中村コーチが認める「とんでもない強肩」ドラゴンズ新時代の扇の要、加藤匠馬の覚悟
「同じイニングに3回も投球を逸らすって言ったって、オレなんか、3球連続で逸らして、ボロボロになったことあるよ」
星野仙一時代の名捕手、中村武志バッテリーコーチが懐かしそうに振り返る。2019年4月13日甲子園での阪神3連戦2日目。与田新体制で開幕戦から大抜擢の若手、加藤匠馬捕手の捕球練習を見守りながら。
加藤捕手は前日のナイターで、自身プロ初打点となるタイムリーヒットを放った直後、守りで同じイニングに3度も投球を後ろへ逸らし、慌ててバックネット前を走るシーンを繰り返してしまった。しかもリリーフ投手の代わり端の低めのボールを。(記録上は、投手に責任のある暴投)
そのイニング途中、堪らず中日ベンチは動く。伊東勤ヘッドコーチの進言もあり、与田監督が捕手のみの交代を申告。代わった大野奨太捕手がチームを引き締め、ゲームを落ち着かせた。
チームは初戦に勝利したものの、加藤捕手にとっては堪らない甲子園でのゲームの翌朝、全く眠れなかったという。
「この悔しさと申し訳なさは忘れません。思い出したくなくても思い出し続けます。もし、またチャンスをいただけたら、体のどこに当ててでも、絶対に前で止めます」
有名な捕手は皆が通る道
ただ、翌日の中村コーチは、この出来事を、意外にも前向きに捉えた。
「だって、有名な捕手は、皆が通る道だよ。現役時代の伊東ヘッドもそうだって。ヘッドが、ロッテで田村を育てた時もそう。
オレなんかもう。ちょうど同じここ甲子園で、小松辰雄さんのボールを3球続けて逸らしちゃってさあ。当然、代えられて、その晩、即、当時の宿舎の竹園旅館のコンクリートの駐車場で、加藤安雄コーチがマンツーでワンバウンド捕球練習。痛いのなんのって」
中村コーチは続ける。
「技術うんぬんじゃない。あいつは、自分が打席で打てた時、何かをやらかす。オープン戦でも初ヒットでランナーに出て、けん制タッチアウト。そんなことよりも、大切なのは、投手との信頼関係だから。低めの投球は生命線」
「それと、ほんとに不思議なもんで、全く同じシーンって、またやって来るのよ。試合に出続けるとは、そういうこと。問題は、球を逸らせた過去のことよりも、その後にオドオドせず、低めのサインをいつものリズムで出せるか。ベンチはそこを見る。昨日なんて、監督があそこまで代えずに我慢した方だよ」
加藤の履歴書は、まだ真っ白
また、中村コーチは、加藤の現在地を就職活動に例えて語ってくれた。
「加藤の履歴書は、まだ真っ白。面接で言ったら、質問の内容どころか、質問の仕方すら分かってない。がんばります!なんてどこの会社にでも言える。
ただね、能力や技術が足りないことより、あいつのセールスポイントは、他をカバーできる。とんでもない強肩が、あるんだから」
中村コーチら首脳陣の期待の大きさは、翌日以降のスタメン起用に表れている。初戦翌日のゲーム序盤、先頭打者として内野安打で出塁した近本選手の盗塁を刺し、与田監督に「流れをガラッと変えてくれた」と言わしめた。
だが、翌日のスタメン打席で初の3安打猛打賞、結果3連戦全てでヒットを放ち2試合連続マルチ安打の成績を残した加藤本人は、口元を引き締め、覚悟を語る。
「チームにご迷惑を掛け、二軍落ちでも当然なことをしてしまいました。皆さんに助けられ、翌日も使っていただきました。一生の覚悟です。思い出したくなくても思い出すようにします。防げない低めは無いはずです。止められなきゃ、肩を活かすも何も。信用していただけませんから」
ただ、一人の実況アナウンサーとして、中日投手陣がランナーを許すピンチになったらなったで、ワクワクするって、初めての気持ちです。加藤の肩を実況できる魅せ場でもありますから!燃えよ!ドラゴンズ。
【CBCアナウンサー 宮部和裕 CBCラジオ「ドラ魂キング」(午後4時放送)水曜担当他、ドラゴンズ戦・ボクシング・ゴルフなどテレビ・ラジオのスポーツ中継担当。生粋の元少年ドラゴンズ会員。山本昌ノーヒットノーランや岩瀬の最多記録の実況に巡り合う強運。早大アナウンス研究会仕込の体当たりで、6度目の優勝ビール掛け中継を願う。】