落合博満さん名言の奥の奥~ドラゴンズ選手シーズンオフをどう過ごす?
落合博満選手がロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)からトレードで中日ドラゴンズへ移籍してきた頃に、こんな言葉を聞いた。1987年(昭和62年)開幕前のことだった。
「オレは日本に12しかない会社に選ばれた社員。だから言いたいことを言う」
日本プロ野球はその当時も現在も12球団であり、それを「会社」に例えた言葉なのだが、「オレ流」と言われた姿勢を表現している言葉でもあった。
しかし、一方で「それだけの自覚と責任を持って野球に取り組んでいる」という強烈な自負から吐露したひと言だったと思う。「言いたいことは言う、でも、やることはやる」。
秋季キャンプを終えた今
ドラゴンズの2018年シーズンも納会、OB会総会そして選手会納会と行事が終了した。その前には名古屋と沖縄に分かれて行われた秋季キャンプも終わった。
打者は一日中ひたすら打撃練習だけを行う練習があったり、投手はホームベース板の半分を色分けして制球を考えたり、新しく加わったコーチ陣によるユニークな指導、そしてそれに呼応して汗を流す選手たちと「秋季キャンプ便り」は例年以上に明るく盛り上がっていた。
頑張る選手のニュースに触れることはファンとして嬉しい。練習するのは選手であり、それは職業野球として当たり前のことなのだが、指導する側の顔ぶれが大きく変わったことによって新しい空気が吹き込まれたことも事実であろう。人の組織と言うものは不思議なものだ。
練習は裏切らない
数多くの野球選手の中でも「プロ野球の世界」に進むことができるのはほんの一握りである。現役時代の落合選手の言葉を借りるならば、まさに「選ばれた人」、12しかないチームからプロで戦力になると選ばれたのである。その時点での能力に対するお墨付きである。しかしスタートラインはそれとして、ドラゴンズの山本昌投手のように高卒で入団して50歳まで現役を続けた選手もいれば、同じドラゴンズでもわずか1~2年でユニホームを脱いだ選手もいる。
今年の流行語にテレビの筋肉体操講座からの「筋肉は裏切らない」という言葉がある。スポーツの場合「練習は裏切らない」とも言えようか。コーチの指示でチームメイトと一緒にやる練習以上に、目に見えないところで1人やる練習、いかにその努力を継続するか、プロで長くプレーするために欠かせないことだろう。
自分との厳しい勝負が始まった
性善説と性悪説という言葉はよく知られているが、「企業統治(corporate governance)」や「内部統制(internal control)」の研修などでもうひとつ紹介されるのは「性弱説」である。
すなわち「人間というものは本来弱いものであり、つい心にスキができる。甘えも出る。その弱さを組織的に防ぐシステムが内部統制では必要になる」という意味だ。
球団の指導の下で行われる秋季練習は「性弱説」をカバーするであろう。ついつい手を抜くことがないように。しかし、オフの期間は、選手ひとりひとりが「人間は弱いもの」という根幹に個人の責任で向き合うことになる。
与田ドラゴンズにオフはない
後援会やイベントへの出演など選手たちにとってオフも忙しい。ファン開拓にとっては大切なことであり、さらに家族サービスや個人の時間も必要だろう。
私たちファンにとってはユニホーム姿ではない選手たちと触れ合うことができる嬉しい機会なのだが、やはり最大のファンサービスはグラウンドでの最高のパフォーマンス、プロらしいプレーの披露である。
与田剛新監督は来年2月のキャンプイン早々に紅白戦などの実戦を行う方針を明らかにしている。それを考えればこれから2か月間のシーズンオフは決して長くはない。いやその意味では「オフ」という言葉すら似合わないのかもしれない。
キャンプインの日に、ドラゴンズナインそれぞれがどんな真新しいユニホーム姿を披露するのか。30年以上前の落合選手の言葉をあらためて噛みしめながら「プロとして選ばれた選手」たちのたくましい立ち姿を心待ちにしている。
【CBCテレビ論説室長・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。