球宴ファン投票での快挙と共に浮き彫りになった立浪ドラゴンズ 深刻な課題
オールスターゲームが近づいてきた。中日ドラゴンズからは4人の選手が出場予定だが、リーグ最下位に低迷するチームから4人が選ばれたことは、竜党としても嬉しい限りである。
木下捕手がファン投票トップ
2022年のプロ野球オールスターゲームに選出された選手の中で、ドラゴンズにとっての“快挙”は木下拓哉捕手が、ファン投票で選ばれたことだろう。木下選手は選手間投票でも同時に選ばれたが、ファン投票でのトップは格別である。捕手部門の投票で、木下選手が獲得したのは21万5564票、2位の阪神タイガース梅野隆太郎捕手は21万4639票で、その差はわずか925票。熱狂的なタイガースファンの応援に対して、よく競り勝ったものだ。ドラゴンズの選手がファン投票で選ばれたのは2018年の松坂大輔投手(当時)以来4年ぶりのこと。しかし“平成の怪物”松坂はある意味で別格だった。野手としては2011年の井端弘和さん以来11年ぶりの快挙、と言った方がしっくりくる。今回の第2戦は愛媛県松山市で開催される。同じ四国の高知県出身の木下選手、“故郷”での活躍に期待したい。
球宴最速のリリーフを見せろ!
この他の3選手、ダヤン・ビシエド選手は、選手間投票で1塁手として2年連続の選出。安定した守備も評価されたのだろう。監督選抜では、エース大野雄大投手と“竜の守護神”ライデル・マルティネス投手が選ばれた。こうしてみると、投手2人、捕手、内野手と、ドラゴンズにとっては順調な選考という印象。大野投手の出場が実に7年ぶりということにも、さらにまだ3回目ということにも、あらためて驚かされる。プロ入り後の大野投手の歩みも決して順風満帆ではなかった証しだろう。ファンにとっても、本人にとっても楽しみなのはライデル・マルティネス投手。生涯初めてのオールスター出場、球宴史上での最速163キロを超す剛球を全国のファンに見せつけてほしい。
あまりに淋しい竜の内野陣
今回のファン投票の中間発表をチェックしながら淋しかったことは、そこに登場するドラゴンズ選手の名前が、あまりに少ないことだった。結果として捕手部門こそトップを取ったものの、抑え、二塁手、三塁手、遊撃手の4つの部門では、上位5人の中にドラゴンズの選手は誰も入っていない。一塁手部門でビシエド選手が3位、外野手部門で大島洋平選手が6位である。ファン投票には、贔屓チームの選手に投票する「基礎票」に加えて、野球ファンが全体の中から“公平に判断して”投票する「浮動票」がある。この投票結果は、抑え部門以外で、ドラゴンズの現状の課題を浮き彫りにしていると言える。内野陣が固まっていない。そして、そこに全国区のスター選手がいない。もし石川昂弥選手がけがをしていなかったら、もし根尾昂選手がショートのレギュラーに名乗りをあげていたら、“ないものねだり”と分かっていても、つい思ってしまう。
球宴史に刻まれるドラゴンズ戦士
ドラゴンズの選手は、過去のオールスターゲームで、これまで10人が最優秀選手(MVP)に選ばれてきた、最初の球宴が開催された1951年(昭和26年)には野口明選手と杉下茂投手が獲得している。1970年前後に“竜の4番”だった江藤慎一選手にいたっては、2回もMVPを獲得した。最も記憶に新しいのは、現在1塁コーチをつとめる荒木雅博選手(当時)。2008年(平成20年)に3安打3打点でMVPに選ばれた。数々の華やかな活躍を“夢の球宴”で見せてきた竜の先輩たちに負けないよう、出場する4選手は、是非チーム史上11人目のMVPをめざしてほしい。
球宴に出場しない選手がやることはひとつ、後半戦への準備である。すでにペナントレースは折り返し点を大きく過ぎている。シーズンの残された時間は、あっという間に過ぎていく。今回のファン投票で浮き彫りになった内野陣の強化と整備、これなくして“立浪竜の逆襲”はない。対象である選手たちは、心して調整に励んでほしい。その練習は“夢の球宴”と真逆の、とんでもなく厳しいものであっていい。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。