吉見よ、ケガを引退の理由としてくれるな―。元燕のエース館山氏が送った熱きエール
【サンドラを観られなかった全国のドラ友と共有したい番組のコト】
CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日午後12時54分から東海エリアで生放送)をみたコラム
このコラム(?)は「サンドラ」を見られなかった全国のドラ友に話したい! と、番組の内容を共有するコラム(?)である。
今週の放送で共有したいトピックスは、ドラゴンズ・吉見一起投手と今季をもって現役を引退した元スワローズ・館山昌平さんのスペシャル対談について。
吉見と館山氏といえば共に2009年シーズンに16勝を挙げて最多勝のタイトルを獲得。前年の08年から5年連続で2ケタ勝利を挙げるなどチームを代表するエースの地位まで上り詰めたのだが、長年同じ右ヒジのケガに悩まされたという共通点を持つ。
いわばライバルでもあり、球友でもある二人ならではの本音トークは非常に見応えがあった。なぜなら、まったく異なっているかと思えば通じる部分もあり、確固たる信念を持つ二人が変に同調することなく心の内を明かした“エース談義”だったからである。そして、対談の最後に館山氏が現役を続ける吉見に送ったメッセージは、イチ吉見ファンの筆者を共感させたのだ。
対談の内容は“最多勝の価値観”や“完投へのこだわり”として09年シーズンを思い返し、“最高の投球を引き出す極意”、“投手に一番大切なこと”といった野球観についても語られた。
まずは、吉見が館山氏を強く意識することとなった“きっかけ”から。エースの自覚が芽生え始めた09年の“ある試合”からだと明かした。
吉見、館山の両氏で異なった“最多勝の価値観”と“完投へのこだわり”
「(前年の08年に2ケタ勝利を達成して迎えた)自信がついた年だったので大事な試合で投げたいという思いでいました。オールスター明け、最初の試合で投げ合って負けてから、館山さんをめちゃくちゃ意識するようになって。負けたくない、黒星をつけたいという思いだけでした」
吉見と館山氏をライバル関係に位置づけたのは、この年の最多勝のタイトルを分け合ったことから始まったのではないだろうか。しかし、この最多勝について両者の価値観はまったく異なるものだった。
館山:正直に言いますけど、あまり関係のないタイトルなんですよね。いつもリードした場面まで投げ続けられたかというと、そうではなかったですから。チームに勝たせてもらった16勝という数字なので。
吉見:僕は逆にすごく意識して取りにいったので。ピッチャーとして勝ち星が評価されるものだと思っていたので、当時はすごくうれしかったですね。
さらにこの年は5度の完投も同じ数。しかし、両者のこだわりは対照的だった。
館山:できればダイレクトで抑えに繋ぎたい。抑えはチームの象徴なのでダイレクトに繋げられれば、その試合は先発投手が支配したという感覚なんですよね。
吉見:僕は最後まで投げたい。ダメだったら助けてもらう。当時は100球でどうだとかなかったですから、150球を超えようが最後まで投げたい。完投を目指すんですけど、「岩瀬さん、お願いします」と試合中に方向転換することもよくしていたと思います。
トークは「試合で最高の投球をする方法とは?」のテーマについても語られた。ここでも両者の違いが色濃く出たのだが、館山氏のプロフェッショナルとして意識の高さを感じる取り組みが明かされた。そして、そんな館山氏が持つ数々のルーティンの中から吉見が参考にしている取り組みについても告白した。
館山氏が試合で緊張しないために続けたルーティン「登板前日に頭の中で1試合する」―
吉見:(試合前)えずいたりしないですか?
館山:オレは全くしない。
吉見:緊張もしないですか?
館山:緊張しない人なの。緊張するんですけど、(登板)前日に終わらせておくんです。前日に部屋を真っ暗にして次の日のオーダーを考えて、頭の中で1試合するんです。するとピンチはいっぱいくるんです。色んな良いイメージ、悪いイメージを考えて、心臓もドクドクッてなるんですよ。自分で興奮させて、それが終わっちゃうとそれ以上のピンチは来ない。予行演習をした状態でマウンドに上がれるので、それほど緊張はなかったですね。イレギュラーなことが起こると緊張はしますけど・・・、キャッチャーが寝坊で来ないとか(笑)。
吉見:僕は心配性なので、基本的に。館山さんみたいに前日、シミュレーションをしても、ピンチの連続で試合が終わらないと思うんです(笑)。僕がすごく大事にしているのは、マウンドに上がってからの直感なので。データとかも大事にするんですけど。準備はするんですけど不安は消えない。館山さんが登板当日に50メートルを走ってある程度のタイムが出ないと(調子が悪い)。それをバロメーターにしてるというのを聞いたんです。それを真似というか、ちょっと意識しています。タイムを計ってもらったりして(笑)。
館山:常に試合で投げる準備、100にもっていくための一つの目安として、50メートル走6秒5を必ず切らないとと。このくらいのスピードが出て、このくらいのボールが投げられると。
そしてエース談義は真髄に触れていく。「ピッチャーに一番大切なことは」―。ここで初めて両者の意見は重なった。
最高峰の投球術を駆使した二人が主張した投手論「一番大切なことは、野球頭脳」―
吉見:僕は一言で言うと“頭”だと思います。
館山:うん、“頭”ね。
吉見:学力じゃなくて野球の偏差値というか、それに尽きると思います。ただ単に投げていると、打たれて「もう、いいや」ってなることもあったんですけど後悔するので。だったら考えて、考えて。「何でこのサインが出るんだろう」と考えて、積み重ねてやった方が抑えられる確率が上がると思うので。
館山:本当に同じですね。記憶力と洞察力とマウンド上で感じたことをキャッチャーと指(サイン)で意思疎通をして試合を組み立てていくっていうことは、すごく楽しかったですし。それが結果に繋がった時はうれしかったです。
時折、笑顔を交えながら進む会談の様子から温かい関係性が見てとれたのだが、その絆を生んだのは共に同じケガという大きな壁を乗り越えたことによるもの。ふたりは右ヒジにメスを入れるトミー・ジョン手術(側副靭帯再建術)から再起を果たした経緯にあって、悩んでいた吉見に声を掛けたのは同手術をすでに経験していた館山からだったという事実に筆者は驚かされた。
館山:たぶん・・・、自分が気になって連絡したんだと思います。ライバルチームのエースではあるんですけど、やっぱりケガをしてほしくない。マウンドで正々堂々と戦いたいという思いがあったので。何か力になれればと。
野球界の先輩としてチームの垣根を越えて手を差し伸べたことにより、ふたりの関係性はライバルから同士へと変わった。
対談のエンディングに館山氏は現役を続ける吉見に向けて願いをこめたメッセージが伝えられた。それは、“ゴールの切り方”といった表現で間違いないだろう。
館山氏から吉見へ「ケガに負けることはなかったんだと、最後に言えるように」―
館山:後輩のプロ野球選手が多くなってきて目指すべき存在として吉見という像はでかくなっていると思うんですよね。なので、そのまま突っ走って欲しいのと、これから野球を始める人、少年少女、他のスポーツでもこれからの選手に対して“ケガに負けることはなかったんだ”と最後に言えるように。結果が出なくなって辞めることができるっていうことは本当に素晴らしいことだと思うので。最後の最後まで戦い抜いて欲しいなと思います。
“吉見というプロ野球選手はケガに負けなかった”―。吉見一起のファンである筆者も最後のその時に、彼の口からこの言葉を聞きたいと強く思う。それが決して強がりではなく本音として。あの絶対的エースに“いいわけ”は似合わないからだ。
この秋、吉見は投球フォームの改造に試行錯誤を繰り返している。今季は主流となったメジャー仕様の硬いマウンドに対応できなかったとして、一時期は上半身を意識したフォームを模索していたのだが、「やっぱり下半身を使わないとダメ」と本来の持ち味を再認識。右足でプレートを蹴り、押し込む感覚を養っている。館山氏も吉見というピッチャーの良さを「(下半身と上半身の)連動性じゃないですか。下半身から持ってくる力がすべて投げたい所へ伝わっていくのが彼のいいところだと思います」と認めて新たな取り組みに背中を押した。
吉見は“結果が出なくなって辞める選手”であってほしいが、それはまだ当分先のことだと信じている。今回のコラムは吉見の決意の言葉を締めくくりとさせてもらう。
吉見:僕も1年1年勝負だと思っていますし、若いピッチャーもたくさん出てきているので焦りは正直あるんですけれども、なぜ野球をするのかということを常に頭の中に置きながら。後悔のないようにやっていきたいなと思います。
(このコラムを書いたのは・・・、「今週放送のように竜戦士一色ではなく他球団の選手との交流企画をもっと観たいなぁ~」と勝手な感想を抱いたサンドラ視聴歴約30年のアラフォーな竜党おっさん)