ルーキー捕手・石伊雄太に球界が注目!優勝と共に輝いた竜のキャッチャー列伝

待望久しい“竜の正捕手”誕生だろうか。中日ドラゴンズのドラフト4位ルーキー、石伊雄太についての評価が日に日に高まり続けている。(敬称略)
プロ初安打を目撃した
開幕まもない本拠地バンテリンドームのスタンドで、記念すべき一打を目の当たりにした。2025年(令和7年)4月10日、広島東洋カープとのシーズン初戦だった。5回裏2死1、3塁のチャンスに、打席に立った石伊雄太のバットから飛び出したレフト前ヒットは、プロ初安打、そして初打点となった。ゲームは延長11回の末に負けたのだが、嬉しい瞬間に立ち会った喜びと共に観戦を終えた。ただこの時はまだ、これから続く長いペナントレースで、石伊が活躍してくれるといいな、という淡い期待だけだった。
井上新監督の期待

開幕から多くの試合でスタメンマスクをかぶってきた木下拓哉が5月に脚を傷めて、1軍を離れた。すると井上一樹監督は、この時は2軍で再調整中だった石伊の昇格とスタメン起用に、一気に舵を切った。「シーズン後半に想定していたことが早まっただけ」という監督コメントからも、新生・井上竜の“正捕手”として、自らがドラフトで獲得した石伊を常に念頭に置いていたことがうかがわれた。そして、石伊は井上監督の期待に応えていく。
その盗塁阻止率に注目

その強肩は、社会人時代から評価が高かった。ボールを受けてから投げるまでのスピードも速い。プロ初安打を打った4月の試合でも、プロ入り初となった盗塁阻止を見せてくれた。盗塁阻止率が12球団トップの時期もあった。課題と言われていた打撃も好調で、その勝負強さも光る。8月18日に25歳を迎え、年齢的にも円熟期に差しかかってきた。残りのゲーム、このままシーズンを通して、ホームベースを守り続けてほしい。その先には、間違いなく“竜の正捕手”の座が待っている。
“マサカリ打法”木俣の豪打
ドラゴンズの歴史で、過去にリーグ優勝を果たした時には、必ずと言っていいほどに“正捕手”がいた。初の日本一になった1954年(昭和29年)の野口明、そして、その20年後にリーグ優勝した1974年(昭和49年)には木俣達彦がいた。木俣は、この年に三冠王を取った王貞治と、首位打者を争った強打者だった。セ・リーグの捕手で、シーズン30本のホームランを記録したのも木俣が初めてだった。一本足で、バットのグリップを腰の辺りまで低く構える独特のスタイルは「マサカリ打法」と呼ばれた。竜党にとって忘れ得ぬキャッチャーである。
MVP捕手の中尾が躍動
その木俣から“正捕手”を受け継いだのが中尾孝義だった。打って守って走れる、機動的なキャッチャーだった。つばのないヘルメットは「一休さんヘルメット」と呼ばれ、中尾のトレードマークだった。近藤貞雄監督率いる“野武士野球”によって優勝した1982年(昭和57年)には、シーズンMVPにも選ばれた。球団史に名前を刻んだ捕手である。
黄金期を支えた谷繁の実力
星野仙一監督で2度優勝した1988年(昭和63年)と1999年(平成11年)の“正捕手”は中村武志。監督とコーチによる猛練習で鍛え上げられた、頑強なキャッチャーだった。そして、谷繁元信へとつながっていく。FAで横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)から移籍、落合博満監督に率いられた黄金時代と呼ばれる8年間の“正捕手”で、4度のリーグ優勝と53年ぶりの日本一を実現した。しかし、それ以降、ドラゴンズにはなかなか“正捕手”が定着しなかった。
待望久しい“正捕手”へ
その重要性は、当然チームとして分かっていたはずである。しかし、名捕手だった谷繁が、監督としてドラゴンズを率いた時も“正捕手”を作ることはできなかった。かつての中尾のように社会人でも磨き上げたセンスを持つ、または、中村のように高卒ルーキーの時代から徹底的に鍛えられる、そういう正捕手道を歩む人材はいなかった。その間には、外国人捕手として注目を集めたアリエル・マルティネスや、六大学野球の三冠王だった郡司裕也もいたが、いずれも北海道日本ハムファイターズに移籍し、新庄剛志監督の下で花開いたキャッチャーもいた。ようやく、谷繁以来の“正捕手”の座に石伊がつこうとしている。
守備の要(かなめ)というドラゴンズ長年の課題がクリアできれば、チームは落ち着く。
2025年シーズンも終盤を迎えているが、石伊にはこのまま走り続けてほしい。そして、是非、新人王を取ってほしい。捕手の新人王は、セ・リーグでは、阪神タイガースの田淵幸一さん以来、実に56年ぶりとなる快挙なのだ。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。