好品を見直すことから始めるだけでも、未来の選択肢は広がります。

後編では、卵子凍結の実態や費用、助成金制度の現状を紹介します。

※まるたARTクリニックで採卵した凍結卵子については、原則グレイスバンク(卵子凍結保管サービス)でのお預かりになります。

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